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カミソリのような切れ味と軽さ。ランボルギーニ・ウラカンLP610-4に試乗する

2015/02/22

ランボルギーニ・ウラカンLP610-4に試乗。

【試乗車の仕様】
試乗したのはもっともベーシックな(今はこれしか発売されていないので)「ウラカンLP610-4」。
標準仕様であるルーバーのリアハッチを持ち、ホイールは標準の鋳造製。
ボディカラーはグリージョ・ニンバス(メタリックグレー)、ウラカンのイメージカラーの一つでもあります。

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【スペック】
5.2リッターV10、610馬力。
ハルデックス5にて4輪を駆動します。
ブレーキはセラミックディスク、ホイールサイズは前後20インチ。
カタログデータでは0-100キロ加速は3.2秒、最高時速は325キロ”以上”。
トランスミッションは7速デュアルクラッチ。

フェラーリ458スペチアーレ、マクラーレン650Sと同等のパフォーマンスと価格帯で、同じくツインクラッチの7速を備えますが、エンジンについてはマクラーレン650Sのみがターボ、そしてウラカンのみが4輪を駆動します。

【外観】
全長4459、全幅1924、全高1165ミリ。
ミドシップスーパーカーとしては標準もしくはやや小ぶりともいえるサイズで、フェラーリ458スペチアーレ、マクラーレン650Sと大差ないサイズではありますが、わずかにウラカンは小さいですね。
このコンパクトともいえるサイズにフェラーリ458、マクラーレン650Sよりも大きなV10エンジン、そして4WDシステムを内蔵しているのはちょっとした驚きでもあります。
「折り紙」をモチーフとしたボディのデザインはシャープなエッジを多数持っており、直線的な印象。

なお、全高の1165というのはこのクラスでは非常に「低く」、フェラーリ458でも1216ミリ、アストン・マーティンV8ヴァンテージでは1330ミリ、ポルシェ911カレラで1305ミリ、マクラーレン650Sで1199ミリ。
1200ミリ以下というのはウラカンとマクラーレン650Sくらいで、フェラーリ458イタリアに比べても実に5センチも低いことになります。

そのためにフロントフードからフロントグラス、ルーフまでが連続した一本の線で描かれることになり、これがウラカン、ひいてはランボルギーニの大きな特徴にもなっていますね。
デザインとしては水平基調/六角形というところを強く意識しており、随所にそれが見られます。

なお、デザイン技術向上によって、より強力なダウンフォースを得ることができるようになっているとのことで、リアウイングが(ガヤルドのポップアップ式から)固定式に。
車体後部のデザインで言えば、「跳ね上げ」たようなリエアンドを持つウラカンよりも、なだらかに落ちてゆくガヤルドのほうが美しい、とは思います。

ほか、外装はパネル単位で取り外しが可能となっていることも特徴。
そのために破損時などは修理が容易だと思います(これは修理というよりも後に登場する派生モデルでの設計変更、GT3やスーパートロフェオなどモータースポーツ競技における作業性を考慮したものと思われる)。

ウラカンの外装で有名なのは「ドアハンドル」で、リモコンキーでのアンロック時にフラッシュマウントされたレバーが飛び出します。
このレバーは格納されているときも、(飛び出るのと反対側、六角のエンボスがあるほうを押して)起こすことが可能。

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【内装】
試乗車の内装は「エレガンテ」と呼ばれるテーマを持ち、ブラウンのレザー仕上げです。
もともとウラカンは内装のほとんどがレザー張りとなりますが、「スポルティーボ」というレッドなどビビッドなカラーとブラックとの2トーンで構成されるスポーティーなレザーとアルカンタラの仕上げ、「エレガンテ」と呼ばれるホワイトやブラウン系を中心としたシックな2つの内装テーマを持っています。
試乗車のレザーはややマーブルのような印象もある、今までのランボルギーニには無いものですね。

シートの表皮はさすがイタリアというか、ドイツ車とは異なる、しっとりとした非常に分厚いレザー。
薄いクッションながらもすわり心地と収まりの良い、立体的なシートです。

トピックは新開発のメーターパネルで、大型液晶パネルに各種情報が表示されます。
これは事前に画像や動画で見慣れていても、実際に目にすると「おお」と声が出てしまうほど鮮やかでグラフィカルなもの。

そのほか、エアコン噴出し口、スターターボタン、ニーレストまでもボディ同様に六角形(ヘキサゴン)をモチーフとしています。
全体的にはメカニカルな印象、テクノロジーを強く感じさせるデザインであり、無機的な印象ですね。
ランボルギーニは近年、こういった「デザインの統一」を進めており、それはガヤルドの後期型から顕著になっています。
まずはY型のデイライトやテールランプにはじまり、その後に登場したアヴェンタドールではさらに六角形をモチーフに積極活用。
今回のウラカンでは、小さなパーツに至るまで「六角形=ヘキサゴン」を意識したものとなっています。

なお、ステアリングコラムにレバーが無くなったのも重要なポイントで、ウインカーやワイパーのスイッチがステアリングのスポーク上へ移動。
パドルも大きくなっていますね(パドルに関してはガヤルドの方が繊細で好きだった)。

【ドライブフィール】

リモコンで開錠し、飛び出たドアハンドルを引いて分厚いドアを開けて室内へ。
この状態でブレーキを踏んで例の戦闘機のミサイルボタンのような赤いフリップカバーを開け、その下にあるスタートボタンを押すとエンジンがドカン!と目覚めます。
エンジンをかけたときのサウンドはガヤルド同様に巨大で、ぼくはガヤルドの所有を通じて慣れましたが、一般の人はかなり驚くレベルと思います。
いったんエンジンが温まるとアイドリング音は非常に静かで、ポルシェ・ボクスターよりも静かといって良いでしょうね。

再始動時など触媒が暖まっているときはさほど大きな音はしませんが、その日の一回目の始動などは、ガヤルド同様に、非常に大きな音が出るようです(試乗車はエンジンが暖まっていたので、さほど大きな音が出ない)。
このあたりはガヤルドも同じですが、CO2排出に配慮して強制的にエンジン回転数を上げて触媒を暖めるもので、だいたい50-60秒ほどで音は落ち着きます。

パーキングブレーキは電気式になっており、これを押して解除(メーカーによって引いて解除や、押して解除というように方式が共通でないのでいつも迷う)。
なお、電気式パーキングブレーキの動作音はなかなかメカニカルなもので、SF映画に登場するギミックを思わせます。

この状態でブレーキペダルをリリースすると、クリープを伴い発進。
ここ(クリープ)はガヤルドや、フェラーリ等ほかのスーパーカーとは異なるところで、「乗りやすさ」を意識した結果なのでしょうね。
VWアウディグループのブランドではポルシェもクリープを発生させますし、グループ全体としての考え方なのかもしれません。

これによって乗りやすくなった反面、スーパーカーらしさが失われたという見方もあるかと思いますが、乗りやすくなり車庫入れも楽になることは間違いなく、評論家にとってはともかく、実際に所有して車庫入れをしたり渋滞にハマッたりする可能性があるオーナーにとってクリーピングはありがたいと思います。

ステアリングホイールはガヤルドに比べてやや細くなった(操作感が軽くなったため?)ように思われ、断面も「真円」から異形になり、握った時に親指の付け根あたりにあたる部分がやや盛り上がった形状に。
話題のウインカーは左の親指で左右を操作しますが、これはバイクと同じなのですぐに慣れるでしょう。
ステアリングの重さはガヤルドとはまったく異なり、非常に軽いのにも驚かされますが、これもすぐに慣れます。※パラレルジオメトリ?によるものか、フロントタイヤは深くステアリングを切るとボリボリ音が出ます
なお、パドルはガヤルドやアヴェンタドールと同じく、ステアリングコラムに固定されています(ハンドルと一緒に回らない。シフトレバーを装着しない場合は、パドルを車体側に固定する必要がある、という法規を持つ国がある)。

通常は「オート」つまり自動で変速するようになっており、まずは通常モードである「ストラーダ」で車をスタート。
トランスミッションはガヤルドのシングルクラッチからアウディ譲りのツインクラッチになっており、これは大きく変化のあったところ。
まさにアウディのように、もしくはアウディ以上にスムーズな変速を実現しますが、走りだしてからの「滑り(半クラッチ)」は最小限に抑えられているようで、同門のアウディ、ポルシェに比べてもかなりソリッドな印象があります。

なお、ガヤルドは高回転時に変速を行うと、ガツン!と殴られたような衝撃とともに出力軸の回転方向に車体が持って行かれる傾向があったのですが、それが無くなっていますね。
ちなみにガヤルドのシングルクラッチならではの変速ショックは(フェラーリであっても)他の車には見られないもので、ぼくはあのショックが大好きでした。
その意味ではウラカンは非常におとなしくなっており、ちょっとさびしい気もします。

その代わりと言ってはなんですが、ウラカンには「バブリング」が備わります。
アクセルオフで「バリバリバリ!」というアレですね。
ポルシェにもバブリングが備わりますが、そんな甘っちょろいレベルではなく、車が壊れたんじゃないかと思うほど強烈な音であり、特に高回転からのアクセルオフでは甲高い炸裂音が響きます(低速ではブボボボボという感じの低音になる。高回転、高速のほうが音が甲高く大きくなる?)。
これはアニマによってストラーダから上のモード(スポーツ、コルサ)へ変更するとより顕著に。
ちなみにモードの変更によってアイドリング時の排気音も変化し、「スポーツ」ではより大きく太い音になります(ガヤルドではフラップが開くタイミングが変わるだけで、アイドリング時の音は変化しない)。
今のところ、ここまで強烈なバブリング音を出すのは他にジャガーFタイプRくらいだと思いますが、かなり刺激的な部分ですね。

サスペンションは当たりが柔らかく、ガヤルドに比べてダンピングが低く設定されているように思えます。
そのために非常に乗り心地が良いですね。
これはおそらく、オプションのマグネライドの装着を想定してのセッティングだと思われます。

ブレーキはカーボンディスクですが、幾つか世代を重ねるうち、非常に扱いやすくなっています。
ガヤルドLP570-4スーパーレッジェーラでは、最後に止まる時に、ブレーキローターをヤスリで擦るような、ザリッとした感覚を残しましたが、ウラカンのカーボンブレーキはそれを意識させず、スチールローター同様に扱うことができます。

全体的な印象として、ウラカンはガヤルドに対して何もかもが「軽い」印象。
ステアリングの操作感、サスペンションの動き、車の出だしや加速など。
ガヤルドは反面、ずっしりとしたステアリング、重厚な走り出し、強いダンピングの足回りなど、とにかく重厚感が感じられるフィーリングでした。

ガヤルドがズドンと対象をぶった切るナタだとすれば、感覚的にウラカンはスパッと対象を切り裂く「カミソリ」と言えるほど、両者には差があります。

ただ、ウラカンで面白いのは「それだけ軽いのにしっかり接地している」という印象があるところ。
軽いのに、どこかへ飛んでいってしまうというような感覚がなく、ビタリと地面に張り付きます。
そのためにアクセルを踏むと一瞬で法定速度に達しますが、速度感も非常に希薄で、ゲームの筐体やシミュレーターに座っているような感覚。
とりわけメーターが液晶であるため、より一層ゲーム的な感覚があるのでしょうね。
フェラーリやマクラーレンのような「運転している!」というフィーリングよりは日産GT−Rのような、どんなときでも完璧にフラットな姿勢を保ち、どんな操作に対しても正確に反応する、というところは4WDならではの特性なのかもしれません。

なお、ステアリングはナーバスなところがないのはガヤルドと同じ。
ポルシェの場合、987/997世代まではピクリと指が動いただけでも敏感に車が反応していたものですが、ガヤルドやウラカンはそられに上の速度域で走ることを考えているためか、そういったナーバスさを持ち合わせていないようです。
ウラカンではそれまでの油圧式から電動式のステアリングになっていますが、それでもダイレクトさは失われておらず、しっかりと操作には反応します(実際のところ、ステアリングフィールについては、ほとんど覚えていない。全く意識しなかったほど”自然”と置き換えることも出来る)。

エンジンは非常にシャープに吹け上がり、ガヤルドと基本が同じエンジンとは思えないほど(体感上はガヤルドの2割増くらい吹け上がりが速い)。
透明感のあるフィーリングで、とことん滑らかでシャープ。
不快な振動や淀みがなく、一気にスコーン!と回転数が上がります。
このあたりはフェラーリ458スペチアーレに通じるものがあるようにも思います。

加速中の姿勢は4WD特有とも言えるもので、路面に吸い付くような姿勢。前輪に引っ張られるかのような感覚はMRやFR、RRとも異なるところで、前後の挙動の変化(ピッチング)が非常に少ないので安心感がありますね。

ガヤルドの重厚な乗り味に対してウラカンは軽快と表すことが出来ますが、どちらも甲乙付けられるものではありません。
ウラカンの変速ショックの無いスムーズさを考えると、そこにガヤルドの重厚さを当てはめるのは違和感がありますし、ガヤルドのズドンとくる変速ショックの中に軽やかな操作感を設定するのはこれもまたイマイチかもしれません。
そう考えると、きっとガヤルドはガヤルドで正解、ウラカンはウラカンで正解なのでしょう。
さらにウラカンはインテリアもシャープで先進的なイメージもあるので、車から受ける印象、乗り込んで受ける印象、そして実際に運転して受ける印象が一致している、といえるでしょうね。

試乗を通して気になるようなところ、不安を感じさせるところ、異音(エンジン、駆動系、内装など)は感じられず、アイドリング含め非常に安定しており、信頼性の高さを感じさせるのも好印象。
ウラカンは「よりアウディ」っぽくなったかもしれませんが、それが良い方向に作用している、とぼくは考えます。

ちなみにぼくの私見ですが、タイヤ外径の拡大というのが自動車の乗り心地とスタビリティに大きく貢献しているように思います。
この先駆けは日産GT-R(現行)ですが、その後にフェラーリ458でも同様の大きな外径を持つタイヤを採用し、その後続々とマクラーレン、ポルシェ、そしてウラカン、という感じで続いており、これはスポーツカーにおけるトレンドとも言えますね。

そして、この外径のサイズアップは数値以上の変化を車にもたらしたと考えられ、もちろんタイヤだけの変更に起因するわけではありませんが、フェラーリF430からフェラーリ458、ポルシェ911(997)からポルシェ911(991)、987ボクスターから981ボクスターへのモデルチェンジの際に、驚くべき変化があったと認識しています。

具体的には当たりが柔らかくなり粘りが出たというイメージですが、段差越えの際にも身構えることはなくなり(あれっ?と驚くほど衝撃が少なくなっている)、上級セダンのような乗り心地を実現している、と思うのですね。

タイヤのキャパシティが大きくなると今度はサスペンションのセッティングにも自由度が出ると思われ、ぼく的には、タイヤの外径アップに関しては「近年のスポーツカーにおける革命」と言えるほどの影響があったのでは、と考えています。

もちろんウラカンもガヤルドに比べてタイヤ外径が大きくなっており、フェラーリF430→フェラーリ458、ポルシェ997→ポルシェ991、987ボクスター→981ボクスターへと変わったときと同じような乗り心地の変化を感じています(柔らかく粘りがある)。

どの車種でもモデルチェンジ後の車に対して同じ印象を持ったことを考えると、やはりタイヤ外径(すべての車の共通項)が大きく影響しているのかもしれないと思いますし、タイヤ外径の大型化によって今まで出来なかったことができるようになったのかも、と思います。

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【機能や構造など】

ガヤルド同様のアルミフレームをベースにしていますが、キャビンの後ろ半分とセンタートンネルはカーボン製。
「後ろ半分」を分けたことについて、これは同じグループのアウディがこれから(2015年のジュネーブ・モーターショーで)リリースする「R8」において、座席後部の荷物スペースを拡大したかったということがあるかもしれません。
ガヤルドとR8も兄弟車ではありましたが、2車ではホイールベースが異なるなど構造と性格がやや異なり、ウラカンと第二世代のR8においてはその差異をもっと明確にし、R8を安定志向のツアラーに仕立てよう、という計画があるのだと考えています。

レイアウトとしてはミドシップで、エンジンの後ろにトランスミッションがあるのもガヤルド同様ですが、ウラカンでは7速化にもかかわらずトランスミッション自体は短くなっているとのことで、重心はよりセンターに集まっていることになっていると思います。

なお、ガソリンタンクはドライバーとエンジンの間に位置しており、ウラカンはとにかく重量物を車体中心に集める構造となっていますね(同じミドシップでも、ポルシェ・ボクスターはガソリンタンクがフロントトランク内にある)。

上述のように全高が低く、かつコンパクトで、ミドシップエンジンマウントに加えてガソリンタンクまでミッドマウントし、その上でライバルよりも2気筒多い自然吸気エンジンを積み、さらに4WDというパッケージング、レイアウトは他に例を見ません。

4WDシステムはハルデックス5で、前後のトルクを自由に配分しますが、左右間のトルクベクタリングは非装備。
前後輪のトルク配分は0:100~50:50までの配分が可能です。

ステアリングは現代の例に漏れず電動パワステを装備。
車体が滑ったときにはカウンターステアの補助もしてくれる、とアナウンスされています(この車を滑らせるのは容易なことではないと思いますが)。
オプションにて「ランボルギーニ・ダイナミック・ステアリング(LDS)」が用意され、これは単体でステアリングの動作を切り替えるものではなく、もともと装備される「ANIMA(アニマ)=イタリア語で魂」と呼ばれるドライビングモード切替スイッチに連動し、その切れ角を連動させるもの。

アニマはステアリングホイール下のスイッチによって「ストラーダ(公道)」「スポルト(スポーツ)」「コルサ(レース)」のモード切り替えを行いますが、ストラーダではステアリングの切れ角に対しては小さく、逆にコルサではステアリングをちょっと切っただけでガクンとタイヤが切れるようになる、というものです。

その他、特筆すべきものはオプションですが「マグネト・レオロジカル・サスペンション」、つまりマグネライドの設定。
ランボルギーニとしては初の可変式かつマグネティック。サスペンションですが、これも上述のアニマに連動してダンピングが切り替わります。

車体制御については三軸ヨーレートセンサーを装備し、これによって車両の状況をモニタリングしながらトルク配分などをマネージするようですね。

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【総括】

簡単に言うとガヤルド登場時にも言われた「スーパーに行けるスーパーカー」。
ただしそのレベルはガヤルドよりも遥かに高く「毎日スーパーに行ける」レベル。
軽いステアリング、段差越えが気にならない程よく動くサスペンション、クリープがあって発進やバックが苦にならないイージーさ。
かつ、アクセルを踏むと4WDシステムでもって怒涛のように、そして矢のように加速する。
この性能でここまで運転が容易で、かつ気を使わずに済む車が他にあろうか?という感じですね。

これは開発担当者であるマウリツィオ・レジアーニ氏の「日常的な実用性を重視したことがウラカンの特徴」というコメントが示すとおりですが、加えてドライビングモード可変システム「アニマ」の操作、可変ステアリングや電磁ダンパーなどのオプションで過激なマシンにも早変わりするという二面性も驚かされるところ。

「日常性」を目指して開発したスーパーカーはたぶん他にないんじゃないか、と思われますが(もしかするとGT-Rがそうだったかも)、そこはさすがにランボルギーニ。
このクラスのパフォーマンスとしてはほぼMAXと言える、0-100キロ加速3秒程度、最高時速330キロ程度というスペックを持ちます。

ウラカンの性能としてはフェラーリ458スペチアーレ、マクラーレン650Sと同等となりますが、その考え方、ターゲットは「完全に異なるもの」と言えるでしょう。
フェラーリ458、マクラーレン12Cより後発になりますが、それだけ両者をよく研究しており、それらには無い方向性を追求しているように思います。

現在のところハイパフォーマンスカーの性能は高止まりしており、これ以上性能によって差をつけることが難しいため、各メーカーとも性能以外の付加価値を求めていますが、ランボルギーニの場合は「デザイン」。
上述のとおり、その低さや一本の連続するラインで構成されるシルエットが特徴ですね。
エッジの効いたシャープなライン、エクストリームなデザインもランボルギーニならでは。

体感上の「速さ」ではマクラーレン12Cのほうが速く(なので650Sはもっと速いだろう)、それはおそらくターボエンジンの急激なトルクの立ち上がりにあると考えられます。

そして運転しているという感覚、ダイレクト感においてはフェラーリ458スペチアーレの方が上だとも感じます。

では、ウラカンの優れたところは?というと、上述のデザインに加え、やはり「扱いやすさ」ではないでしょうか。
これだけのパワー、パフォーマンスを持ちながらも、おそらく誰にでも、気軽に扱えるというところが最大の特徴であると考えています。
一部では「扱いにくい車」=スポーツカーのような風潮もありますが、やはり車は扱いやすいに越したことはない、とぼくは考えているのですね。

ダッシュボードが低くフロントウインドウが低いので意外と見切りは良いですし、いったん前に出て横へ広がるドアミラーのおかげで後方視界も優れるほうだと言えるでしょう。
パワーの出方も自然で、その馬力からは信じられないほどのマイルドな出力特性(一定回転数からは猛烈に速く回転が上がりますが)。
かつ4WDで姿勢が安定しており、そのスペックから想像するのとはかけ離れた扱いやすさを持つ車です。

一方で、視覚的な刺激を満たすための内装やメーターなど、「走り」以外の部分にもかなりのコストが割かれている車でもありますね。
いかに走りが刺激的でも内装がまったく普通の車より、おそらくはほとんどのオーナーがサーキットを走ることが無いのであれば(SUVのようにほとんどのオーナーがオフロードを走らないのと同様)、普段走る環境においてどれだけ刺激を感じるか、ということになるのだと思います。
※ここでいう「刺激」とは乗りにくさや大きな排気音、ガチガチのサスペンション、狭い視界やタイトな室内ではない

そのために、乗る前から視覚的に刺激を与える、乗り込んで刺激を与える、走り出してからも(たとえそれが低速や渋滞中であっても)視覚に刺激を与える、という造りになっているのだとぼくは考えるのですね。
運転した感覚では日常性を持ちながらも、同時に操作する際は非日常性を感じさせる、という凝った仕掛けがある車、それがランボルギーニ・ウラカンです。

いくら走ることが楽しい車であっても、渋滞ではまったく面白くないというか苦痛しか感じない車もある一方、渋滞であってもスピードを出さなくても楽しい車、乗っているだけで雰囲気に満足できる車、というのも存在します。

ウラカンは後者の属性だと思いますが、それだけでは飽き足らないオーナーのためにマグネティックサスペンションや可変ステアリングをオプションで用意し、様々な要望に応えているとも言えますね。
もちろん純正で装備される「アニマ」も同様で、様々な状況に合わせて、オーナーに合わせて特性を変えることができるフレキシブルさがあるわけです。

それだけ「受け皿」が広く、色々な人の色々な使い方に対応できる懐の広さがある、と言えるでしょう。

これはフェラーリやマクラーレンのようにモータースポーツとくにF1をバックボーンに持たない時点で、両者のように「走り」で勝つことは難しく、であれば別の方向で、と考えた結果ではないかと思うのですね。

V10自然吸気エンジン、というのもその排他性の一つであり、ウラカンは競合メーカーと対抗するのではなく、「別の道を」行こうと考えたランボルギーニの考え方が如実に現れた車なのだと思います。
その意味では性能で選ぶというよりもコンセプトやそのエキゾチックさに惹かれて選ぶ車だとも言えますね。
もともと「速く走る」という目的を達成するだけであれば日産GT-Rがベストでもあり、コーナリングなど「操る」ことを考えるとアルファロメオ4Cがベストだと思います。

それでも、それらの3倍もの価格を出して(日産GT-Rとアルファロメオ4Cを買ってもまだ何かSUVが買える・・・)マクラーレン650Sやフェラーリ458スペチアーレ、このランボルギーニ・ウラカンを買うということは、「走り以外」の部分にお金を出している、とも言えるでしょう。

それはデザインであったりブランド価値であったりモータースポーツ活動であったり、というところになるかと考えますが、そこにどれだけ共感できるか、そしてその共感に対してどれだけのお金を払えるか、ということになります。

そこは人によってそれぞれの考え方・受け止め方があり、その意味ではランボルギーニの活動(ヴェネーノなど強烈なインパクトを持つ車の発表など)は他メーカーとは一味違い、それがランボルギーニの「価値」だとぼくは考えています。

そして、現在スーパーカーの購買層は変化しつつあります。
かつてはある程度のスキルを持った猛者が購入する乗り物であったと思いますが、ここ数年は中国はじめ新興国の人たちが「アクセサリー感覚」で購入するようになったり、北米でも西海岸を中心にファッション感覚で乗られるようになったこともスーパーカーにおける環境の変化と考えられ、それがスーパーカー市場に大きな変化をもたらした、とぼくは考えます。

かつては「黙して性能で語る」、つまり腕に覚えのあるドライバーが乗ればその性能がすなわち理解できる(限界まで攻めたからこそお互いが理解できる)という性質を持っていたものが、新興国などあまり運転経験の無いオーナーが増えたことで「車が経験の浅いドライバーに”わかりやすく”語りかけないと理解してもらえない」ようになったと思うのです。

よって、スーパーカーは数字上の性能(他社に負けない)を満たしていて、その上で運転しなくても一見して理解できる”わかりやすさ”が重要視されるようになってきたと考えられ、「限界性能」よりも「運転しやすさ」「デザイン上の排他性」「視覚による刺激」が重視されるようになってきたのでしょうね。

ランボルギーニはモータースポーツを背景に持たないので、よりそういった時代背景を敏感に感じ取ったと思われ、そのためにガヤルド後期(LP560-4)のプロモーションビデオは「セレブ」を意識したものにもなっています。

ウラカンはさらにそれを発展させたような形になりますが、ターゲットをスイッチしたことで「乗りやすさ」というキーワードを追求することができ、ターゲットが好むであろうデザイン的排他性を持たせることができたのだと考えています。

「これからの時代、そして購入者層を考えるとスーパーカーはこうなる」というひとつの形がウラカンである、ともぼくは考えますが、もちろんそれはメーカーの持つ背景や資産によって異なるので、これが他メーカーにあてはまるものではありませんが、現在のウラカンのセールスを見る限りでは「ランボルギーニにとっての」正解だったと言えるでしょう。

【ガヤルドとどう違うの?】

端的にいうと、下記のとおりです。

・基本的には同じレイアウトだが、全体的に再設計されている
・ガヤルドの後継(モデルチェンジ版)にあたるが、ランボルギーニは後継モデルでも名称を変更する(ガヤルド→ウラカン)
・同じ4WDレイアウトを採用するが、ガヤルドはビスカスカップリング(前後輪の回転差でトルク配分を行う=受動的でトルク配分は固定)が、ウラカンは電子制御で前後輪のトルク配分を示威剤に変化させる=能動的)
・トランスミッションがガヤルドのシングルクラッチ6速からツインクラッチ7速になった
・アルミフレーム構造は基本的にガヤルドと同じだが、ウラカンはキャビン後半がカーボンになっている。重量は10%マイナス、ねじり剛性は50%アップ
・サイドブレーキが電気式になったりヘッドライトがLEDになったりメーターが液晶になったり細かいところが現代風に
・エンジンは基本的に同じだが直噴とポート噴射切り替え式になり560→610馬力に向上
・ステアリングは電動パワステに。切れ角を変化させるオプションも用意
・アウディ由来のマグネライドもオプションで用意。サスやステアリング、出力特性などを総合的に変化、コントロールできるように
・ブレーキがスチールからカーボンディスクに
・タイヤ/ホイールが19インチから20インチに。タイヤ外径もアップ
・0-100キロ加速が0.5秒速くなって3.2秒に
・最高速はガヤルドと同じ時速325キロだが、実際は345キロくらい出るらしい
・全高はガヤルドと同じで幅が25ミリ、長さは100ミリくらい長くなっている
・サスペンション形式は見たところ同じっぽい
・リアウイングはリトラクタブル(昇降式)ではなくなった。上がらなくても十分なダウンフォースを得られるため
・乗り味でいうとガヤルドは重厚、ウラカンは軽快

これまでの試乗レポートは下記のとおり。
最新の試乗レポートはこちらにあります。

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