| メルセデス・ベンツが中国に情報を売り渡すことに? |
中国にて販売するメルセデス・ベンツ、ボルボ、アウディにアリババがクルマと家とをつなぐ情報技術、そしてAIを搭載する、との報道。
これはアリババ自身が開発したAI+Carシステムと呼ばれるもので、これによって人々はドアのロック/アンロックやエアコン、カーナビの情報入力、ニュースの表示などが可能となる(操作は主にボイスコントロール)、というもの。
アリババは個人データをどうしても欲しい
なお、メルセデス・ベンツやアウディ、BMWもそれぞれ同様の機能を持ちますが、自動車メーカー固有の技術ではなく、アリババがこれに代わって行う、というのが大きなトピック。
アリババによると、「自動車はもはや環境の一部で、自動車の中で過ごす時間はとても長い。よって、コネクティビティは今後重要な意味を持つ」とのこと。
「アリババ」について説明しておくと(今後世界は”アリババ”抜きでは語れなくなる)、中国での表記は「阿里巴巴集団」。
”集団”はいわゆる”グループ”意味ですが、漢字であらわすとなんとなく奇妙な感じも。
設立は1999年で、最初はB to BをつなぐサービスとしてスタートしてYahoo中国の買収(2005年)で一躍有名に。
その後もB to Cサイトやソフト開発会社を次々買収して一気に業容を拡大し、2014年の株式公開では「史上最大規模」の時価総額となって話題を呼んでいます。※以前に紹介した、自動車の自動販売機を設置するのもアリババ
なお流通業としてはウォルマートよりも販売額が大きく、現在「世界最大」で、創業者のジャック・マー(馬雲)氏はフォーブスの発表する長者番付では20位(アジアでは2位)。
集めたデータをどうする?
なお、ここでぼくが懸念を示したいのは、アリババが「集めたデータを何に使用しているか」。
アリババは第三者信用情報機関「芝麻信用」を保有していますが、これは「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」の5項目にて中国国民(人民)の点数を算出して評価を行うもの。
文字を見ても分かる通り、その人の社会的地位や経済力/資産、購入や支払履歴、交友関係、個人的嗜好までを数値化するもので、協力機関や警察など国家機関とも連動しており、その人を丸裸にできるほどの情報収集力を誇ります。
この数値は350点~950点で採点され、分類は下記の通り。
550-600:中等
600-650:良好
650-700:優秀
700-950:極好
これによってその人の生活が優遇されたり、逆に「制限」されることになり、優遇だとその一部は下記の通り。※基本的に中国は人民の信用度が低く、何をするにも保証金が必要
600点以上だと雨傘が無料で借りられる
650点以上だとEVレンタルの保証金が不要
650点以上だと色々なところで料金後払いが可能に
なお、Wallstreet journalによると、こういった評価は非常に細かいところでもなされ、「信号無視」は減点、「ネットでデマを拡散」も減点、逆に「ゴミを拾う」は加点、といった具合になる模様。
もう完全に管理社会ということですが、たとえばネットで「LO」を買ったりするとたちまち警察に踏み込まれたり大幅減点されたり、爆弾の材料になりそうなものを購入すると「テロ予備軍」としてマークされるのだと思われます。
加えて、そのクルマにのってどこへ行ったかも監視されるので、あまりよろしくないところへ行ったり、駐車違反をすると「また減点」、速度違反も「減点」、割り込みも「減点」なのかもしれません。
さらにこのスコアは各自で見ることができ(スマホでも確認可能)、販売もされているので、いろいろな企業がこれを利用可能。
すでに婚活サービスにも採り入れられており、「スコアが高くないと何もできない」社会になるわけですね。
アリババは芝麻信用の精度を高めるために「現金決済を一切無くす」という運動に取り組んでいるわけですが、今後は中国政府や公共交通機関もこのデータを活用するという話もあって、そうなるとスコアの低い人は「買い物ができない」「ネット接続制限」「航空機や列車の搭乗制限」が行われると報じられており(監獄に入っていない囚人みたい)、非常に恐ろしい世の中になりそう。
数字が個人の行動を制限する
つまり現在の中国では「誰が、どこにいて、何をしているか」が常に把握しているということになり、スコア次第ではその行動が制限されたり、逆に優遇されたりすることに。
加えてAIによって「その人の次の行動」が見張られているということで、一線を超えると一気に何もかも失ってしまうことになるのでしょうね。
なお、中国製の携帯電話やパソコンにはこういったデータを抜くソフトがインストールされていると言われ、これらの使用を禁止している機関や企業も。
メルセデス・ベンツもデータ提供に対して「断った」と以前述べていたものの、今回はなぜか「協力」することになっていて、これは筆頭株主が中国人になったこと(そしてその株主はボルボも保有している)と無関係ではないのかもしれません。
中国からはすでにGoogleも撤退し、さらにインスタグラムやTwitter、フェースブックも接続できない状態。
以前はVPN経由でこれを回避できたものの、最近では取り締りが強化され、VPNもあまり役に立たない状況です(あまりVPNを使っていると警察に逮捕されそうで怖い)。
とにかく自由が制限されている国ではあるものの、市場が大きいのも確かで、アップルは中国での販売を有利にするために「中国政府に個人データを開示することに合意した」とも言われますが、まさに「悪魔に魂を売った」ということですね。
あまりに日本とかけ離れすぎていて理解がしにくい(というか信じられない)ところもありますが、これが中国の現状で、今後さらに加速するのは間違いなさそう。