| 記録の達成に貢献したのはアクティブデフ「RSトルクスプリッター」 |
ハッチバック(スポーツバック)ではなくセダンを用いたのは重心の問題?
さて、ニュルブルクリンクには様々な「最速」が存在し、クルマのボディ形状やパワートレーンが細分化されるのに伴い、「ガソリン最速」「ハイブリッド最速」「EV最速」といった区分に加え、4ドアでも「セダン最速」「クーペ風セダン最速」「プレミアムセダン最速」といった具合に各社がそれぞれの言い分を主張している、という状況です。
そして今回、アウディはRS3セダンの7分40秒748というタイムをもって「コンパクトプロダクションカー最速」を主張していますが、この「コンパクトプロダクションカー」には(ニュルブルクリンクの公式な分類だと)「ハッチバック」も含まれており、ルノー・メガーヌRSトロフィーが記録した7分45秒38というタイムが5秒も短縮されています(しかし、いぜんFF最速はルノー・メガーヌRSトロフィーであることに変わりはない)。
記録達成はオプション装着にて
今回記録を達成したRS3セダンにはオプションのセミスリックタイヤ「Pirelli P Zero Trofeo R」、オプションのアダプティブRSスポーツサスペンションプラス、オプションの380mmセラミックディスクブレーキ(フロントアクスル)を装着。
走行した車両にカモフラージュが施されているのは「7月19日の(アウディRS3の)正式発表前に走行したから」だと説明されています。
なお、ニュルブルクリンクのタイム計測方法が2020年から変更となったのはすでに述べたとおりですが、今回のタイムは新方式によるものだと思われ、というのもニュルブルクリンクの公式サイトにもアウディRS3セダンのタイムが「7分40秒748」と記載されているため。
参考までに、これまで一般的だったのは「グランドスタンドT(ターン)13の終わりから計測を開始し、T13の始まりで計測を終了する」。
これは走行距離はちょっと(約232メートル)短くなるのでタイム計測的に有利であり、多くの自動車メーカーそしてカーメディアが採用する方法です。
ただし2019年にニュルブルクリンクGmbHは旧来の方法ではなく、「T13の同じところを計測開始と終了のポイントとし、この方法にて計測したタイムを公式として認定する」と制定して2020年に実施しており、現在のランキングには複数の計測手法が混在している、ということになります。※下の画像の「速い方のタイム」が旧来の計測方法による数字だと思われる
今回の記録達成にて、RS3が「コンパクトクラス最強」となったことが明らかになったわけですが、 搭載される5気筒ターボチャージャー付き2.5リッターエンジンは、欧州仕様で最高出力394ps(294kW / 400PS)、最大トルク500Nmを発揮し、7速デュアルクラッチのSトロニックトランスミッションと組み合わされて4輪へとパワーを送ることに。
0-100km/h加速はクラス最速の3.8秒、最高速度は290km/hにも達し、たしかにコンパクトカーとしては「とんでもないスペック」だと思います。
参考までに、このスペックに近いコンパクトセダンはメルセデスAMG CLA45Sで、しかしこちらはタイム非公開なので現時点での比較が難しく、ちょっと残念ではありますね(メルセデスAMG A45 Sだと7分48秒)。
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RSトルクスプリッターが大きく貢献
なお、アウディスポーツの開発ドライバーであるフランク・スティップラー氏によると、この記録達成に大きく貢献したのはアクティブデフ「RSトルクスプリッター(左右どちらかの車輪に100%のトルク振り分けが可能となった)」。
これはRSパフォーマンスドライビングモードとの組み合わせにより、「俊敏なドライビングの面で飛躍的な進歩」をもたらすと語り、ニュルブルクリンクの凹凸のある路面向けなど、特定サーキットに焦点を当てた設定を持つようですね(新型ゴルフGTIにも同様の設定があるというが、フォルクスワーゲングループは徹底してニュルブルクリンクにフォーカスしているようだ)。
さらにアウディRS3テクニカルプロジェクトリーダーのマービン・シュヴェッター氏は「チーム全体を誇りに思います。皆がこの日のために一生懸命働いてくれました。開発を始めたときは、このコンパクトなスポーツカーがノルドシュライフェで実際にどれだけ速く走れるのかわかりませんでした。しかし、耐久テストを重ねるうちに、非常に良いタイムが出せることがわかり、新記録を樹立することができました」と語り、そのポテンシャルが予想以上であったことについても言及。
ニュルブルクリンクではこんなセグメント分けを行っている
なお、上述の通り、「なんとか最速」という自動車メーカーの言い分とは別に、ニュルブルクリンクは明確にセグメント分けを行っています。
これによると「コンパクトカー(今回のアウディRS3が最速)」「ミッドレンジカー(ジャガーXEプロジェクト8が最速)」「エグゼクティブカー(メルセデスAMG GT 63Sが最速)」「SUV、オフロード、バン、ピックアップ(ポルシェ・カイエンターボGTが最速)」、「スポーツカー(ポルシェ911GT2RSが最速)」、「改造車( ポルシェ911GT2 MRが最速で、ニュルは911GT2MRを改造車とみなしている)」 「プロトタイプ(ポルシェ919ハイブリッドEVOが最速)」という区分。
アウディRS3が「ニュル最速」を記録する動画はこちら
参照:Nürburgring