| なお、搭載されるV12エンジンは後にマクラーレンF1に搭載される |
BMWが公式にて、1990年代に製作された「M8プロトタイプ」を公開。
現代の(2代目)8シリーズにはM8が存在するものの、初代8シリーズ(E31)にはM8が存在せず、しかしBMWが「M8発売の可能性を探るため」に製作したのがこのM8プロトタイプ。
ただし実際には「あまりに高価過ぎる」ということで市販化に至らず、よって初代M8として存在するのはこの試作車1台のみとなっています。
初代M8プロトタイプはこんなクルマ
そして初代M8ですが、見た目は8シリーズをとの共通点が多く、しかしフロントのリトラクタブルヘッドライトは(空気抵抗低減のため?)廃止され、かわりにヘッドライトはバンパー内に移動。
そのほか、クーリングを考慮した結果、フロントバンパー形状も大きく変更されています。
さらに、ボンネット上には「サメのエラ」風スリットが見えますね。
ボディサイドには冷却のため大きなダクトが設けられ(ミドシップではない)、サイドステップ形状も変更に。
リアバンパー形状も「専用」となっています。
意外ではありますが、フロントやリアにはダウンフォースを強化するための改良がほぼ見られないようですね。
左右テールランプの中間は「ブラック」。
ドアミラーはエアロ形状。
独自形状のミラーを装着するのは「Mの伝統」と言えるかもしれません。
ホイールはなんと(ディスク部が)カーボンファイバー。
当時としては相当に先進的だと思います。
ただしその中身はもっと特別だった
なお、このM8はフェラーリやランボルギーニなど「イタリアンスーパーカーに対抗するため」に企画されており、そのためにレース用の燃料タンクを装備するなど様々な改装が施されます。
ただ、最大のトピックは何といってもそのエンジン。
8シリーズ発売初期に用意されていたフラッグシップ「850i」にもV12エンジン(5リッター/300馬力)が搭載されていましたが、このM8プロトタイプには専用に製造された6リッターV12エンジン(640馬力)を搭載しています。
640馬力というと、ランボルギーニ・ウラカンEVOと同じ出力、そしてフェラーリ488GTBの670馬力に迫る数字であり、当時としては「途方も無い」出力であったということがわかりますね。※しかもBMW M8プロトタイプのエンジンは自然吸気
なお、このエンジンはわずか3基のみが製造されたそうですが、フロントからダイレクトに吸気を行うことでインテークマニフォールドの加熱(によって吸気が熱せられる)を防ぎ、つねに最適なパワーを発揮できるとのこと。
加えてドライサンプ採用によって搭載位置を下げることが可能となっていて、しかしその代償によりオイルクーラーはリアトランク内に(ここしか場所がなかった)。
ちなみにリアのオイルクーラーとエンジンオイルとのやりとりは「ルーフ内のパイプを伝って」行われるそうで、BMWのエンジニアいわく「このレイアウトは世界のどんなクルマも持っていない」とのこと(そりゃそうだろうな・・・)。
そしてスロットルバルブのかわりに装着されるのは「スロットルバレル」。
フルスロットル時には類稀なレスポンスを発揮するそうですが、これもBMWのエンジニアいわく「かわりにアイドリングは”災害”レベルだと言っていい」。
どういうことかというと、アイドリングは常に2,000~3,000回転を行ったり来たりすることになり、6リッターV12エンジンが停車中でもその回転数を発しているワケで、その騒音は推して知るべしといったところです(燃費も・・・)。
BMW M8プロトタイプのインテリアはこうなっている
そしてこちらはBMW M8プロトタイプのインテリア。
メーターやステアリングホイールは通常モデルと大きな相違はないものの、ダッシュボードやセンターコンソールはアルカンターラへと張り替えられていて、シートはフルバケットへ。
準レーシングカーといってもいいほどの作りを持ち、もし発売されていたらトンデモないことになっていたのかもしれません。
何故かその存在は20年も隠されていた
実際のところこのM8は「到底生産して販売するにはコストが見合わない」と判断されることになりますが、市販化されなかったのには「リアトランクが使えない」「頭の上を熱いオイルが通る」「アイドリングが2000-3000回転」というところにも理由があったのかもしれません。
そうやってM8はBMW自身によって封印されることになり、それが解かれるのはなんと20年後の2010年。
さらにその10年後、今回BMWはM8をレストアし動画にて公開したワケですが、なんとも数奇な運命をたどったクルマだと思います。
参考までに、このM8に積まれたエンジンは5.7リッターに縮小されて1994年には850CSi(381馬力/S70B56型)に搭載されたほか、さらにチューンされてマクラーレンF1用として供給されることになります(6.1リッターのS70/2型、出力は627馬力)※BMW M部門によって開発されたエンジンは”S”が頭につく
そう考えると、M8の試作は「全くの無駄ではなかった」のかもしれませんね。
世界に一台、BMW M8プロトタイプを紹介する動画はこちら
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