話題の日産ノート e-POWERに試乗。
同じ日産のEVであるリーフのモーターを積み、そのモーターで走るEVになりますが、モーターを駆動するための電力はガソリンエンジン(1.2L)にて行う、という変則(反則)EV。
ガソリンエンジンそのものは駆動(走行)には使用できず、駆動は完全にモーターのみとなりますが、モーターの発生するトルクは2リッターターボエンジン並み、燃費はリッター37.2キロという強力なスペックを誇ります。
加えて価格はプリウスに比べて70万円ほども安い設定となっており、2016年11月単月の販売ではトヨタ・プリウス、ホンダN-BOXも退けてなんとリーフ初の第一位になるという快挙を成し遂げるなど(リーフ販売の80%はe-POWER)、各方面にインパクトを与えた車でもありますね。
※日産が1位を奪取したのは実に30年ぶりらしい
ガソリンエンジンで発電を行うということで100%クリーンエナジーというわけではありませんが、その分「充電切れ」の心配はなく、ガソリンタンク容量は41リットルなので、理論上は一回ガソリンタンクを満タンにすると1500キロも走行可能、ということに。
通常のEVだと充電スタンドから充電を行う必要がありますが、これは時間がかかること、自宅にスタンドがないと不便なこと、しかし自宅にスタンドを取り付けることができる環境にある人はさほど多くはない(特に都心部)ということがあり、そう言った理由で普及が進まなかったEVの「壁」を完全に取り壊したのが画期的、と言えます。
加えてハイブリッドではないのでガソリンエンジンを駆動力に変換するためのコンポーネント(トランスミッションなど)が不要になり、その分車体が軽くなってコストが抑えられ、かつ外部から充電を行うわけではないのでバッテリー容量も小さくて済み、これもまた軽く低コスト化に貢献することに。
そう考えるとハイブリッドは一体なんだったんだという感じですが、とにかくそれくらいの衝撃がある車、と考えて良さそうです。
とりあえずここで試乗車のスペックを見てみましょう。
全長/全幅/全高 4100/1695/1520
重量 1220キロ
燃料消費率 リッター34キロ
駆動方式 FF
発電用エンジン 直列3気筒 1198cc
モーター出力 95馬力
価格 2,207,520円〜
スペックとしては至って普通ですが、問題はその価格。
フィット・ハイブリッド(燃費33.6 km/l、1,599,000円)、トヨタ・アクア(燃費37.0 km/l 、1,887,500)よりも高価にはなりますが、ノートの方がやや車体が長く、ユーティリティは上。
しかもハイブリッドではなく「EV」という新規性があり、現在のところ非常に強力な競争力を持っていると言えますね。
実車においてもそれは同じで、実際目にすると結構高級感のある作りはフィットやアクアよりも明らかに格上と感じさせます(ただしこれまでノートは売れていたわけではなく、フェイスリフトとe-POWERの追加で突如販売が向上しており、車格やデザインは今回の人気とは無関係?)。
とりあえず試乗に移りますが、内装の質感が意外と高く、先日試乗したインプレッサとともに驚かされる部分。
日本車もこのレベルなのであれば欧州車を選ぶ理由は「ステータス」以外にはあまり見出せず、日本車も十分に「アリ」だと実感させられますね。
ブレーキペダルを踏み、ステアリングコラム左下の「スタート」ボタンを押してエンジンスタート。
この時点ではガソリンエンジンが始動し充電を開始していますが、この時点での雰囲気的にはガソリン車と全く同じ。
異なるのはシフトレバーと充電状況を表すメーター程度になりますが、走り出してもやはりガソリン車と同じような雰囲気です。
というのもずっとガソリンエンジンが動いており、その音と振動を感じるので走っていて「EV」という気がしないのですね(むしろガソリンエンジンで走っているような錯覚に陥る)。
ですが実際に駆動力を発生させているのはガソリンエンジンではなく「モーター」というこれまた奇妙な感覚。
ドライブモードは三つあり、ノーマルと「S」、そして「エコ」。
ノーマルだと回生がさほど強くなく、運転していてもガソリン車との差異を知るのは難しいと思います。
ようやくEVだと理解できるのは充電が完了して発電用エンジンが停止した時で、その際の静かさでやっと「これはEVなんだ」と気づかされることに。
とにかく運転した時のフィーリングが自然であり、EVと言うよりは「単に燃費の良い車」としてすんなりガソリン車がら移行できそうですね(ここは日産の狙ったところかもしれない)。
なお「S」モードでは加速が鋭くなるのと回生が強くなる仕様ですが、メディア試乗会で言われているほど回生は強くない、と感じます。
これはぼくが(回生の強い)BMW i3に乗っていることもありますが、それを抜きにしても違和感はなく、ちょっと強い(と言ってもそんなに強くない)エンジンブレーキ程度。
「エコ」モードでは加速は緩く、そして回生はSモード同様に「強め」。
これでもやはり、「ワンペダル」で走行を完結させるにはもうちょっと回生を強くした方が良いのではと思ったりしますが、BMW i3はその回生の強さがよく指摘されるので、ノートe-POWER程度の回生の強さが「ちょうどいい」のかもしれません。
なお「ちょうどいい」のは足回りやブレーキ、ハンドリングも同じで、それぞれの操作に対して反応は大きくも小さくもなく、路面からの入力に対しても過剰でもなく鈍感でもなく、まさに「ちょうどいい」感じ。
e-POWERというドライブトレーンだけではなく、車としての基本性能も非常に高いレベルにあると断言できます。
ちなみにぼくの認識している「よく高速道路をぶっ飛ばしている車」の上位に日産ノートがランクインしており、この足回りやブレーキ、ハンドリングだと「当然ぶっ飛ばせるわけだ」、と改めて納得。
内装においてはチープさは感じられず、しかしホンダのように先進的すぎるわけでもなく、ここでも「ちょうどよさ」を発揮。
全般的に見て、車の挙動につきドライバーが(操作に対して)期待する、予期するものと一致した反応を示す車で、これは非常に安心感のあるところ。
これはトヨタやスバル、ホンダでも感じられないもので、こういったところが「日産ならでは」と感じます(そしてぼくは日産のこういった部分が大好きで、そのために過去数台日産車を乗り継いでいる)。
EVとしての新規性、インターフェース、ドライブフィールを期待すると裏切られる可能性がある車ですが、「ランニングコストの安い、しかし比較的性能の良い、安全性の高い車」として考えると非常に高いレベルにある車。
そのため、車に「何を求めるか」にもよりますが非常に魅力的な選択肢で、実際にBMW i3の次はノートe-POEWRがいいかも、と考えているところです。