| 水冷ポルシェ911Tではリアに59%、水冷世代の997ではリアに61%の荷重が乗っている |
さて、水冷世代からポルシェに入ったぼく(それでもポルシェ歴は20年になった)が空冷ポルシェを運転してみるシリーズ、今回は「911T」。
この911Tは1971年製とのことで、およそ今から50年も前に生産されたクルマだということになりますね。
もちろんこのポルシェ911Tはいつもお世話になっているポルシェゲート大阪さんからお借りしたもの(3時間36,000円)。
「空冷ポルシェに乗ってみたいが不安」という人には「乗車前レクチャー」のほか「同乗レクチャー」も有料にて用意されており、はじめて空冷ポルシェに乗る人でも安心して借りることが可能です。※ぼくは986S、997とあわせてマニュアル・トランスミッションのポルシェに7年乗ったが、それでも最初は不安があったが、ちょっとコツを教えてもらうとずいぶん気が楽になる
ポルシェ911Tはこんなクルマ
このポルシェ911Tは1971年製の「901型」であり、いわゆる初代911ということに。
搭載されるエンジンは2.2リッター、この個体は5速トランスミッションを搭載しています。
そしてこの世代の特徴は「ナロー」ボディを持つということ。
ボディサイズは全長4,160ミリ、全幅1,610ミリ、前高1,240ミリとかなりコンパクトであり、車体重量はわずか1,110キロにとどまります。
フロントはこれ以降の911にずっと受け継がれることになる「カエル顔」。
タイヤは現代の基準からすると「かなり細い」サイズです。
ホイールはこれも後世にまで受け継がれる「フックス」ホイール。
エンジン周辺にはほぼ補機類がなく、すっきりしていますね。
ちなみにリアサイドウインドウは開閉可能。
ポルシェ911Tのインテリアはこうなっている
こちらは911Tのインテリア。
インテリアカラーはブラック、そしてルーフ内張はベージュです。
メーターはこれも現代にまで続く「5連」。
「水平」基調のダッシュボードも最新の911にまで受け継がれる意匠ですね。
シートやドアインナーパネル、ルーフなどはパンチング加工風のビニールレザー。
トランスミッションは5速ですが、リバースが左上、その下が1速、そしてニュートラルの上が3速、ニュートラルの下が4速、右上が4速、右下が5速(ストロークはかなり長い)。
ポルシェ911Tで走ってみよう
そこで早速ポルシェ911Tで走ってみようと思います。
もちろん「あの」キレの良い金属音とともにドアが開閉し、これだけでも「空冷ポルシェに乗る」という気分が盛り上がります。
シートに腰を下ろして思うのは、「けっこうフカフカで柔らかい」ということで、けっこう意外でもありますが、930世代あたりまでの特徴なのかもしれません。
そしてちょっと面白いのがシートベルトで、これは当時まだ「巻き取り式」がなかったのだと思われ、その長さの調整が「アジャスターで行う(バッグのベルトの長さ調整のような感じ)」こと。
そしてバックルも現代のポルシェとは異なり、差込方法こそは同じですが、リリースにはボタンではなく「レバー」を使用します。
その後はペダルとシフト、ミラー類の確認。
ペダルはクラッチ、ブレーキ、アクセルともに吊り下げではなくオルガン式となっていて、よってこの感触とシフトフィールを確認しておかねば、シフトチェンジの際に焦ったり、ブレーキを踏んだ時に「あれれ」となることも。
なお、ミラーは手動調整式ですが、なかなか良い角度に決まらず、しかし「背の高い人」であればしっくりきそうなので、この個体は欧米仕様なのか、もしくは日本仕様であっても当時のポルシェは「日本向けに調整を行っていなかった」のかもしれません。
そしていよいよエンジンスタート。
ただし現代のクルマのようにサクっと始動というわけにはゆかず、キーをいったんACC位置に回して止め、その後5秒ほど待つことに。
そこから2〜3回ほどアクセルペダルを踏み込んだのちにイグニッションキーを回してエンジンに火を入れるのが「作法」のようですね。
そしてエンジンを始動させたのちはいよいよスタートですが、この個体はけっこうクラッチが奥の方で繋がるようで、なかなかにコントロールしやすい、という印象です(手前の方で繋がる個体だと、けっこう苦労することがある)。
そしてすこし走ってみて改めて感じたのが「回転落ちの速さ」。
911Tはギア比が全体的にローギアードな設定を持つと見え、1速でけっこう引っ張ったのちに2速へ入れないと「後ろの車に追突されそうに」なることも。
つまり1速でスタートしたのち、すぐに2速にシフトアップしようとすると「速度が乗っておらず」シフトチェンジの際のタイムラグによって車速がさらに落ちるので、そこでちょうど加速してきた後続車との距離が詰まってしまうわけですね。
最近のドライバーはシームレスに加速してゆくAT車に慣れており、かつ周りの車も同じように(シームレスに)走ると考えているので、まさか前を走るクルマのトランスミッションがマニュアルで、変速時に失速するとは考えてないのだと思われます。
加えて、この世代の911のマニュアル・トランスミッションは「1速から2速へ」といきなり変速できず、「1速からニュートラル、一息置いてニュートラルから2速へ」とシフトアップすることになるのですが、この「一息」の間に速度とエンジン回転が落ちることになるので、それを見越して1速でけっこう引っ張る、ということに。
そうなると、側から見て「あの古いクルマ、頑張ってるな・・・」と思われることになりそうですが、それでもやはり安全性を考慮するならば1速のまま引っ張るしかなさそうですね。
ただ、これを回避するためには「ニュートラルに入れた時にアクセルをあおって回転数を維持する」という方法もあるものの、かつてマニュアルのポルシェに乗っていた頃ならいざ知らず、現在の「すっかりナマってしまった」ぼくにそういった芸当ができるはずもなく、よってレンタル中は「1速でひっぱり、そこから2速へ」を繰り返しています。
911Tはオーバーステア?
ハンドリングについては、「パワーステアリングなし」にもかかわらず現代の911よりも操作感が軽く、そのために軽快感た強いという印象。
ただ、アンダーステア傾向が思ったよりも強く、これはもしかすると「オーバーステア傾向にすると、簡単にスピンする(もしくはテールリバースを誘発する)」からなのかもしれません。
ただ、違和感があったり運転しにくいという印象はなく、一瞬「おや」と思っただけで、その後はすぐに慣れてしまうレベルです。
そしてハンドリングについてもう一つ思うのが、「さほどテールへビーではない」。
車検証を見ると、911Tの後輪にかかる荷重は650キロで、比率にすると59%。
ちなみに以前に乗っていた997世代の911カレラ(MT)では61%(900kg)なので、比率、実際の重量ともに997のほうがリアヘビーということになりますね。
重量についてはともかく、比率でも997のほうがリアヘビーというのはちょっと以外な事実であり、というのも水冷化されることでフロントにラジエターが設置されるなど「前後重量配分が改善される可能性が高い」とぼくは考えていたため。
ですが実際には水冷世代の方がリアヘビーであり、たしかに997では、歩道を越えて車道に出る際など、段差からリアタイヤが落ちると「ドスン」というとんでもなく重いものが落ちるような感覚があり、下りのカーブ、高速コーナーではリアが「前に」出ようとする傾向が強かったとも記憶しています。
ポルシェ911Tは運転しやすく快適なクルマ
そしてしばらく走ってみて思うのが「ポルシェ911Tは非常に運転しやすく快適なクルマ」ということ。
その根幹にあるのが「車重の軽さ」にあることは間違いなく、しかし現代の911は様々な規制や基準のためにその軽さを失ってしまうこととなっています。
ただ、ぼくはけして空冷礼讃なわけではなく、近代の911には空冷にない良さがあり、空冷にも水冷911が失ってしまった良さがあると思うのですね。
つまり911は時代に合わせて正しく進化し、しかしいずれも「紛れもない911」であるために各世代の911が今も路上を走っているのかもしれません。
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