一番衝撃的なのは足回りだった
レクサスのフラッグシップセダン、「LS」に試乗。
グレードは「LS500h バージョンL」、後輪駆動となります。
LS500hには後輪駆動モデルとAWDとがあり、それぞれに上から”EXECUTIVE”、“version L”、
“F SPORT”、“I package”、”ベーシックグレード”が存在。
競合するのはメルセデス・ベンツS400h(1123万円)、BMW 740e iPerformance(1066万円)、アウディA8 3.0 TFSI quattro(1129万円)あたりだと考えられます。
レクサスLS500hってどんな車?
”レクサスLS”はレクサスのフラッグシップとなるサルーンで、現行モデルで「5代目」。
初代は1989年にトヨタが高級ブランドとして立ち上げた「レクサス」の看板モデルであり、当時は日本で「セルシオ」としても販売されたもの。
この初代レクサスLSに乗ったポルシェのエンジニアに「こんな車を作りたかった」と言わしめたことは有名で(その後”パナメーラ”でそれは実現することに)、メルセデス・ベンツをはじめとするジャーマンスリーにとっても、それ以降の車作りについて考え方を大きく変えさせるきっかけとなった車。
一番の衝撃的は「乗り心地の良さ」で、それまで欧州の自動車メーカーのサルーンは「いかにサルーンであってもドライバビリティを全面に」押し出している場合が多く、とくにBMWではこの傾向が顕著。
よって、ある程度の排気音や振動が室内に(インフォーメーションとして意図的に)入ってきたり、足回りが硬かったりしたものですが、初代レクサスLSはロールスロイスよろしく「外界と切り離された」かのような静粛性や快適性が大きな特徴。
これが欧州自動車メーカーに大きなショックを与えた、と考えられます。
実際のところ欧州自動車メーカーはレクサスLSをある種のベンチマークとした車をつくり出し、その後追われるものの常として、レクサスLSの優位性はやや薄れてきたかのように(ぼくには)見え、そしてレクサスとしてはここしばらく「今後どうやってジャーマンスリーと戦ってゆくか」について悩んできたかのようにも思えます。
今回のレクサスLSはその「回答」であり、初代LSで見せたような「新しいサルーンのあり方」を見せてくれるのではないか、という期待を感じさせる車でもありますね。
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レクサスLS500hのスペックを見てみよう
レクサスLS500hの主要諸元は下記の通り。
非常に大きな車だということがわかりますが、ジャーマンスリーのフラッグシップサルーンと比較しても引けを取らないサイズだと言えます。
価格:1460万円
エンジン:3.5リッターV6(8GR-FXS) 299馬力
モーター:180馬力
駆動方式:後輪駆動
サスペンション形式:前後マルチリンク
※詳細はレクサスLSのサイトにて
なおプラットフォームは「GA-L」で、これはLCと同じもの。
LC500発表時には「LF-Aを超えるボディ剛性を持つ」とも言われたほどなので、申し分のないポテンシャルを持っていることも想像できますね。
レクサスLS500hの外観を見てみよう
レクサスLS500はおなじみレクサスのデザインフィロソフィ、「L-finesse (エル・フィネス) 」に則ったもの。
やはり特徴的なのはスピンドルグリルですね。※右はLS500 Fスポーツ、左はLS500h エグゼクティブ
ヘッドライトは「三眼」で、各ユニットの造形はさらに複雑に。
三眼プロジェクターから流れるようなラインも。
テールランプはおなじみ「L」モチーフ。
ただし内部構造はより複雑に。
スピンドルグリルのメッシュはより複雑に。
LC500ではその設計に数ヶ月を要したとされますが、LSでも負けず劣らずのデザインを持っています。
レクサスによるとCADの匠(TAKUMI)が線一本、面一つに至るまで綿密にデザインした、とのこと。
なおナンバープレートを取り付ける台座も3D形状を持っており、すそ広がりな形に曲線を描いています(こういった形状を持つのはレクサスの他にはないと思う)。
グリル脇にはちゃんとエアを導くためのガイドが。
スピンドルグリルは「ボディ(バンパー)の下部分からエアを取り入れることができるように」末広がりのデザインを採用したという機能的な理由があるそうですが、それを証明するかのような構造ですね。
レクサス初の「6ライトキャビン」。
ただし窓枠(サッシュ)が目立たないようにフラッシュサーフェス化されています。
これによって視覚的な連続性を得られますが、高速走行時の風切り音も低減できる、という機能上のメリットも。
そしてブラインド(スクリーン)は6ライトキャビンの小さな窓にもちゃんとある!
ブレーキキャリパーはかなり巨大。
ローターはフロント2ピース、リア1ピース。
形状を見るに軽量化に配慮したこともわかります。
ホイールはLC500でも用意された、走行中のタイヤ気柱共鳴音を低減する「中空レゾネーター構造」を持つノイズリダクションアルミホイール。
ランプ類が立体的なのもレクサスの一つの特徴ですが、テールランプ脇には空力を考慮したのか「ちょっとした出っ張り」も。
足回りは相当にお金がかかっていそうだ!
ドアハンドルもかなりこだわったであろう部分。
多くのメーカーがこういったクロームの加飾を用いているものの、多くは「上下の色を分けただけ」の中でレクサスはこの部分にもデザイン的な配慮を行なっています。
レクサスLS500hのインテリアを見てみよう
レクサスLSの一つの特徴は「琴」や「茶道具の茶せん」からヒントを得たという流れるようなライン。
端は広く、中央は狭くなっており、レクサスはこういった「疎密」をデザインに取り入れることが多いようですね(外装においては”つまんだ”ような形状が多い)。
ステッチにも力を入れており、「ピッチが細かい」ステッチは「匠」によるもの、とのこと。
ピッチについて、通常は5ミリのところ「3.5ミリ」となっているそうです。
厳選された素材を使用する他、革と革との継ぎ目を滑らかにするために「縫う前に革を叩いて柔らかくする」といった手間がかけられたシート(ドア内張も)。
確かに見ただけで「あっ、このシートは柔そうだ」と感じます。
レクサスLSのスイッチ類は鈍い輝きを持つチタン風のダーク調メタリック仕上げパーツが用いられていますが、これはなかなか高級感のあるもの。
シートの調整スイッチやウインドウ開閉スイッチ、ウインカーレバー、シフトレバー他、随所に見られます。
ウインカーレバーや各種セレクターにも同様の加飾。
中央の液晶ディスプレイ。
ルームミラーはカメラ式。
オーディオ操作部のパネルはブラシ仕上げのアルミ製。
まさに「高級オーディオ」のフェイスパネルのようですね。
レクサスがこだわったというドアオープナー、そして葉脈をモチーフとしたパネル。
なおウッドパネルは「アートウッド」と称されるもので、実際の木材をスライスして積層したものに角度をつけて再度スライスしたもの。
レクサス曰く「この柄は自然界にない、レクサスのオリジナル」だとしています。
レクサスLS500hで走ってみよう
さて車に乗り込んでシートとミラーを合わせますが、ルームミラーは「カメラ」なので角度合わせの必要なし。
ここでふと気づくのがシートのあまりの自然さで、「柔らかい」とも「硬い」とも感じさせない「ちょうど良さ」。
たいていのシートは「柔らかかったり」「硬かったり」という何らかの印象を与えるものですが、これだけ「何も感じさせない(つまり全く違和感なくフィットしている)」シートは非常に稀だと言えます。
ブレーキペダルを踏み込んでエンジンをスタートさせるときに気づくのが「ボタンの高品質な加工」。
ここは必ず操作する部分なので、実際に自分の車として所有したとき、始動のつど満足感を得られる部分だと思います。
音楽とアニメーションによる「ウエルカムシークエンス」が終了するのを待ってシフトレバーを「D」へ入れ、アクセルを踏んでパーキングブレーキを解除しゆっくりスタート。
とにかく走り出しが「滑らか」なことには驚かされますが、その静かさも特筆もの。
エンジンの発するノイズやバイブレーションを伝えないのは当然で、ドアやルーフ、ガラスの遮音性が高いと見え、車外から車を路上へと誘導してくれるディーラーの人の声(口が動いているので「OKでーす」という感じで何かしゃべっているのは間違いない)が全く車内に届かないほどであり、ここまで外部の音が入らない車も珍しい、と思います。
ディーラーから路上へ出る際の段差越えでも全く衝撃や車体が揺すられる印象はなく、フラットな姿勢を保ったまま走行開始。
エンジンは3.5L/V6で、これにモーター+自動変速機(これまでの2速から4速に)を持つハイブリッドシステムを組み合わせており、踏めばグイと出る力強さがありますね。
走行を始めてもロードノイズやエンジン音が車内に入ってくる気配はなく、室内は静寂そのもの。
そのために隣に座るディーラーの担当さんと話すにも「通常より声のトーンを落とさなくてはならない」、つまり小声で話さなければ声が大きく聞こえすぎるほど。
これまでのLSのイメージから足回りはもっと「フワフワ」しているのではと想像していたのですが、意外や「どっしり」した印象で接地感が高く、ステアリングのセンターもビシッとしていて安定性も高い、と感じます。
新型レクサスLSは「走る・曲がる・止まる」を統合制御するVDIMなるデバイスが装備されますが、これはトラクションコントロールや可変ステアリング、ブレーキなどを速度や状況に応じて調整してくれるもの。
このためか、非常に大きな車であるにもかかわらずかなり取り回しが楽だという印象を受け、とにかく「乗りやすい」というのがLSの印象。
加えて現時点で「世界最大の表示面積」を持つとされるヘッドアップディスプレイも秀逸で、道路標識をカメラで認識して告知してくれる「ロードサインアシスト」や、歩行者がどこからか出てきそうな時は「歩行者注意喚起」、車の前を何かが横切りそうな時は「フロントクロストラフィックアラート」としてヘッドアップディスプレイ上にアニメーション表示(矢印が流れる)も。
こういった表示が「ワザとらしく」行われるのではなく「自然に」行われるのがレクサスらしいところで、上述の車両制御システム「VDIM」も全く介入がわからないほど。
この辺りはドイツ車とはちょっと異なるところであり、日本車ならではの「奥ゆかしさ」も感じる部分もあります。
そのほか「レクサス・セーフティシステム+A」に基づく安全装備はまず申し分のないレベルとなっており(十分すぎるほど)、様々な場面で役に立ってくれるのは間違いなさそう。
そして「ブレーキ」も特筆すべき部分で、減速Gを感じさせないまま「ごく自然に」減速する不思議なフィーリング。
加えて減速したのち「ピタリ」と止まる際の感覚がなんとも不思議で、ここまで何も(減速Gや衝撃を)感じさせずに完全停止する車もそうそうない、と思います。※どんな車でも完全停止直前には多少なりとも衝撃がある
おそらく「これほどまでに快適な減速ができる」のはレクサスLSをおいて他になく、どれだけ雑にブレーキを踏んでみてもマイルドに、しかし狙ったところでピタリと止まる、という印象ですね。
ドライブモードは「エコ」「ノーマル」「コンフォート」「スポーツS/スポーツS+」「カスタム」で、モードに合わせてメーターコンソール内にあるセンターメーター(液晶)の表示も変化。
ガソリンエンジン+モーター合計で479馬力もあるためパワフルこの上ない印象ですが、ここでモードを「スポーツS+」に変更して走行して見ると、まず気づくのがサウンドの変化。
エンジンはV6ですがアメリカンV8のようなパルスを伴う音が車内に入ってきて気分を盛り上げてくれます。
しかしながら振動は全く入ってこないので快適性は一切損なわないままで、これが結構「楽しい」と感じさせるに充分。
レクサスLSは快適すぎて「自分で運転するには楽しくない車なんじゃないか」と予想していたものの、実際は運転していてかなり楽しい車で、「もっと運転していたい」とすら感じさせる車だと言えますね。
結局レクサスLS500hはどうなの?
簡単に言うと「電子デバイスがてんこ盛りで、車体の全てを電子制御しているのに、全然それに気づかせない」のがレクサスLS。
おそらくは購入する層を考えたときに面倒な設定などが負担になると考え、単にアクセルを踏んで、ステアリングホイールを切って、ブレーキを踏めば「走る・曲がる・止まる」がしっかりできる車にしたんじゃないかと思います。
そのため、シートや操作系、視界、インターフェース全てにおいて「ストレスのない」車でもあり、しかもストレスがないことすら感じさせない車。
それは上述の通り「シートの座り心地」にも現れていて、「自然なことにすら気づかないほど自然」というレベル。
反面、運転していて楽しくない車なのかと言うとそんなことは全くなく、ビシリと安定していてしっかりしたフィードバックを返してくれるステアリング、踏めば瞬時に加速するエンジンとハイブリッドシステム、意図したままに減速できるブレーキなど非常に高い基本性能を持つ車でもありますね。
そしてそれらにおいても「性能の高さを誇示するようなことはなく」、あくまでもドライバーの操作に対してしっかり反応するという「主と従」の関係をしっかりわきまえた、出来のいい従者といった印象。
決して車が出しゃばりすぎることはなく、主役がドライバーであるとはっきりした車だとも思います。
加えて高い安全性能を持ち、運転支援システムも同様。
何も考えずにただ「ブレーキとアクセルとステアリング操作を」していればいい車であり、安楽なことこの上ない、という印象でもありますね。
おそらく、この車にしばらく乗って他の車に乗り換えたときになって初めて「新型LSがどれほど優れた車であったか」を改めて知ることになろうかと思いますが、よく出来すぎて乗っている間にはそれに気づかない(よく出来た恋人みたいなもので、別れて初めてその良さがわかるみたいな)車だと思います。
※他の画像はFacebookのアルバム内に保存しています
今回LS500hを試乗させていただいたのはレクサス千里さん
〒565-0862
大阪府吹田市津雲台7丁目2番1号
TEL 0120-636-500