| さすがに「CLSと1.5リッター」の組み合わせには違和感を禁じ得ない |
さて、中国においてメルセデス・ベンツCLSのベーシックグレード、「CLS260」が追加(CLA260ではない!)。
CLSというと「S」という名がつく通り、クーペ風セダンにおけるフラッグシップですが、このCLSに搭載されるエンジンはなんと1.5リッター(184馬力)。
いまどき排気量にこだわるのはナンセンスだとは思うものの、「え?CLSに1.5リッター?」という驚きは隠せません。
ちなみに日本でラインアップされるのは「CLS 220d(2リッターディーゼルターボ、842万円〜)」と「CLS450 4MATIC(3リッターターボ、1095万円〜)」の2種類。
日米欧と中国とでは事情が異なる
なお、「大きなクルマに小さな排気量」に違和感を覚えるのはおそらく、日米欧にて比較的以前からクルマに乗っている人かと思われます。
というのも、これらの市場はクルマの発展とモータリゼーションとが同時に進み、そしてクルマの発展とはある意味でエンジン性能の発展でもあったため。
かつてはハイブリッドはもちろん、ターボやスーパーチャージャーといった技術が一般的ではなく、エンジンパワーを上げたり、大きなクルマ(高級車)を走らせるには「排気量の大きなエンジン」を積むしかなかったわけですね(エンジンパワー=排気量だった)。
よって、日米欧における、クルマの成長と共に歩んできた人々は「大きなクルマに小排気量」というところに(理解はできるが)違和感を感じるのかも。
中国ではパワーユニットが「あまり重要ではない」
一方で中国はというと、すでに発展しきった技術をもって自動車の普及が始まっており、かつ中国特有の「現地生産を行うのであれば、外国のメーカーは中国企業と合弁会社を作らねばならない」というルールによって、現地生産されるクルマは、デリバリーが開始された時点ですでにフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、アウディ、BMWそしてトヨタといった世界に名だたる自動車メーカーの技術を持っていたわけですね(もちろん、この”合弁ルール”は現地企業へと技術を移転させるため)。
よって、中国の一般向け市場ではイキナリ「ダウンサイジングターボ」「デュアルクラッチ」といったところからクルマが語られるようになっていて、そこには「排気量とパワーとが比例する」「クルマはMT」といった感覚が皆無。
つまりはレコードやカセットテープ、CDやMDを経験せずにデジタル音源に移行したようなものであり、エンジンの排気量にこだわるのは、現代においてアナログの”味や”、カセットテープのグレード(ノーマルとかクロームとか)を気のすることと同様にまったく無意味なのだとも思われます。
つまりは「現代においては、技術の向上によって、どんなパワーユニットであっても、そのクルマを動かすには十分な」パワーとトルクとが得られるようになっていて、そのため気にすべきはパワーユニットではなく車体のデザインや快適性、実用性といったところにシフトしてきている、と言えそうですね。※加えて中国では「車格」が重要であり、エンジンは小さくても、上位クラスのクルマに乗っていることが重要
そういった環境が、動力源につき「エレクトリックモーターであろうがガソリンエンジンであろうが気にしない」という中国特有の感覚を産んでいるのだとも思われ、よって「CLSに1.5リッター」が実現する背景なのかもしれません。
さらにはこの「1.5リッター」にはもうひとつ理由があるといい、それは「税金」。
1.5リッターであれば購入時の税金が3リッターに比較して10万円ほど安くなるといい、このCLS260は節約志向の強い人に向けたモデルということになりそうです。
なお、CLSを買うのに節約も何もなさそうですが、中国ではとにかく「メンツ」が重要なので、いかに安く「お金持ちに見せるか」が重要。
よって、(他の人に見られる)外観についてはいい身なりをしていても、(ほかの人の目に触れない)自宅や日々の食事は質素という例が多いのが中国人だとも言われ、いろいろなところで中国独特な傾向があるようです。
CLS260は意外と高い
このCLS260については、現地価格で576,800元だとアナウンスされており、邦貨換算だと900万円くらい。
結構高いなという印象ではあるものの、これは現地生産ではなく「輸入車(高額な関税がかかる)」だからなのかもしれません。
トランスミッションは9速AT、駆動輪は後輪のみ、0-100km/h加速は8.7秒だと伝えられていますが、4輪駆動の4MATICもオプションで選ぶことができ、こちらだと加速タイムは8.4秒へと短縮されます。
必要十分な性能を持つとも言えるものの、日本、そして欧米では「まず登場しない」グレードかもしれませんね。