
| すべての166 MMが特別だが、「シャシーナンバー40」は別格の存在 |
長い旅を経て、「フェラーリのもとへ」帰還するまでの物語
フェラーリの名を世界に知らしめたスポーツカー「166 MM」。
その中でも、1950年製・シャシーナンバー40の個体には、他の車では語れない数奇な運命と深い愛情の物語が刻まれているといい、今回フェラーリが公式コンテンツとしてこの166 MMに関わるストーリーを公開しています。
1950年、工場ワークスカーとして誕生。しかしデビュー戦で悲劇が…
この166 MMは、フェラーリが黎明期に生み出したワークス仕様のレースカーのひとつで、搭載される2.0リッターV12エンジンからは140馬力を発揮。
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トゥーリング社による軽量アルミボディを持ち、「MM」はあの伝説的な公道レース、ミッレ・ミリア(Mille Miglia)を意味します。
しかし、華々しいデビューとは裏腹に、この「シャシーナンバー40版」は1950年のミッレ・ミリアのスタート直後、ドライバーのアルド・バッシが命を落とす事故に見舞われてしまい、それ以降以ワークスカーとしてのキャリアは1年で終了しポルトガルへと渡ることに。
世界を旅し、イギリスの夫婦の元へ。そして50年の冒険が始まる
たどり着いたポルトガルでは現地のチームとドライバーによってレース活動が続けられ、その後は長らく博物館に展示されていたそうですが、1970年代初頭にはイギリスに渡り、1975年にこの166 MM「シャシーナンバー40」のオーナーとなったのがダドリー&サリー・メイソン=スティロン夫妻。
ちなみにこの夫妻は生粋の車好きだそうで、2人の出会いもまた「グッドウッドで開催されたフェラーリ・オーナーズクラブでの集まり」だったのだそう。
サリーはドライビングのベテラン、そしてダドリーは熱心なモータースポーツファンであったそうですが、この166 MMは2人にとって、愛と冒険を共有する最高のパートナーとなります。
「当時の価格は30万ポンド(現在の為替レートだと6000万円くらい)。かなり無理をしましたが、古いフェラーリの価値がすでに上がり始めていたので『今のうちに』と思ったんです」
— ダドリー・メイソン=スティロン
ニックネームは「ミスター・プー」。しかし情熱の自宅レストアが始まる
購入当時、この166 MMは「Mr. Poo(ミスター・プー)」と呼ばれるほどオイル漏れがひどく(Pooは大便の意味)、機械的なコンディションはまさに最悪。
要は完全なレストアが必要であったといい、エンジンのリビルドや塗装こそ外注されたものの、ボディとフレームだけの状態までに自宅ガレージにて完全分解され、スティロン夫婦が協力しアルミボディの成形から組み上げまでを手作業で行うことに。
しかしフロントウィンドウフレームには当時の「工場出荷時に塗装されたレッド」が一部残されるなど、当時の姿を尊重したとコメントされており、ここからも丁寧に、そしてたっぷりと愛情をかけてレストアされたことがわかります(業者によるレストアではないぶん、コスト度外視によるレストアが可能になったのだと思われる)。
歴史的な再出走、そしてグッドウッド・ヒルクライムの先駆けに
1989年、ついにこの166 MMはミッレ・ミリアに復帰。
「当時はまだヒストリックレースが盛んではなく、他に出場できるイベントがほとんどなかった」とダドリー氏は振り返ります。
これ以降もスティロン夫妻は世界中をこのクルマと旅し、グッドウッド・ヒルクライムを最初に走った166 MMとしても名を刻んだそうですが、夫妻は「タイムを競うよりも、キッチン用のタイマーでのんびり測定しながら、純粋に楽しむことを重視していた」と語っているところがなんともユニークですね(ぼくも常にそれくらいの余裕を楽しみたいものである)。
そして2024年、愛車はエンツォ・フェラーリ博物館へ
2022年、サリーが亡くなった後も、ダドリー氏はこの166 MMを大切に維持。
しかし、50年にわたる愛と歴史を経て、ついにこの車をイタリア・モデナのエンツォ・フェラーリ博物館へ寄贈することにしたそうで、この特別な166 MMは現在、博物館の展示車両としてその歴史を未来へと語り継ぐ存在となっています。
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