Image:Ford
| フォードは今でも創業者一族が最高の権限を持ち、意思決定のルートが集約されている |
一方のフォルクスワーゲンでは「多くの承認を得なければならない」
さて、現在の自動車業界では方針の方向性の決定内容はもちろん、その意思決定の速度が大きく業績を左右することになりますが、今回は「フォードとフォルクスワーゲンとの決断のスピードが全く異なる」という報道が話題に。
要約すると「フォードとフォルクスワーゲンとは商用車において提携を行っているが、この提携を決定するにあたり、フォードでは15分しか時間を要しなかったのに対し、フォルクスワーゲン側では2ヶ月の協議に時間がかかった」というもので、両社における意思決定のスピードが著しく異なるという事実が示されたわけですね。
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フォルクスワーゲンはフォードの決定を「冗談ではないか」と疑う
この事案は「両社のEVふくむ既存車両を用いて共同で商用バンを製造販売する」というもので、この分野で重要となるのは「いかに安価で実用的なクルマを作るか」で、(商用車は)乗用車とは異なってさほどブランディングや排他性が重要ではないため、ライバル同士が手を組むということも珍しくはなく、よってフォードとフォルクスワーゲンという「巨大な多国籍企業」が手を組むこととなっています。
そしてこの「意思決定にかかる時間の相違」が明らかになったのはデトロイトで開催されたオートモーティブ・ニュース・コングレスの場だとされ、まずフォルクスワーゲンは「ピエヒ家とポルシェ家、さらにドイツのニーダーザクセン州と労働組合から賛成票を得る必要があったため、この事業に全許可を出すのに2か月かかった」。
一方フォードはわずか15分で「ゴー」の最終決断を行うことができ、この15分の間にジム・ファーリーCEOがしなければならなかったことといえばフォードの会長であり創業者ヘンリー・フォードの曾孫であるビル・フォードのオフィスまで少し歩いて行って「フォルクスワーゲンがこんな話を持ちかけてきたんですが、この提携、どう思います?私はメリットがあると思うんですが」と伝えることのみ。
果たしてビル・フォード会長も「ビジネス上、確実に意味がある」とその場で即決し、ジム・ファーリーCEOはさらに数人のフォード幹部と話した後、(先ほどかかってきたフォルクスワーゲンからの電話を切ったのち)まだ温かみのある受話器を取り、そのままフォルクスワーゲンに「OK、いいですよ。我々はもう準備ができました」と回答したのだそう。
ただしフォルクスワーゲンは(上述のとおり)意思決定に長い時間がかかることが常識として存在しているため、フォルクスワーゲンのCEOはこのフォードの「瞬時の決定」を信じることができず「冗談ですよね?ちゃんと話が通ってます?」と訪ねてきた、と述べています。
はたしてこの契約は2020年6月に締結され、この成果としてフォードはフォルクスワーゲンID.4のエレクトリックプラットフォームにアクセスできるようになるのですが、このプラットフォームは今年発売される欧州市場向けのエクスプローラーSUVとカプリクロスオーバーの製造に使用され、その見返りとしてVWはフォードのトランジットアーキテクチャを転用し、自社用としてT7トランスポーターとカラベルを製造することができることに。
こういった展開につき、ジム・ファーリー氏は創業から現在に至るまで(6代の)フォード家が決定権を持つことの意味について触れ、オートモーティブ・ニュース・コングレスで以下のように語っています。
「私たちは皆、利益だけのために働いていると感じています。私たちはこの家族がさらに6世代繁栄することを確実にしたいと考えています。私個人としては、それが私の仕事に大きな意味を与えてくれるのです。」
上で述べた通り「意思決定の速さ」がそのビジネスに大きく影響するのが現代のビジネスの特徴ですが、たしかにフォードは「今すぐ乗用車から手を引いてSUVとトラックに集中する」「EVの展開をリセットし、新たに仕切り直した低価格EVの開発を行う」「その間にハイブリッドとPHEVに集中する」など大きな判断をいち早く下しており、このスピードがこの混沌とした状況で大きなアドバンテージとなるのは間違いなさそうですね。
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