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英国が「ガソリン車の新車販売禁止」期限を2035年へと延期。インフレによる家計圧迫を考慮するも自動車業界からは「せっかく準備してきたのに・・・」と不満噴出

2023/09/21

英国が「ガソリン車の新車販売禁止」期限を2035年へと延期。インフレによる家計圧迫を考慮するも自動車業界からは「せっかく準備してきたのに・・・」と不満噴出

| いち早くカーボンフリーに対応してきた自動車メーカーとしては、この「延期」に納得が行かないのは当然である |

場合によっては「対応が遅れた」自動車メーカーのほうが利益を最大化できる可能性も

さて、イギリスのスナク首相が「ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を2035年に延期する」という計画を公式に発表。

この”ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止”につき、温室効果ガス排出量削減のため、もともと2030年を目標として定められていたものの、今回の発表によって5年延長されるということに。

”2030年目標”は当初2020年11月に導入され、当時のボリス・ジョンソン首相の "緑の革命 "ビジョンの重要な一面を形成していたうえ、今年7月にはあらためてマイケル・ゴーヴ上級相がこの2030年目標について再確認しており、しかしそこからわずか数ヶ月での翻意がなされています。

英国は温室効果ガス排出量削減のため「新しいアプローチ」を採用

この2030年という期限は、2035年以降に販売される新車のゼロエミッションを義務付け、ガソリンとディーゼルの新車販売を事実上段階的に廃止することを目指すEUの計画に比べてアグレッシブな目標であったわけですが、スナク首相いわく「温室効果ガス排出量削減を達成するために新しいアプローチを採用する」。

現段階ではこの手法については公表されておらず、しかし近日中に国民に向けて演説を行い、温室効果ガス排出に関する一連の政策緩和を発表する予定だと報じられています。

加えてスナク首相は「(内燃機関搭載車の新車販売を禁止し、EV購入を促すことについて)政府が強制するべき課題ではなく、最終的には消費者がなす選択である」とコメント。

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さらには「政府が介入しなくとも、実際には2030年時点で、新車販売の大部分がEVになる」「2050年までにCO2排出量ゼロ(カーボンフリー)を達成するという政府目標を後退させる必要はないだろう」とも。

今回の「目標後ろ倒し」の意図としては、現在進行中の過剰なインフレを考慮に入れたもので、英国の家庭に負担をかけないように現実を重視し、しかしネット・ゼロ・エミッションの達成には断固とした姿勢を保ち続けるという内容。

しかし目標が後退したことに変わりはなく、政界や気候変動擁護論者の間では懸念が高まっており、特に来年予想される選挙を前にして、スナク政権下の英国は「挑戦的な気候変動政策を制定する決意を失いつつあるのではないか」という指摘もあるようですね。

現時点ではまだまだEVは「高価な選択」であり、このインフレが進む状況の中でEVの購入を半ば強制的に迫るわけにもゆかず、スナク首相の判断には納得もできますが、一方で多くの反発を招く可能性もあり、政治とは本当に難しいものであることがわかります。

以外にもフォードは「2035年への延期」に反対

なお、今回の「ガソリン車とディーゼル車の新車販売禁止を2035年に延期する」計画についてまっさきに異議を唱えたのがなんとフォード。

フォードUKのリサ・ブランキン会長兼社長は、(意外なことに)この延期に反対する声を上げ、公式に声明を出しています。

自動車産業は、その課題(カーボンフリー)に対応するために投資しています。これは過去100年以上で最大の産業変革であり、英国2030年目標は、フォードをよりクリーンな未来へと加速させるために不可欠な触媒です。私たちのビジネスが英国政府から必要としているのは、野心、コミットメント、一貫性の3つです。2030年目標を緩和することは、この3つを台無しにすることになるのです。

フォードの声明では、電動化のために世界全体で500億ドルを拠出し、2030年という当初の期限を守るために英国で4億3,000万ポンドを拠出するとしており、(今回の延期によって)こういった努力の効果が失われると主張しているわけですが、実際のところ「決まりを守ろうとした」のに、その決まりが一方的に変更されてしまうと、フォードとしてはその取り組みが無駄になってしまい、先行者利益を得るはずだったのに”利益を得られず”、空白の5年間はむしろ電動化に出遅れた他の自動車メーカーが利益を伸ばすことになるのかもしれません。

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加えて英国自動車工業会(SMMT)もこの延期に反対の声を上げており、マイク・ホーズ最高経営責任者(CEO)は各自動車メーカーの投資を強調し、政府にゼロエミッションの約束を維持するよう求めています。

自動車業界は、新しい電気自動車に何十億ドルもの投資を行ってきたし、今も続けている。そして、英国はメーカーとしても市場としても、ゼロ・エミッション・モビリティのリーダーになることができる(なるべきである)。しかし、これを実現するためには、消費者が乗り換えたいと思わなければならない。そのためには、政府が明確で一貫性のあるメッセージ、魅力的なインセンティブ、そして不安ではなく信頼を与える充電インフラを提供する必要がある。混乱と不確実性は、消費者の足を引っ張るだけだ。

つい先日、イネオスのCEOが「EVのみに頼る戦略を推し進めるのは(自動車メーカーにとって)危険であり、水素や内燃機関などのミックスが必要で、そうしなければ破綻をきたす」と警告していますが、早くもそのリスク”第一弾”が到来したということなのかもしれませんね。

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参照:Automotive News Europe, ReutersSMMT

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