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日産がR32 GT-Rに積まれるアテーサE-TS開発のために購入し、後に米国にてレストアされたポルシェ959が競売に。予想落札価格はなんと5.6億円

日産がR32 GT-Rに積まれるアテーサE-TS開発のために購入し、後に米国にてレストアされたポルシェ959が競売に。予想落札価格はなんと5.6億円
Broad Arrow Auctions

| 日産がトルクスプリット4WD開発のためにポルシェを訪問したという話は聞いたことがあるが |

まさか実際にポルシェ959を購入していたとは

さて、ブロードアロー・オークションにポルシェ959が登場し、最高落札価格375万ドル(現在の為替レートだと約5億6400万円)というエスティメイトが出されて話題に。

なお、このポルシェ959はちょっと変わった経歴を持っており、一つは「日産がリバースエンジニアリングのために購入したことがある車両」、そしてもう一つの特徴は(ポルシェのスペシャリストである)カネパによってレストアされた車両」であること。

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ポルシェ959はこんなクルマ

ポルシェ959は「ポルシェが過去10年間のモータースポーツ活動を通じて学んだ技術的優位性を証明するために」企画された車両であり、実際に959は数々のモータースポーツからフィードバックされた恩恵を受け、かつ車高の調整が可能なサスペンション、インテリジェントな全輪駆動、タイヤ空気圧モニタリング、ABS、複合素材を採用したボディ構造など、今日のスーパーカーでは当たり前で、しかし当時の基準からすると「時代を数十年先取りしていた」とも考えられる装備を持つスポーツカー(元祖ハイパーカーだと考えてもいい)。

生産台数は300台に満たず、その生産コストは新車販売時の価格である42万マルクの優に倍に達したと見積もられています。

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そして意外なことに、ポルシェ959は当時アメリカに正規輸入されておらず、その理由は「(売れば売るだけマイナスが出る状況で、クラッシュテストを実施するなどさらなるコストをかけることで)それ以上赤字を拡大させることができないとポルシェが判断したから」だと言われていたものの、最新の報道ではまた異なる事実が明らかに。

そして「25年ルール」適用を待たず、13年でポルシェ959がアメリカの道路を走ることができるようになったのはカネパ、そしてビル・ゲイツの尽力によるものだということも広く知られるようになっています。

ポルシェ959は当初米国へと正式に輸入できなかったが「法案を可決させ合法にしたのはビル・ゲイツ」。そのおかげで後のフェラーリ・モンツァも合法に登録できるように
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カネパはポルシェ959のアップグレードを手掛ける

そしてカネパはそれまで数々のポルシェにてレースに参戦し、そして過去のクルマのレストアを行ってきた経験を活かして2015年年に959のレストアプログラム「ポルシェ959 SC リイマジンド バイ カネパ」を立ち上げていて、ここではポルシェ959の優れた部分はそのままに、しかし現代の技術によって959のポテンシャルを最大限に引き出せるような改修がなされます。

まずボディは完全に分解されて塗装が剥がされ、そこから下塗り、ブロック研磨が完璧に行われますが、外装色については(ポルシェの純正色含む)150以上のカラーを選択でき、インテリアだと「ポルシェの純正同様の仕上げ」からカネパ独自の仕様までを選択可能。

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そしてポルシェ純正であれば「樹脂むき出し」であった部分(メーターパネルやダッシュボードの一部など)も新しくレザーで覆われるなど高級感が大きく向上していて、さらには6スピーカー・オーディオシステムの装着や(見た目がレトロでそれとわからない)ポルシェクラシック製カーナビゲーションシステム、(当時はまだ普及していなかった)LEDを用いたインテリア照明、可変スポーツエキゾーストシステムのコントロールスイッチといった装備も追加されることに。※内装の製作には4000時間以上が費やされる

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さらにメカニカルコンポーネントはカネパの技術者によって検査、再仕上げ、再構築、またはアップグレードされ、 文字通り”手つかず”のものは何もなく、すべてのボルト、クランプ、フィッティングが剥がされ、亜鉛、陽極酸化処理、粉体塗装、テフロンなどのさまざまなコーティングで再メッキされています。

サスペンションもアップグレード受けており、カスタムバルブ付きペンスキー ショックアブソーバーとチタン製コイルオーバー スプリングを採用することで車高を1インチ低くしつつも実際の運転に十分な最低地上高を確保し快適性を維持したほか、ブレーキシステムには(特別に開発された)クライオ処理済みのセミフローティング ブレーキ ローターと専用ブレーキ パッドが組み込まれることに。

ちなみにホイールは「純正と同じデザインを維持しながら」18インチにアップされ、装着されるタイヤはミシュランとカネパとの共同開発による専用品です。

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さらにカネパの「再解釈」はエンジンにも及び、その出力はなんと800馬力以上にも到達していますが、これを可能とするのはチタン製コネクティング ロッド、改良されたバルブトレイン アセンブリ、アップグレードされたカムシャフトとカムシャフトハウジング、タングステンセラミックコーティングがなされたヘッダーと2ステージステンレス/チタン排気システム、MoTec製エンジン管理システムとワイヤリングハーネス、そして容量を拡大したボルグワーナーターボチャージャー。

もちろんトランスミッションも専用にチューニングがなされ、これによって0-60マイル(96キロ)加速は2.5秒という現代のハイパーカーと同等の加速性能を誇ります(最高速度はなんと370km/hである)。

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今回オークションに登場するのは50台のみが限定生産されたカネパ製ポルシェ959の22番だとされ、もともとはポルシェが266台製造したポルシェ959コンフォートのうちの一台。

新車当時はポーラシルバーにてペイントされていたそうで、興味深いことにこの車両を新車購入したのは日産自動車。

当時日産は「MID4」の市販を検討しており、実際にポルシェともコンタクトを取ってミーティングの機会を設けたといわれますが、日産がポルシェAGに959の新車購入を打診したところ「拒否」されてしまい、そこでベルギーの販売代理店兼ディーラーのディエテレン・ブラザーズを通じて購入した後に日本へと輸送した、と説明されています。

日産MID4
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日産がポルシェ959を購入した目的は研究開発目的のベンチマーク、そしてリバースエンジニアリングで、よって登録や所有権を付けることなくこの959を分解し、ここから日産独自の全地形対応アドバンスト・トータル・トラクション・エンジニアリングシステム、後に圧倒的な強さから「ゴジラ」と呼ばれることになるR32 スカイラインGT-R に搭載された電子トルク スプリットシステム (ATTESA ET-S) が誕生したわけですね。

そして日産はポルシェ959の調査が終了したのち、プロジェクトに関わった日産社内のエンジニアの1人に959を密かに売却し、その後エンジニアはこのクルマを米国に輸出するまで保管していた、という記録が残されています(日本では登録されていない)。

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そしてカネパがこのポルシェ959を手切れたのは2019年のことで、トータル4,000時間、95万ドルにもおよぶコストをかけて改修され、レストモッドが完成したのが2023年3月(その過程はすべて写真に残されている)。

ボディカラーは(ポルシェ創業者一族が愛した)オーク グリーン、18インチ ホイールはカネパ独自のガンメタル。

インテリアは特注のタバコブラウンレザー、それにマッチする356タイプのざっくりした風合いを持つカーペットでトリミングされ、これらにマッチするカスタムエンボス加工がなされたツールポーチとオーナーズブックカバーも付属します。

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現在の走行距離は1,197マイル(約1,915キロ)、見ての通りコンディションは新車と見まごうほどであり、そのユニークな背景、さらに50台のみしか存在しないカネパ製ポルシェ959のうちの1台ということを考慮するに、この驚天動地のエスティメイトにも「納得」というものですね。

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参照:Broad Arrow Auctions, CARSCOOPS

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