| ホンダはこれからデザインを大きくシフトさせるかもしれない |
さて、ホンダ・オデッセイがフルモデルチェンジ。
クルマのスペックについては多くのメディアが報じているので、ここで改めて述べるまでもありませんが、ぼくが注目したいのはそのデザイン。
今までのオデッセイからすると「え?これがオデッセイ?」と思うような、重厚かつ迫力のあるルックスへと変更されています(ホンダによれば、「風格あるスタイリング、厚みのあるフード、押し出し感のある大型グリル」)。
オデッセイは1994年に初代が登場しており、これは「タコメーターのない」ホンダ車で、当時モータースポーツやスポーツカーイメージの強かったホンダとしては異例中の異例。
初代オデッセイのイメージは黒豹だった
よって開発時から社内からの大きな反発があったといいますが、開発チームがイメージしたのは「黒豹」だとされています。
どういうことかというと、ミニバンといえどもホンダらしい重心の低さ、躍動感をイメージするために採用したアイコンが黒豹であり、当時のオデッセイ開発に関わる資料の全てには、その端に黒豹を配置し、そのコンセプトがブレないようにした、と報じられています(この黒豹は、当時対外的に押し出されるようなことはなかったと思う)。
その後1999年には2代目にスイッチし・・・。
2003年には3代目へ。
ぼくはこの世代のオデッセイがもっとも好きで、しかしフロントのデザインとリアのデザインとのバランスが(ジープ・グランドチェロキーのように)あまり良くなく、もし後ろがもっとスポーティーだったらさらに売れたんだろうな、とも考えています。
その後2008年には4代目へ。
こちらも鋭い眼光、そしてマッシブなリアフェンダーを持ついいモデルでしたね。
そして2013年には5代目へとフルモデルチェンジ。
なぜ6代目の新型オデッセイはイカツいミニバンになったのか
そして今回の新型”6代目”オデッセイですが、ホンダらしいスーポーティさよりも、高級感や押し出しの強さを感じさせるミニバンといった印象。
いったいなぜホンダはこれまでの路線をスイッチしたのか、そしてなぜその方向性が「イカツい」ルックスなのかについて考えてみたいと思います。
まず、現在のホンダのメイン路線は「ナチュラル」。
これは新型フィット、そしてそのプロモーションをみても分かる通り、「人が中心」でありクルマは脇役という考え方で、実際に新型フィットのイメージは「使いやすいタオル」。
そのために当たり障りのない、低刺激デザインを持っています。
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もはや低刺激デザインでは「刺激が足りない」
ただし実際に新型ホンダ・フィット、ライバルたる新型トヨタ・ヤリスが発売されると、支持を受けたのはヤリスのほう。
それまで「フィットとヴィッツ」はほぼ同じレベルの販売台数にて推移し、抜きつ抜かれつの攻防を繰り広げられていたものの、ヤリスのデリバリーが本格化した(全グレードが揃った)5月以降にはヤリスの方がフィットの倍程度の販売台数を記録するに至り、明暗が完全に分かれる結果となっています。
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加えて、やはりそれまで両者とも「シティ派」であったトヨタRAV4とホンダCR-Vがともにモデルチェンジを果たし、RAV4がアウトドア派に、CR-Vがシティ派にとどまるという結果となっていますが、これについもRAV4がCR-Vに圧倒的な差をつけるに至っており、やはり「スマートでオシャレ」なクルマより、見た目が印象的なクルマのほうが好まれるということを示しているようですね。
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今や何ものにも「見栄え」が求められる
こういった傾向につき、ぼくは世の中の動きを反映したものだとも考えていて、それは「見栄えが重視される世の中になった」から。
インスタ映えと言い換えていいかもしれませんが、食べ物や衣類についても同じで、必要以上に「目立つ」ものでないと消費者の目を引き、売れない世の中になってしまったわけですね。
そして消費者にとっては、これまでは「自分が好きだから」という理由でモノが選ばれていたところ、現在では「他人がいいね!と言ってくれるモノ」という選択基準によって選ばれる傾向が強くなり、つまり人々の行動の基本が、自己満足から承認欲求へとシフトしたためだと思われます(自分が好きでない、欲しくないモノでも、他人がいいね!と言ってくれればそれを買ったり食べたりする)。
よって、クルマを買い替えたのかどうかわかならないナチュラルなデザインより、明らかにクルマを買い替えたと分かる押し出しの強いデザインであったり、好き嫌いが分かれたとしても印象に残るデザインでないと現代では生き残ることができず、そこが最近「えっ・・・」と思うデザインが増えたり、そういったデザインを持つ製品が購入されたりする理由なのでしょうね。
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実際のところ、直近の国内登録ランキングを見ると「アクの強いデザインを持つクルマ」がずらりと上位に並んでいて、これはちょっと前の「ノートのように、無難なデザインを持つエコな車が売れていた」時代とは全く異なる様相を呈しています。
一時期、トヨタのデザインを見るにつけ「大丈夫かトヨタ・・・」と考えていましたが、結果的にはトヨタの勝利となっていて、つまりトヨタはずっと先を読んでいた、ということになりそう(たぶん)。
こういった傾向を見るに、クルマは消耗品や移動手段としてではなく、セルフプロデュースの手段のひとつとして(衣類やバッグと同じような基準で)選ばれるようになったのだとも考えることもでき、いま大きなパラダイムシフトが起きている、と考えることができるのかもしれません。
参照:ホンダ