| さすがはホンダ、目の付けどころが違う |
現在、各自動車メーカーともに操作系を「タッチパネル」に移行させており、どんどん室内からは物理スイッチが無くなっている状態。
ホンダも一時は同様の動きを見せていますが、昨年あたりから物理スイッチを復活させる傾向にあり(シビックはマイナーチェンジにて、オーディオの音量調整が”ノブ”に戻った)、最新モデルのフィットではさらにその傾向が加速しています。
この理由としては「コストダウン」も考えられるものの、現在のようにタッチパネルの生産量が増加した状態だとパーツ単価も下がっているはずで、むしろ物理スイッチを使用したほうが設計コストがかかり、パーツ点数が増えて組み立てコストも上昇するということにもなりかねません。
それでもホンダが新型フィットにつき、”あえて”物理スイッチを採用した理由は「ドライバーのことを考えたから」。
ホンダ・フィットの開発責任者、田中健樹氏によると、「タッチパネルからアナログダイヤルに操作系を戻したのは、ユーザーからのフィードバックを反映させたもので、タッチパネルが使いにくいという意見が多かったため」。
そして使いにくいということは、運転中にドライバーの注意を運転から逸してしまうことも意味し、今回フィットの開発に際して「わかりやすく、直感的に操作できる」方法を採用したことでドライバーへの負担を最小限に抑えた、とコメントしています。
実際のところ、これまでのモデルに比較すると操作にかかる時間は58%短縮されたともアナウンスされており、新型フィットはとことん「使いやすさ」にこだわったということがわかります。
新型フィットは機能重視よりも感性重視
なお、田中健樹氏いわく、新型フィットは「機能重視から感性重視の開発にシフト」。
この理由として、「機能はすぐに他社に追い越される」ということを挙げており、実際に先代フィットでは「燃費性能世界一」を達成した直後に”他社に抜かれる”ことに。
同様の例はインサイトでも見られたと記憶していますが、数字を追求し、それを中心的価値に据えると、いつかは必ず抜かれることになってしまって価値を失い、であれば「ユーザーに満足してもらえる使いやすさ」を中心にした開発に切り替えようと考えたようですね。
「数字」を追求するとすぐに抜かれる
これは今まで「世界最速」を標榜してきたブガッティも同様で、過去何度か「世界最高速」「世界最高速と減速記録」を樹立するものの、一瞬でヘネシーやケーニグセグに抜かれることに。
そしてブガッティはこういった状況に嫌気が差したのか、「今後、最高速争いには参加しないこと」「芸術性を高めること」を発表しています。
つまり、ブガッティよりも(数字上で)速い車を作るメーカーは今後も登場するだろうが、ブガッティを超える芸術性を超えるクルマを作ることは難しいだろうという意思の現れでもあり、数字では測れない領域に注力する、ということですね。
ぼくは常々、「フェラーリやランボルギーニよりも速い車を作ることは可能だが、それらよりもカッコいいクルマを作るのは難しい。なぜなら速さは数字で示せるが、カッコよさは数値化できないから」と考えていますが、一定以上の成果を収めたメーカーは、数値よりも「高次の」付加価値を追求する必要があるのだとも思います(チャレンジャーの立場だと、そのプレゼンスを示すにあたって数字が有用ではある)。
新型ホンダ・フィットの開発にあたり参考にしたのは「タオル」
そして新型ホンダ・フィットもブガッティ同様に(?)数字から”数字以外”の方向へと価値観のシフトを求め、ここで導き出されたのが”快適性””リラックス”という要素。
ひいては、これらを兼ね備える「用の美」をグランドコンセプトの一部に採用しています。
そして、新型フィットでは「心地よい視界」「座り心地」「乗り心地」「使い心地」の4つに焦点を当てて開発を行うことになりますが、ここで参考にしたのが「タオル」。
田中健樹氏いわく、「出張でよくホテルに泊まるが、高級ホテルでなくとも、清潔で心地よいタオルがあると豊かな気分になる」。
同氏はこの”タオルのあり方”が新型フィットの開発において大きな参考になっていると語っていて、これは非常に面白いエピソードだと思います。