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ジャガーFタイプ・Rクーペに試乗。おそらく現時点ではコストパフォーマンスNo.1のスポーツカー

2014/10/12

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ジャガーFタイプRクーペに試乗。
これも結論から言うと、完全にスーパーカーの領域ですね。非常に素晴らしい車、と断言できます。
この価格でこのパフォーマンス、この仕上げを持つ車は現在日本ではまず無いと思います。

実際の見た目は画像で見るほどクラシカルな感じでもなく(ボディカラーによる?発表時に見た薄いメタリックブルーはクラシックな感じだった)、かなり硬質な印象。
もしかするとRのみはヘッドライト内部がブラック仕上げなのかもしれません(試乗車のヘッドライトは引き締まった印象だったので)。
また、おそらくデザインパックが装着され、各部がグロスブラック仕上げだったことも影響していると思われます。

ボディサイズは幅1925ミリ、長さ4470ミリ。ランボルギーニ・ウラカンとほぼ同じサイズですね。
にもかかわらず最小か移転半径は5.2メートル、とかなり小さいことも特徴。

アルミボディに各部LEDライティング、8速AT、前後アクティブエアロ、電制デフと装備としては最先端ですね。
さらにはアダプティブダンパー、トルクベクタリングを装備しており、550馬力のスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載していることを考えると(後述のようにほかにも魅力的な装備がたくさんある)、1280万円という価格は「破格」としか言いようがありません。

さて、車自体は以前にも見ているものですが、改めて見てもなかなかに格好良い車ですね。
画像以上の美しさ、斬新さを感じますが、それはおそらく各レンズ類やドアハンドルなどの仕上げの美しさによるものだと思われ、画像や写真だけでは表現できないデザインを持っている為だと思われます。

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試乗車にはオプションのカーボントリムつきのホイールが装着されていましたが、カーボンファイバーをホイールの一部に使用している市販車は他には無いかもしれません(しかもこの価格帯で)。

ドアハンドルはランボルギーニ・ウラカン同様に普段はドアスキンとフラッシュサーフェス化され、アンロックで飛び出るタイプ。
ただしウラカンの「棒状」レバーに対し、Fタイプでは扇状のハンドルが飛び出します。
これの内側に手を差し込んでドアを開けますが、一見してわかるのは「室内が非常にタイト」ということ。

サイドシルはかなり高く、ロールセンター適正化のためかシートは中央に寄せられています。
センタートンネルは異常に高く太く、ドライバーを囲むようにデザインされています。
シートは立体的でサポートが大きいので、これも室内をタイトに見せる一因ですね。

室内に体を滑り込ませると、そのタイトさが非常に心地よいことがわかります。
フロントウインドウは独特の形状で面積が狭いにも関わらず視界は良好。
ジャガーの昔からの流儀として「車体面積に占めるグラスエリアが狭い」というものがあると思いますが、とくにひと世代前のXKではそれが顕著でしたね。

このFタイプでもXKではないにせよ、乗り込んで改めて「これはジャガーなんだなあ」と改めて認識させるグラスエリアの狭さがあります(それでも視界を犠牲にしていないのは歴史のなせる技か)。
これはジャガー特有のものでもあり、運転席から見る景色を独特のものにしていますね。
イメージとしては楕円形の水中メガネ越しに見ているような感じ。

室内の囲まれ感と安心感は比類ないもので、最近の「グラスエリアを広く取ろうとしている」車とは異なるものです。
ブリティッシュ・スポーツカーは大なり小なりあれど、どの車も「タイトな室内」というのは共通しているように思われ、車のサイズやパワーが変わっても根本的な考え方は同じなんだろう、と思います(そのあたりはイギリス人の「こだわり」か)。

視界自体はとくに不便を感じるものではなく、フロント左右もフェンダーの盛り上がりで車両感覚を把握できます。
かなり大きな部類の車ですが、とくに見づらい、ということろはありません。
強いて言えば左側(試乗車は右ハンドル)のAピラーとドアミラーが左横の視界を遮っており、左折時には安全確認に注意を要しそうです。
これはレンジローバー・イヴォークでも同じように視界を覆ってしまうのですが、ドアミラーをドアスキンマウントにすれば解決しそうなので、今後は是非安全のためにも変更して欲しいところではあります。

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各部の仕上げは非常に美しく、ダッシュボードやシートの仕上げは素晴らしいの一言につきます。
革の選択や縫製についてはイタリア車、そしてイギリス車が優れるところでもありますね。
各スイッチやレバーの操作感も高級感があり、このあたりはVWアウディグループの車は比較にならないほど離されている、とぼくは考えています(レクサスもここは敵わない)。

センターコンソールのディスプレイはイヴォークと同じもので、これは今後グループ共通になるのでしょうね。
エアコンの表示は新型アウディTTと同じく、ダイアルの中に表示があるタイプ。
一部レバー、パドルはオレンジのアルマイト加工が採用されたアルミニウム製となります。

さて、シート位置、ミラーをあわせていざエンジンスタート。
エンジンスターターボタンはイヴォークとも共通の意匠を持つものですが、こちらはアルマイト仕上げのスパルタンなもの。
短いクランキングのあとにズドンと低い音でエンジンがスタートします。
レンジローバーでも同じような印象ですが、エンジンの始動音までもがジェントル(大人しいという意味ではない)だと感じさせる車は非常に稀です。
始動音が静かな車、爆音が出る車などいろいろな車がありますが、適量な音で心地よい音質、というのはレンジローバーとジャガーを置いてほかに無いと思います。

アイドリング時でも低く排気音が室内に入りますが、振動とともに非常に小さいレベルまで抑えられていますね。
とくに振動に関しては比喩抜きで「皆無」というレベルで、サルーン顔負けと言えるでしょう。
これはノイズ、バイブレーションを比較的大きく伝えるフェラーリとは正反のアプローチともいえ、ジャガーならではの手法とも言えますね。
妙にライバルを意識せず、独自路線を貫いているところは非常に交換が持てます。
不思議なのはこの状態でもなぜか異常に高いボディ剛性と安心を感じさせる、ということ。
まだ走っておらずエンジンを始動させただけなのに岩のような剛性を感じるわけですね(ぼくの経験ではこのような感覚はアウディ移行後のランボルギーニのみ)。

さて、ギアをDレンジに入れ、いよいよ走行開始。
ステアリングホイールはかなり太く、しかしパッドが厚め。ぼくは緊張するとステアリングホイールを強く握る癖があるので、柔らかいステアリングホイールは比較的好みに合っています(ウラカンはステアリングホイールが硬い)。

ステアリングホイールを回す重さは軽くもなく重くもなく。このあたり人の感覚に忠実で、違和感がありません。
ステアリングの切れ角も同じで、ステアリングホイールを回した分だけ曲がる、という感じ。
ディーラーから車道に出る際の段差を越える際もボディや内装はまったく音を立てず、期待通りの剛性を持っていることもわかります。
車道に出て流れに乗りますが、ここでもアクセルの踏み具合に対して思った通りの加速を見せるのはさすが、というところ。
この時点で単純ですが「おおっ、スゲー」という印象。
どんな理屈よりも感覚に訴えてくるところがあるわけです。単純に楽しい、ということですね。
アクセルを踏み込むとスーパーチャージャーならではのリニアなトルクの盛り上がりとともに軽く加速。0-100km/h加速は4.2秒なので「超」がつくほど速いわけではありませんが、かなりの俊足であることは間違いありません。

踏めばガツンと加速し、ステアリングを切るとどっしりとした安定感を持って曲がる様はスポーツカーとしては一級とも言え、スポーツカーというよりもフェラーリ、ランボルギーニのようなスーパーカーに近い感覚。
トランスミッションはトルコン式ATだと思うのですが、ツインクラッチでないのにここまでのダイレクト感が出せるということは非常に驚きです。

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ブレーキは鋳鉄ローターですが、これもステアリングとアクセル同様、操作に応じて適切に反応する味付けで、過度な効きではないのは好印象(カーボンディスクブレーキはオプション)。

電制デフ、トルクベクタリングのせいでFRとは思えないほど安定したコーナリングが衝撃的で、アダプティブダンパーの出来が良いせいもあり姿勢変化はほぼ無いまま、グイグイとカーブを曲がるのはちょっとした異次元体験。
似たようなコーナリング感覚としては日産GTーRがあり、まるでゲームのように現実感の無い(良い意味で。この速度だとこういった挙動になるだろうという経験上の予想を良い意味であっさり裏切る)状態で曲がります。

なお、試乗中、どのような状況でもまったく姿勢の変化がなく、突き上げが無かったように思います。
これはちょっと異常とも言える事態で、自動車に関する認識を完全にひっくり返されることになりました。
もしかすると、オフロードカーで培ったレンジローバーの技術が、オンロードでの姿勢制御やトルク配分にも生きているのかもしれない、と思います。

あまりに静かで振動が無く、そして異常に高い剛性のためにコクピットのみが完全に独立しているような、まさにシミュレーターの中にいるような感覚なのですが、アクセル・ブレーキ・ステアリングは紛れも無く現実として操作に忠実な反応を示し、それでいてロードインフォーメーションをしっかり伝えてくる、という乗り味はポルシェやフェラーリ、ランボルギーニのどれとも異なるものです。

スポーツカーは音が大きく、振動があり、路面からの衝撃をそのまま伝える、という旧来のイメージと常識はすでに崩れつつありますが、ジャガーFタイプはこれを完全に否定もしくは覆した新世代のスポーツカーと言え、ジャガーのコピー通り「GAME CHANGER」と言えますね。

おそらくはポルシェもフェラーリもランボルギーニも目指さず(スポーツカーを作るとなるとこれら、特にポルシェを必ず意識するものですが)独自の解釈にて車を作り上げたと考えられ、そのためにこういった「新しい」乗り味を実現できたのだと思います。

近年の車の例に漏れず、ジャガーFタイプも走行モードを変化させることが出来るのですが(ダイナミックスイッチ)、これを操作するとイヴォーク同様、アクセルに対する反応が変わるとともにメーターのインデックス、ハンズの発光色が赤になるなど、視覚的にも変化します。
当然排気音もかなり勇ましいものになるのですが、ジャガーFタイプRクーペの場合は、エキゾーストシステムのみを単独で音量変化させる機能もあり、走行モードがノーマルのままでも「それっぽい」気分を味わえるのが良いですね。
なお、モード変更によってアイドリングストップもオフになり、高回転からのアクセルオフではバブリング(バリバリバリ!という排気音)が発生する仕様で、こういった「演出」においてもまず最先端と言えます。

ジャガーFタイプはクーペとコンバーチブルがあり、価格はコンバーチブルのほうがやや高価。
下は823万円のクーペ(3リッターV6、340馬力)から上は1286万円のRクーペ(5リッターV8、550馬力)まであります。

近い価格帯だとシボレー・コルベット(918ー1159万円)、ポルシェ・ケイマンGTS(915万円)、ポルシェ911カレラ(1255万円)がありますが、いずれに対してもジャガーFタイプのほうが出力・装備としては圧倒的。
同じような馬力だとアウディR8(525馬力/2400万円)、SL63AMG(537馬力/2036万円)があります。
似たようなカテゴリの車だとマセラティ・グランツーリズモ(405馬力、1594万円)。
これらに対してはジャガーFタイプは価格面でも大きく優位性がありますね。

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個人的な好みや感覚にもよりますが、ぼく的にはそれらのいずれに対してもコストパフォーマンスが非常に高い、と考えています。
ただし現代に多いて、スポーツカーとしての一般的ブランドバリューとしてはやはりポルシェのほうがずいぶん上だと思いますし、それはリセールにも現れるかもしれません。
ぼくの場合、実際にこの価格帯のスポーツカーを購入するとなると、ジャガーFタイプを選ぶか、それともポルシェ・ケイマンGTSもしくはポルシェ911を選ぶかは非常に難しい問題です(馬力と価格ではジャガーFタイプが圧倒的に有利だとしても)。

しかしながら(ぼくのポルシェに対する贔屓目を抜きにすると)、この価格でこの性能、そして未だ体験したことの無いスタビリティ、という点においては非常に高く評価すべき車で、今年の試乗のなかではフェラーリ458スペチアーレに次ぐ(もしかするとそれ以上の)衝撃であります。

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