さて、期待のレンジローバー・ヴェラールに試乗。
すでに外装については確認してきており、その様子は下記にアップしているので、ここでは外装については簡単に。
端的に言うと「コストや効率を重要視するメーカーには、こういった車は作れないだろう」と思われ、イタリアの自動車メーカーであればまだしも、まず日本やドイツの自動車メーカーはこういった車は作れず、もし日本の自動車メーカーのデザイナーがヴェラールのボディ下部にあるような「ブラックベルト」を取り付けようと上層部に進言しようものなら「地球の裏側まで」飛ばされるであろうことは必至。
とにかく走行性能には関係のない、しかしやたらと精度が要求されるパーツが満載となっており、設計者や購買担当にとっては「頭が痛いこと極まりない」車だと思われます。
つまり「デザインのための全てを擲った」と考えても良い車であり、これが「会社として」まかり通ったのはレンジローバー・イヴォークの成功があったから、と考えて良いかもしれません。
その経緯についておさらいしておくと、レンジローバー・イヴォークは当初「既存プラットフォームとドライブトレーンに、フォードのエンジン」を搭載した車として登場。
要は「お金がかかっていない(当時は財政上仕方がなかった)」車であり、レンジローバーというネームバリュー、そして魅力的なデザイン「のみ」がセールスポイントとなっていた車。
ただし爆発的にヒットすることとなり、「機能的に最新ではない」とイヴォークを見下していたほか自動車メーカーに対して仰天の事実=人々が求めていたのは走行性能や最新テクノロジーではなく、単に格好良いデザインだった、ということを突きつける結果に。
イヴォークのヒットによって資金を得たジャガー・ランドローバーは、そこから自社によるエンジン、駆動システム、トランスミッションの開発を行い、それらをイヴォークに反映させることで現在のイヴォークは「外観、中身共に最強」となっています。
もちろんこれはジャガー・ランドローバーの「計画通り」ということになり、その戦略と先見性には驚かされるばかり。
そんな「他社とは全く異なる」ビジネスモデルを持つジャガー・ランドローバー、そして世界でも珍しい「オフローダー専業」ブランドであるレンジローバーが放つ最新作がこの「ヴェラール」。
最近は世の中「猫も杓子も」SUVブームで、BMW、メルセデス・ベンツ、アウディといったジャーマンスリーはもちろん、アストンマーティン、ロールスロイスのようにSUVとは縁のなかったブランドもSUV投入を行う予定で、ランボルギーニ、果てはフェラーリといったスーパーカーメーカーまでもSUVを発売するまでに至っています。
かつては「不可侵」領域だったレンジローバーの生息域に多くのメーカーが参入していることになり、この状況においてレンジローバーが出した「回答」がヴェラールとなりますが、そこには「どうだ」というデザイナーの矜持、そして「追ってくるメーカーがあれば、さらに先にゆくまで」という余裕すら感じられるかのようですね。
とにかくボディ表面は「フラッシュサーフェス」化が進んでおり、バンパーやグリル、ランプ類はもちろん、マフラーエンドまでもがツライチに。
おそらくは製造についてもかなりの精度が求められると思われ、とにかく「手間のかかった」車であることは間違いなさそうです。
ちなみにぼくは、車の展示会や試乗について、「ドレスコード」がない限りはジャージを着て行きます。
なぜかというと、ぼくは車を「下から」見るタイプであり、ブレーキキャリパーやサスアーム、スポーツカーだとアンダーカバーやディフューザーなどをチェックするためで、そういった場合に「無理なく下を覗き込める(地べたに這いつくばることができる)」ジャージが最適だ、と考えているため。
ただ、レンジローバー・ヴェラールだけは「ジャージ」を寄せ付けないオーラを持っており、これほどジャージを着てきたことを後悔させた車も他にないのも確か。
それほどまでにジェントルな佇まいを見せるヴェラールですが、早速試乗してみましょう。
リモコンでロックを解除するとドアパネルと麺を揃えて装着された”フラッシュマウントデプロイアブルドアハンドル”がポップアップ。
そのドアノブを引いてドアを開けて室内へ。
室内はこんな感じ。
ヴェラール特有のデザインを持ち、先進性とシックさとが同居するもの。
モデルラインアップ頂点のレンジローバーほど重厚ではなく、ボトムを担うイヴォークほどカジュアルでもなく、しかしその中間でもない、という感じ。
ステアリングホイールやセンターコンソールそれぞれの造形は似ているのに完全に新しいインテリア、というイメージですね。
エクステリア同様にインテリアでも「フラッシュマウント」が基本で、ハザードスイッチすらダッシュボードとツライチに。
特徴的なのはセンターコンソール。
電源が入っていない状態では「真っ黒のパネル」となっており、ベゼルレスのスマートフォンみたいな感じですね。
ですが一旦電源が入るとそこに隠された画面やスイッチがパネル内側から浮かび上がる、という仕組みです。
ステアリングホイールのスポークも同じ。
何もない状態では「真っ黒」ですが、車両が目覚めると同時に、ここへ各種スイッチが浮き出ます。
インフォテイメントシステムは普段ダッシュボードと「ツライチ」ですが、エンジン音とともに「見やすい角度」へとモニターが起き上がる機構を持っています(画像ではまだ寝たまま)。
質感の高いダッシュボード。
イヴォークにおいてもわざわざ樹脂の表皮にステッチを入れたり、という細かい作業が見られたものの、ヴェラールではまた異なるアプローチを用いているようですね(レザーに変わる高級素材としてファブリックを揃えることでもそれは理解できる)。
インテリアの観察もソコソコにエンジンをスタートさせ、早速車を発進させてすぐに感じるのは「あまりの滑らかさ」。
力強く加速するのに車体の姿勢変化は小さく(皆無と言っていい)、そしてエンジンやトランスミッションの衝撃、ノイズ、振動もまた皆無。
アクセルを踏むとそのまま「スルスル」と走る出すというイメージで、まるで電気自動車のような静かな滑り出しだ、と感じます。
グッとアクセルを踏んでもその印象は変わらず、「そのままの姿勢」でグイグイ加速する感じですね。
ここは4WDの恩恵を強く感じさせるところなのかもしれません。
なおエンジンは3リッターV6スーパーチャージャーで、出力は380馬力。
車の性格や静粛性を考えると、やはりガソリンエンジンとの相性に優れるのかもしれないとは思いますが、これはディーゼルモデルも乗ってみないと判断できないところ。
足回りは同門の”猫足”を誇るジャガーFペイスよりも柔らかく、突き上げもまた皆無。
それでいてロールやピッチングも感じることなく、毎度のことならがらレンジローバー各モデルに乗って思うのは「どうやったらこんなに優れた足回りができるんだろうな」ということ。
多くのメーカーのSUVでは乗用車の車高を単に「上げただけ」で、そしてそのために重心がちょっとずれてしまい、車線変更やダブルレーンチェンジ、加速や減速の際に「ちょっと気持ち悪い」動きをすることも。
加えてステアリング操作への応答性を高めるとさらにこの傾向が出るためか、ステアリングのセンターそしてレスポンスが「曖昧」な味付けとなっているSUVも多いようです。
今までの経験上、スタイルは気に入っていていもこれが理由で購入に至らないケースもありましたが、ヴェラールの場合はそういった挙動や設定は皆無。
路面からの衝撃を全て吸収してビシリと車体を安定させ、レーンチェンジを行なっても車体が「揺れる」ことも「揺り返し」もなく、何事もなかったかのように車線変更を完了します。
カーブにおいてもステアリングを切ったぶんだけ正確に曲がり、曲がり過ぎることもステアリングを切り足す必要もなく、まさに「ニュートラル」。
しかもステアリング操作に正確に反応するのにナーバスな動きも見せず、まさに思った通りに車を操ることできる、「楽しい」車と断言できます(意のままに動くので気持ちいい)。
多くのSUVがそのサイズや居住性と引き換えに多くもののを失っているように思うものの、ヴェラールにはそう言った印象がなく、これは世にも珍しい「4WD専業」のランドローバーだからこそなせる技なのかもしれませんね。
世の中には「快適な」車は多くありますし、「走って楽しい」車もたくさんあります。
ですが、その多くは「快適なだけで運転していて楽しくはなく、単なる移動手段としての車」であったり、「走っている時は楽しくとも、快適性や利便性、そのほか何かを犠牲にしなければならない車」である場合も。
しかし、レンジローバー・イヴォークは「快適で、かつ走って楽しい」稀有な車と言っていい、とぼくは考えています。
こう言った車で他に思い浮かぶのはポルシェですが、その意味でもヴェラールはカイエンやマカンと競合することが多いのかもしれません。
ただ実際にレンジローバー・ヴェラールを見るとそのあまりに複雑なディティール、それなのにシンプルに見えるデザインを見ると、そしてその先進的なインテリアに触れると、「この車に太刀打ちできる車はそうそうないだろう」という気も。
カタログの冒頭に「全てを変えるSUV」とありますが、まさにそれが過言ではないとわかるデザイン、そして走行性能を持つのがヴェラール、というわけですね。
そして、「もしこの車を自分のものにできたら、どんなに幸せだろうか」とも思わせる車で、この車が自分のガレージに収まることを考えただけで胸が高まる車でもあります。
ぼくはけっこうSUVが好きで、これまでも多くのSUVを運転しましたが、現時点において「間違いなくNo.1」なのがこれのヴェラール。
デザインやそれに対するお金のかけ方、クオリティ、インテリア、装備、走行性能、全てにおいて非常に高く評価できる車。
何より「何にも似ていない」「他メーカーを全然意識していない」王者たる風格が素晴らしく、そういった車に乗ることで、自ずと自分にも自信が持てそうですね。
そのほか気づいたのはこういった部分。
まずはマットクローム調のホイールボルトですが、ボルトすら美しくデザインされているのはレンジローバーならでは、と言えます(フォルクスワーゲン・アウディグループはボルトキャップを使用することで同じように美しく見せている)。
そして前後サスペンションのアーム類。
軽合金でできており(リアは中空構造)、これはスチールのサスアームを持つイヴォークとは異なるところ。
ここは意外と重要だとぼくは考えていて、こういった目に見えないところにお金をかけるのは「いいメーカー」だと考えています(必ずしも軽合金だといい、というわけではないのですが)。
フロアも基本的に「フラット」で、空力を意識していることがわかりますね。
なお、今回試乗させていただいたのはランドローバー箕面さん。
ぼくがイヴォークを購入したディーラーで、それ以来何かと良くしてくれる、信頼のおけるディーラーです。
〒562-0043 大阪府箕面市桜井3-13-7