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【試乗:アストンマーティンDB11】英国、007といった「アストンらしさ」が詰まった珠玉の一台

2017/02/20

さて、かねてより試乗してみたかったアストンマーティンDB11に試乗。
この価格帯だとホンダNSX、アウディR8、ランボルギーニ・ウラカンRWD、マクラーレン540Cなどの選択肢がありますが、アストンマーティンDB11が他に優位に立つポイントとしては何と言ってもV12エンジン。
他はV6やV8、ハイブリッドというパワートレーンを持ち、アウディR8とウラカンがV10を採用する、というくらい。

ランボルギーニのV12モデル、フェラーリのV12モデルだと4000万円前後なので、アストンマーティンDB11の「2380万円」は破格と言って良いでしょう。

さて、ここでアストンマーティンDB11のスペックを記載。
やはりエンジン(V12)が目をひきますね。

アストンマーティンDB11
価格 2380万円
エンジン型式 V12 5.2リッターツインターボ
エンジン出力 608馬力
最高速 時速322キロ
0-100キロ加速 3.9秒
駆動方式 RWD
トランスミッション 8速AT
重量 1770キロ
全長×全幅×全高 4739×1940×1279mm
ホイールベース 2805mm

こちらはライバルのスペック。
それぞれに特徴があり、いずれも駆動方式やハイブリッドなどの違いはあるものの相当に速い加速、最高速をマークしています。
むしろ加速だけを見るとアストンマーティンDB11は「最も遅い(しかしこれは問題ではない)」部類となっていますね。

ポルシェ911ターボ
価格 2236万円
エンジン型式 フラット6 3.8リッターツインターボ
エンジン出力 540馬力
最高速 時速320キロ
0-100キロ加速 3.0秒
駆動方式 4WD
トランスミッション 7速デュアルクラッチ
重量 1595kg

ランボルギーニ・ウラカンLP580-2(RWD)
価格 2462万4000円
エンジン型式 V10 5.2リッターNA
エンジン出力 580馬力
最高速 時速320キロ
0-100キロ加速 3.4秒
駆動方式 後輪駆動(ミドシップ)
トランスミッション 7速デュアルクラッチ
重量 1389kg

マクラーレン540C
価格 2188万円
エンジン型式 V8 3.8リッターツインターボ
エンジン出力 540馬力
最高速 時速320キロ
0-100キロ加速 3.5秒
駆動方式 MR
トランスミッション 7速デュアルクラッチ
重量 1313kg

ホンダNSX
価格 2370万円
エンジン型式 V6 3.5リッターツインターボ
エンジン出力 581馬力(システム合計)
最高速 時速307キロ
0-100キロ加速 3秒
駆動方式 4WD(フロント:モーター、リア:ガソリンエンジン)
トランスミッション 9速デュアルクラッチ
重量 1725キロ

アウディR8 V10プラス
価格 2456万円
エンジン型式 V10 5.2リッターNA
エンジン出力 610馬力
最高速 時速330キロ
0-100キロ加速 3.5秒
駆動方式 4WD
トランスミッション 7速デュアルクラッチ
重量 1670キロ

フェラーリ・カリフォルニアT
価格 2450万円
エンジン型式 V8 3.9リッターツインターボ
エンジン出力 560馬力
最高速 時速316キロ
0-100キロ加速 3.6秒
駆動方式 RWD
トランスミッション 7速デュアルクラッチ
重量 1625キロ

話をアストンマーティンDB11に戻すと、その特徴は発表時のプレスリリースによると下記の通りとなっていますが、ここで注目に値するのは「エアロダイナミクス」。
動画も公開されていますが、この考え方は秀逸、と言って良いでしょう。

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アストンマーティンDB11のエアロダイナミクスはこう働く。解説動画が公開に

・新設計アルミプラットフォームを採用
・サスペンション:F ダブルウィッシュボーン、R マルチリンク「アダプティブ・ダンピング・システム」を装備
・エアロダイナミクスを追求し、前から入り込んだ空気をフロントフェンダー後方のスリットから排出し車体前部のリフトを抑制
・Cピラーインテークから空気を取り込み、リア上面から出すことでダウンフォースを増加
・ステアリングスイッチにより、走行モードを「GT」「スポーツ」「スポーツ+」に切り替えることにより、ダンパー減衰力、エンジン特性、トランスミッション変速スピード、パワーステアリングフィードバック、トルクベクタリングシステム制御を変更可能
・最新インフォテインメントシステムを採用
・オプションでタッチパッドも用意
・安全装備として、「オート・パーキング・アシスト」、「360度バーズアイ・ビュー」を採用

前置きがいつになく長くなりましたが試乗に移りましょう。

まずはスタイリングチェック。
ヴァンキッシュに近いスタイルとも言えますが、より長く低く、伸びやかにスタイリッシュになっているように見えますね(アストンマーティンの例によって、画像よりも実物の方がずっと格好良い)。

ただしモール類などの付与、もしくは形状(直線と曲線、平面と曲面が組み合わせられた複雑な形状)のリファインで大きく質感が向上。
ショールームに展示してある他のアストンマーティンと比べると、やはり「最新」ということを強く感じさせられ、イメージ的には「二世代ほど進化した」ような印象を受けます。

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試乗のためアストンマーティン大阪へ。その様子を画像で紹介

特筆すべきはリアフェンダーで、アストンマーティン史上最大の盛り上がり(ザガート除く)。
これは実際の「盛り上がり」もありますが、ドアの後方をボディ中心に向けて一旦絞ったのちにリアフェンダーで一気に解放する、という「落差」による視覚効果も大きい、と言えます(ランボルギーニ・ウラカンと同じ手法)。

昔風の開き方をするクラムシェル型ボンネット。
適当にガチャリと閉めると、あとは電動で引き込まれ、しっかり閉じられます。

エンジン。
当然ですが相当に大きく、しかしフロントバルクヘッドにめり込むようにレイアウトされているのがわかりますね。

フロントタイヤが見えるのはちょっと気分が高揚するところ。
これだけで「スーパーカー」的な雰囲気を味わえるようにも思います。
やっぱりフェンダー内の内圧を抜くようなデザインですね。

テールランプより入り組んだ構造に。
One-77に始まりヴァンキッシュとも共通するデザインですが、より立体的になっており、相当に高級感を感じるところ。

こちらはバンキッシュ。

内装。
メルセデス・ベンツとの提携の恩恵で一気に近代化されており、かつ質感も向上。
これまでのアストンマーティンも質感は非常に高いと感じていましたが、それを大きく超える完成度ですね。
なお、センターコンソールは電動にて「スライド開閉」。

この部分について電動の必要性は全くないのですが、これは「ボンドカー風」の演出だと思われ、僕はこういった部分こそが重要だ、と考えています。
このセンターコンソールはかなり大きく、ここにハンドガンやスパイ小道具を収納したくなるところ(ぼくがDB11を購入したら必ずそうする)。
メーターはフルデジタル式で、かなり彩度の高い液晶を使用しています。

ドアを開けて乗り込みますが、アストンマーティンの美点はこのドアにも感じられ、まずは「ちょっと斜め上に開く」スワンスイングドア。
これによって狭い場所でも足元を広く確保できるわけですね。

加えてダンパーによって「どこでもストップするドア」。
ラッチ式ではないので三段階や四段階といった感じではなく、「無段階」に開き、どこでもドアを止めることができます。

サイドシルは太く分厚く、この辺りランボルギーニ・ウラカン、フェラーリ・カリフォルニア、ポルシェ911ターボよりもかなりゴツいのが意外ですが、これがまた走りを予感させる部分ですね。
そのサイドシルをまたいで上質なレザーを使用したシートに腰を下ろしますが、このシートがこれまた秀逸。
柔らかすぎず硬すぎず、それでいてしっかり体をホールド。
まずどんな状況でも体がずれることはなさそうなシートです。

操作系についてはこれまでと大きく変わることはないようですが、パドル、ドアインナーハンドルなどの質感が大きく向上。
センターコンソール上のタッチパッド(オプション)もメルセデス・ベンツからの技術かと思われます。

ドアを閉めるとかなり「タイト」な印象を受け、それは太く高いセンターコンソール、高めのベルトラインに起因する模様。
ジャガーFタイプからも同じ印象を受けますが、この「タイト」さが英国のスポーツカーを象徴していると言って良いでしょう。

エンジンのスタートはセンターコンソールのスタートボタンを押すことで行いますが、これはポチッとワンタッチで押した時、長押しで始動音を変えることができ、長押しで(多分)サイレントモードに。
これは早朝に車を出す時にうれしい機能ですね。

レザーのグレードは3種類あり、試乗車は「真ん中」のグレードとのことですが、これまでに触ったことがないような「しっとりとした、吸い付くような」手触りで、ここはさすがアストンマーティン。

とりあえず「D」レンジに入れて車を発進させますが、クリープは結構強め(慣れると運転しやすい)。
まず感じるのは「静か」「しっとり、どっしりしている」ということで、スポーツカーというよりは高級車のような印象。
なお静かさは特筆すべきレベルで、DB11試乗の後にウラカンに乗ると、ウラカンのウインドウを閉めていても「ウインドウが全部開いているんじゃないか」と疑いたくなるほど室内に入り込む騒音には差異があります(ウラカンの名誉のために記載しておくと、ウラカンのウインドウは軽量化のためにかなり薄くなっていると思われる)。

だだアストンマーティンDB11では、ダイナミックモード(ドライブモード)を「S」「S+」に上げて行くと(標準は”GT”)容赦なく豪快な排気音が室内に入ってくるように設定されており、これは嫌が応にも気分が盛り上がるところ。

面白いのは「エンジンレスポンス」と「サスペンション」を個別に設定できるところで、エンジンレスポンスを「S+(レスポンスが鋭く、高回転まで引っ張る設定になり、エキゾーストサウンドも大きく)」にしてサスペンションを「GT(柔らかい)」のままにしておくことも可能。

一部メルセデスAMGでは「個別」に設定できるエンジンレスポンスとサスペンションですが、多くの車はこれらが連動して変化するので、個別に設定できるのは優れた部分、と言えますね(柔らかいい足回りのままでサウンドを楽しみたいときもある)。

なお足回りについては、最も硬い「S+」でウラカンの標準と同じくらい(つまりウラカンは相当に硬い)。

とにかくGTモードでの乗り心地の良さは特筆すべきものがあり、路面に吸い付くような上質な乗り心地。
一方で「S+」に入れると(モードごとにメーターのスケールのカラーが変わるなど演出も十分)路面の凹凸をモロに伝えるダイレクトな足回りとなり、性格も豹変。

エキゾーストサウンドについては「GT」と「S+」では感覚上「倍くらい音量が違う」ように感じられ、多くのスポーツカーのスポーツエキゾーストで「変わったかな?」というくらいの変化しかないのとは対照的。
これは回転数を上げなくともアイドリング状態でも全然変わります(ちなみに振動はなく、リズミカルな破裂音のみが室内に届く。これはメルセデスAMGに似ている)。

慣れてきたところでちょっと踏んでみますが、これには正直びっくり。
普通の車の感覚でアクセルをぐっと踏み込むといきなりテールが暴れ出すほどの強大なトルクを発生。
しかもAT(ZFのトルコン)なのにシングルクラッチ並みのガツン!という変速ショックを演出し、その都度車体を揺すられるほどの乱暴さ。

もちろんこれは意図的な設定ですが、その凶暴さには驚かされ、ものの本で「アストンマーティンの外観に騙されてはいけない。基本的には英国のライウエイトスポーツと同じで、スーパー7に高級なガワを被せただけのものだ」と書かれていたことを思い出します(英国人は過激)。

今時アクセルを踏んだだけで(ステアリングホイールを切っていないのに)これだけリアが暴れる車は珍しく、同じイギリスのマクラーレン(540S/570S/570GT)の方がよっぽどおとなしく思えますね(マクラーレンはテールハッピーな車ではない)。

おそらくコーナリング中にアクセルを踏むと豪快にテールスライドするんだろうなと思いながらスピンしないようにステアリングを中立に戻してからアクセルを踏むようにしましたが、とにかくこれにはびっくりするとともに「何て面白い車なんだ」と感じることに。

なお車両のバランスは非常に良いようで、ステリングについても回頭性が良く、フロントにV12エンジンを積んでいるとは思えないほど。
面白いように曲がりますし、さらにはアクセルで自由自在に方向性を変えることができる車でもあり、FRの手本とも言えるようなセッティング。
この辺り全くサイズを感じさせず、イギリス車らしい、「ライトウエイトスポーツ」的な部分も持ち合わせた車でもありますね。

こういったところを見るにあたり、アストンマーティンDB11は絶対的な加速や最高速度を誇るたぐいの車ではなく、「自分が楽しいと思えればそれでいい」という、英國っぽい頑固な個人主義が反映された車のように思われ、「他人は他人、自分は自分」という考え方が反映されているようですね。

なおぼくの経験上ですが、英国人は見栄よりも実利を取る傾向があり、住宅にしても、見た目は質素でも中に入ると豪華であったり、その人の趣味に合わせて快適さを追求していたり、住みやすい環境を作り上げているように思います。
「人の目を気にせず、自分がいいと思うもの」を追求する姿勢が英国にはあると思われ、そういった思想がアストンマーティンにも反映されているのかもしれません。

その意味では「競合」といえる車はなく、指名買いで購入される性質を持っている車と考えられ、実際にこの車に触れ、乗ってみて波長が合えば文句なしに「買い」。
強いてあげるとすれば、ぼく的にアストンマーティンDB11のライバルと言えるのは「フェラーリ・カリフォルニアT」なんじゃないか、という印象。
FRというレイアウトも近いですが、何よりGT的な性格が似ており、「ゆったり乗っても、気合を入れて走ってもOK」というところも共通している、と思います。

アストンマーティンDB11について、GTモード時のジェントルさ、S+モードでの凶暴さ、そしてゆっくり走らせた時のマイルドさ、ガツンと踏んだ時に見せる野獣のような一面は英国人作家、ロバート・ルイス・スティーヴンソン氏の著書「ジキル博士とハイド氏」のようだ、とも。

最近のハイパフォーマンスカーはいずれもドライブモードを供えますが、ぼくが運転した中ではアストンマーティンDB11ほど「落差」が大きなものはなく、その性格の豹変度合いにはただただ驚かされるばかりですね。

なおサウンドについては自然吸気っぽい音でターボ特有のこもり音は感じられず、ライオンが耳元で吠えるようなあの「アストンマーティンならでは」のV12サウンドは健在。

加えてこの品質と装備、最新のエアロダイナミクス、英国紳士的な気質や007気分に浸れる演出、V12エンジンのパンチ(しかもターボ)とそのサウンドを考えるとこの価格は「かなり安い」と言えますね。

正直なところ「数字」だけを事前に見ていて「意外と遅い」と判断していた自分が恥ずかしくなるほど「数字の持つ無意味さ」、そしてぼくらは数字の上に乗るわけではない、ということを教えてくれた車であったと思います。

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