■車/バイクの試乗記、展示会やイベントなど

なぜ試乗を行うのか?乗らないとわからないから。そこから得られるものについて考える

2014/12/04

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ぼくは車の試乗が大好きですが、これには2つの意味があります。
ひとつめは、単純に購買。これは購入を前提にしたものと、購入する意思がまだ無くとも試乗することで購入する気が起きるかもしれない、という「顕在」と「潜在」両方を含みます。
ふたつめは、単に「最新の技術や考え方に触れたい」というもの。こちらも、購入の意志がなくて試乗したときに感銘を受けて購入に至る、ということがあります。

モノというのは、必ずなんらかの目的や意図があって作られるのですが、試乗という短い時間と体験を通じてでも、メーカーがなにを意図してその車を作ったのか、なぜそういった作りになっているのか、を考えることができます。

その車の構造はもちろん、スイッチの位置、情報の表示方法、操作系の重さや反応など。
そういったものが、その車の性格を形成するものであり、そのルーツを考えるのがぼくにとっての一つの楽しみでもあるわけです。

最近の車の傾向としては、「安全」「快適」「刺激」ということがあるように思います。これは運転する側、歩行者とも「命」に関わる事故が発生しうるということを考えると、社会からの必然的要求です。
安全についてはプリクラッシュセーフティなど、フェイルセーフ的なもので、パーキングシストやカメラもこれに含まれると考えて良いでしょう。
事故や接触などを極力自動車側で減らす、という考え方ですね。

快適性についてはセダンはもちろんですが、今やスポーツカーにとっても欠かせない要素になってきています。
ロシアや中国、南米など道路があまり良くない国で乗られる機会が増加し、車にとっても人にとっても、衝撃をいかに吸収して乗り心地を確保するかというのは重要な課題として扱われます。
そのために、ほとんどのスポーツカーがオプションであっても可変式減衰力調整機構を持つようになり、マグネライドやPASMなどはそれに該当します。
これによって乗り心地の良さも実現できますが、同時に反対側つまり「よりハードに」変化させることも可能なので、スポーツカー本来の性能を、スイッチひとつで発揮させることができるようになっているわけですね。

そうなると、どの車も安全で乗り心地が良くなってきます。
その場合はスポーツカーとクーペやSUV、セダンとの境界線が曖昧になってくるのです。
電子制御がその自動車本来のパッケージングやレイアウト、駆動方式に依存する差異すらもカバーもしくは超越してしまうようになり、スポーツカーの存在意義がなくなってくるわけですね。
そこで重要になるのがスポーツカーたる所以を感じさせる「刺激」で、最近流行の「バブリング」はまさにこれに該当します。
古くはシフトダウン時のブリッピング、その後はメーターの表示方法、モード変更によるシフトタイミング/ステアリングの重さや切れ角/アクセルに対するレスポンス/サスペンション硬さの変更など。
サスペンション同様に、快適にするための電子制御が、逆に刺激を与えるためにも活用できるというのは非常に面白い事実で、快適さとはなにかということが理解できると逆に刺激とは何かも理解できるという、哲学的な話になってしまいます。

こういった「刺激」にいち早く着目したのはBMWで、かなり早い段階から排気音の調整やアクセルレスポンスの制御などに着手しており、そのためにそれまでスポーツカーに乗ったことがない人がBMWのスポーティモデルに乗ると非常に「刺激」を受けるということもありましたね。

その後はフェラーリがF1由来のマネッティーノを搭載し、アウディも独自の車両総合制御技術を開発してゆくことになりますが、そういった技術の進歩のおかげで、ぼくらは路面状況などを気にすること無く、運転だけに集中できるようになりました。。
そして、その日の体調や気分に応じて車の性格を変えることもでき、いろいろな環境において自分に合った楽しみ方ができるようになった、ということでもあります。

以前は車(とくに神経質なスポーツカー)のドライバーというのは、車の調子を感じ取りながら、それに合わせて運転したり走る環境に応じて運転の方法を変えたり、といったスキルが必要でしたが、今はそういったことは必要なく、逆に人のスキルや気分、環境に車側が合わせてくれるようになったと言い換えることもできます。

ぼくは新技術賛成派なので、自動車が現代の環境に求められる要素をいかに達成するかということ、そしてその方法はなにかということを、試乗を通じて感じ取っているわけです。
そして、その中で「これは」と思うもの、自分に合うと感じたものを購入するようにしています。

なお、ポルシェにおいては2000年代初頭には「スポーツカーは日常性を備えていないといけない」「ドライバーに負担をかけてはいけない」という考えのもと、「刺激」という要素をポルシェの車(GT3など特殊モデルを除く)に盛り込むことは行ってきませんでした(反面、フェラーリは”非日常性”を掲げ、刺激を重要な要素としている)。
その間、ほかのメーカーは「スポーツカーらしい演出」を盛り込んだり、ブリッピングや鮮やかなメーター表示、エンジン始動時に針が振り切れる演出などを行ってきたわけですが、ポルシェはそういった「演出」には消極的であったように思います。

車本体がポルシェの価値であり、見かけではなく本質的に優れた車本体を作るのが義務である、と考えていたと想像しますが、欧州や北米、日本などある程度成熟した国がメインマーケットであったうちはそれで良かったのだと思います。
それらのマーケットの人々は経験があり、正しく車の価値を理解する可能性が高いわけですね。
ですがその後に中国はじめ新興国の台頭で状況が変わり、運転経験の少ない人がお金を持つようになり、そういった人々は「本質」よりも「演出」に目を奪われやすくなって、優れた演出を行う自動車メーカーのほうに惹かれるようになる、という状況が発生したと言えます(そのため中国におけるスポーツカー市場ではポルシェは比較的シェアが少ないように見える)。

ですが最近はポルシェもそういった状況を鑑みてか、排気音を積極的に調整したり、室内からでも排気音を楽しめるようにしたり(993世代でもレゾナンス・インテーク・システムなどありましたが)、車の本質以上に「スポーツカー」であるように思わせる演出をするようになったり、と状況が変わってきています。
そしてより新しいポルシェの車であるほど変化の度合いが大きく、それもまた興味深いところですね。

単なる「試乗」といえばそれまでですが、ぼくは試乗を通じてこういったことを考えているわけです。

これまでの試乗レポートは下記のとおり。
最新の試乗レポートはこちらにあります。

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