| トヨタがこのクルマを発売することで得るものは非常に少ない |
carviewによると、トヨタのニューモデル「Tjクルーザー」の発売が2020年5月になるだろう、とのこと。
Tjクルーザーはトヨタいわく『“使い倒せる”TOOL-BOXの「T」と、クルマと様々な場所に出かける楽しさを意味するJoyの「j」に、トヨタのSUVラインアップに伝統的に使用してきた「CRUISER」を用いて力強さを表現した』というクルマ。
2019年東京モーターショーにて発表、12月から受注が開始されると言われていたものの、実際には「展示されないどころかまったく話題にものぼらなかった」一台でもありますね。
Tjクルーザーは他社のシェアを獲得できず、新しい市場も創出できない
なお、当時各メディアが報じたところでは「トヨタディーラーへの取材に基づき、12月発売という情報が得られた」というものでしたが、実際に12月に発売される予定であったものが延期されることになったのか、それともその情報自体がガセだったのかは不明。
ただし、「通常」であれば事前にリークされる営業員用販売資料なども流出しなかったので、実際のところは「もともと12月発売という説自体がガセだった」のだと考えています。
それはさておきTjクルーザー。
初出は2017年の東京モーターショーで、「Tool」をイメージした言われるとおり、助手席側はフルフラットとなりロングサーフボード、自転車などの長尺物(3メートルまで)も積めるとしています。
開口部も大きなものを積みやすいようにバックドアを大型化。
ボンネット、ルーフ、フェンダーには汚れや傷がつきにくいケアフリー素材を採用。
全体的なコンセプトはホンダ・エレメント(シートがフラットになり、サーフボードが入り、床も防水で、外装も傷を気にしなくていい樹脂製のクラディングで覆われている)に近いと言えそうです。
全長は4300ミリ、全幅1775ミリ、全高1620ミリ、とけっこうコンパクトなサイズ。
雰囲気としては「ハイエースとプロボックスを足して2で割って、ちょっとライフスタイル寄りにした」というイメージを受け、実際にトヨタは商用車としての活用も視野に入れている、とも(Tjクルーザー発表時に)紹介されていますね。
Tjクルーザーは本当に発売されるのか
現時点でトヨタはTjクルーザーについて発売を(公式に)明言したわけではなく、実際に発売されるのかどうかは謎(発売されない可能性もある)。
さらには「先行販売される」と言われた北米においても、現地ディーラーは「そんな話は聞いていない」という報道もあり、もしかすると日本のメディアだけが舞い上がって「Tjクルーザー発売!Tjクルーザー発売!」と先走っただけなのかも。
そこで発売すると仮定した場合ですが、トヨタによると(コンセプトモデル発表時のコメントでは)商用利用も想定しているということなので、ベースモデルの価格はかなり抑えられるか、別途商用グレードが用意されることにもなりそう。
ただ、その場合はプロボックス/サクシードとの競合も問題となる可能性があるのかもしれません。
なお、carviewでは、搭載されるパワーユニットは2L直列4気筒+エレクトリックモーターを採用する「マルチステージTHS II」ハイブリッドシステム」だと予想(160馬力程度)。
加えて駆動方式はFFと4WDが用意されるだろう、とも。※これらは2017年、Tjクルーザー発表時の情報に基づいていると思われる
そのルックスについては、(コンセプトモデルの)Tjクルーザーを踏襲することになるだろうと考えていて、無骨さ、そして「道具=Tool」っぽさは残される可能性が大。
というのもここ最近ヒットしたSUVに共通するのはズズキ・ジムニーにせよ、トヨタRAV4/ライズにせよ、「無骨でアクティブなイメージ」。
逆に「アーバン」っぽいイメージを持つホンダCR-Vや三菱エクリプスクロスは販売が芳しくなく、今は押し出しが強い、無骨なSUVでないと売れにくいと思われ、トヨタもそれを把握していると思われるから。
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冷静に考えるとTjクルーザーを発売する意味はない
そこで気になるのが、トヨタがTjクルーザーを発売する意味。
現在の乗用車販売ランキング(日本国内)を見るに、SUVに関してはライズ、C-HR、RAV4、ロッキー、ヴェゼル、CX-30、ランドクルーザー、エクストレイル、フォレスター、ハリアー、クロスビー、CX-5、レクサスUX、CX-8という順。
つまりすでにトヨタはランキング上位を占めていて、ここでTjクルーザーを発売すれば、トヨタは自社のラインアップを侵食する可能性が大きい、と考えています(とくにRAV4)。
さらには自社のミニバンやハイエース、プロボックスをも食ってしまうかもしれず、冷静に考えると「発売する意味がない」のがTjクルーザーでもあり、ライズのようにあたらしい顧客を呼び込むのは難しいかもしれません。
つまりはその発売によってトヨタのシェアを拡大できるわけではなく、むしろ自社の販売を侵食し、販売効率が悪くなるだけということですね(プロボックスやRAV4を食っても結果オーライなだけの利益を載せればいいということになるが、そんな価格では誰も買わないかも)。
もしSUV販売ランキング上位に「フォレスター」や、今はなき「モビリオ・スパイク/ホンダ・エレメント」のようなクルマがあり、それのシェアを獲得するということであれば「Tjクルーザーの存在意義は大きく」、しかしこの状況だとそうではなく、経営者的に考えるとTjクルーザーの発売は「NO」。
加えて、トヨタは「売れていないわけではない」エスティマすらも販売効率化のために生産を終了させたほどなので、この点からしても「わざわざ効率の悪いTjクルーザーを」発売することはなさそうです。
かつ、トヨタは明確な仮想ターゲット(よく売れている他社のクルマ)を定め、そのクルマのシェアを奪いにくる戦略を得意としており、「ギャンブル」は避ける傾向にある企業だということを忘れてなりません(ライズの場合はOEMという特殊性がある)。
ただ、それでもTjクルーザーを発売する意義があるとすれば、ひとつは「話題作り」。
しかしそこまでの訴求力はTjクルーザーには感じられず(社会現象になるくらいでないと費用対効果が低い)、よってこの線もなさそう。
あとは視点を「グローバル」に移したときですが、このサイズだと北米市場で他社のトラックを食うことは難しく、欧州だとシトロエンやプジョーのミニバンを食えるかもしれない、という程度です。
それらを考えても「どの市場においても」Tjクルーザーは存在するスペースがなく、かつ一時期言われたように「日本国内専売」だといっそうトヨタにとって意味のないクルマに。
ぼくはかつてホンダ・エレメントに乗っていたということもあり、Tjクルーザーのような道具っぽいクルマが大好きで、是非発売してほしいと思うものの、冷静に考えると「(発売は)無いだろうな・・・」というのが最近ぼくがTjクルーザーに対して考えることでもあります。
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VIA:carview