
| ワールドワイドではまだまだテスラには敵わないが、地元欧州ではテスラをついに凌駕する |
VWの販売努力もさることながら、テスラの「自滅」によるところが大きい
さて、テスラが自動車業界に登場し、初の量産・一般市場向けEV「モデルS」を発売した際、その市場の反響は冷ややかであり、そこからモデルSが人気化したとしても多くの自動車業界幹部たちは「いずれテスラは消えてなくなる」と考えていたわけですね。
しかしテスラの人気が衰えず、モデルX、モデル3を発売して圧倒的な支持を得るに至っては、既存自動車メーカーにとってのテスラは「脅威」へと変化し、自分たちが時代に取り残れているということに気付かされると同時に、テスラを「ベンチマーク」する動きが生じ、「テスラを超えねば未来はない」という風潮が生まれています。
つまりここでテスラは「自分たちの格下であり、一時的な人気を得ただけの、やがては消え去る一時的な存在」から「はるかに自分たちの先を行き、追いつき、追い越すべき存在」へと変化したわけですね。
わずか2年で形勢逆転──欧州EV市場でテスラが失速、VWが猛追
2023年、テスラは欧州市場で無敵の勢いを誇り、とくにモデルYは年間販売台数1位に迫る勢いを持つ一方、フォルクスワーゲンはID.3の生産停止を発表するほど低調で、さらには品質問題やソフトウエアの開発遅れなど様々な問題が指摘されていたという状況。
しかし今回、たった2年でその構図は劇的に変化したことが数値とともに明かされており、2025年上半期、VWグループのバッテリーEV(BEV)販売台数は前年同期比+46.7%(46万5,500台)を記録していますが、欧州では89%増の34万7,900台を販売し、(欧州市場において)テスラの販売を大きく上回る結果となっているわけですね。
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テスラの失速──欧州では苦戦中
一方のテスラでは2025年上半期の世界販売が14%減少(38万4,000台)し71万4,122台にとどまり、フォルクスワーゲングループはまだまだ全世界のEVではテスラに追いつくことはできないものの、欧州単体だとVWグループは34万7,900台を販売しているため、テスラを超えたことが確実視されています。※VWグループ=ポルシェやベントレー等、傘下のブランドも含む
なお、テスラは欧州単体での販売台数を公開していませんが、Dataforceの調査によれば、1月〜5月の欧州販売は76,400台であったたというので、ここから1ヶ月分をプラスした「上半期」の販売台数は推測で10万台程度だと見られるため、どう考えても「フォルクスワーゲングループの圧勝」というわけですね。
さらに注目すべきは、フォルクスワーゲンブランド単体でも12万2,600台を販売したという事実であり、つまり「VWブランドのみでもテスラの販売を超えたことが確実視」されている状況。
ちなみにですが、フォルクスワーゲンがテスラを「超える」ことができたのはフォルクスワーゲンの伸びによるのみではなく、「テスラの減少」があってこそで、見る影もないほど販売が減ってしまったテスラの「自滅」によるところが大きく影響しており(テスラが昨年並みの販売台数を記録していれば、VWはテスラにいまだ敗北を喫したままであろう)、テスラの減少、それに加えて「テスラが失った市場」のうち多くを獲得したフォルクスワーゲンの地道な、そして値引き販売などの努力等、複数要因によるものだと思われます。
ただ、まさかフォルクスワーゲンの勝利が「テスラの自滅」によって訪れようとは、フォルクスワーゲン自身も予測できなかったのかもしれません。
VWグループEV販売内訳(2025年上半期、ワールドワイド)
以下はフォルクスワーゲンブランドにおけるEVの販売状況ですが、特に目立つのはシュコダやクプラの伸び、そしてポルシェの成長(これは既報の通り、マカンEVによるところが大きい)。
さらにはアウディのEVも成長路線にあり、つまりVWグループ全体としては「普及価格帯からプレミアムブランドに至るまで」幅広くEVの販売を伸ばしているということがわかります。
ブランド | 販売台数(台) | 前年同期比 |
フォルクスワーゲン | 192,600 | +14.3% |
シュコダ | 73,000 | +148% |
セアト / クプラ | 37,600 | +105% |
VW(商用車) | 25,500 | +73.4% |
アウディ | 101,400 | +32.3% |
ポルシェ | 34,200 | +279% |
MAN(トラック) | 810 | +244% |
EV成長の代償──収益性への懸念も
ただしフォルクスワーゲングループとしても状況を楽観視できず、というのも好調な販売の一方、割引販売が利益を圧迫しているとの指摘もあるため。
ドイツ経済紙「Handelsblatt」では、ID.3などへの大幅値引きが奏功した反面、EV事業の営業利益率は目標の6.5%を下回っているというVW幹部の発言が報じられ、現在のフォルクスワーゲンの「勝利」が砂上の楼閣ではないかと指摘しているわけですね(値引きを停止したらまた売れなくなり、値引きに依存せざるを得ない可能性も)。
ただ、今後は2026年に登場予定のエントリーEV「ID.2」ほか、収益性の高い小型車が登場する見込みだとされ、これらによって挽回を図る戦略がカギを握ることとなるのかもしれません。
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結論:VWがディーゼルゲートの呪縛をEVで打破しつつある
かつて「ディーゼルゲート」でブランドイメージを大きく傷つけたVWですが、今やEVシフトを通じて再生の道を着実に進んでいるという状況。
欧州市場での快進撃は、イメージ改善が奏功した結果にほかならず、その中でもEVの存在感は高まり続けており、VWがポスト・テスラ時代の主役となる日も近いのでは、という予感すら感じる今日このごろです。
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