| これから海外の自動車メーカーが中国内でシェアを伸ばすことは非常に難しいだろう |
それどころか、中国だけではなく自国においても中国車の攻勢に苦しめられるかもしれない
さて、現在ジープはステランティス傘下の一つのブランドとして機能していますが、そのステランティスが中国現地の広州汽車集団有限公司(GAC)との合弁企業によって運営していた工場を閉鎖する、と発表。
これは自動車業界にとって非常に大きな衝撃であり、今後各メーカーにとって「現状の見直しをはかり、運営方針を変更する」必要性を迫るものだと捉えています。
このニュースは一体何を意味するのか
今回の報道については順を追って説明する必要がありますが、まず中国では、海外の自動車メーカーが中国へとクルマを輸出(中国から見ると輸入)すると、中国にクルマを入れる際に関税、そして排気量や価格帯によってさらなる税金を課せられ、中国内での販売価格が本国に比べて「2倍や3倍」となってしまいます。
これを回避する唯一の方法が「中国での現地生産」ということになりますが、この現地生産を行うには、必ず中国の会社との合弁企業を設立し、そして中国側に51%の株式を渡す必要があったわけですね。
これが何を意味するのかというと、合弁企業においては「常に中国企業側が有利」となり、海外の自動車メーカーとしては中国企業側の意見を聞かざるを得なくなってきます。
たとえば情報の開示、技術の提供などはその最たる例ですが、日本や欧米の自動車メーカーがその長い歴史の過程において培ってきた技術が「一瞬で」中国に持ってゆかれることを意味しており、しかし海外自動車メーカーとしては「いいクルマを作らないと中国内でライバルに負けてしまう」ために最新技術を中国生産車に投入することに。
さらに中国政府の決定によって、合弁相手は「一つの海外自動車メーカーあたり2社」までしか選ぶことができず、かつ中国の有力自動車メーカーは限られているので、海外自動車メーカーからすると「相手が気に入らなかった場合、合弁を解消してほかに乗り換える」ことが非常に困難です。
この意味においても、中国企業側のほうが圧倒的優位に(議決権以上に)立っており、中国企業側からすると「いやなら提携を解消すれば。こっちには相手がいくらでもいるんでね」という状態なのだと思われます。
実際のところ、合弁相手が自社のクルマをコピーし、中国専用ブランドにて勝手に販売していても多くの自動車メーカーはなにも文句を言えず、こういった例からも力関係がわかるかと思います。
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そんなこんなで欧米の自動車メーカーは技術を中国に持ってゆかれ放題になってしまい、海外自動車メーカーが100年かけて築いたノウハウを、中国の自動車メーカーはたった10年で移転完了させてしまったわけですね。
そしてこの「移転」の中にはデザインや、将来に渡って技術を開発するベースも含まれていて、つまり中国は現在「独り立ちしてやって行けるだけの何もかも」を手に入れた状態です。
そうなると中国企業にとって合弁相手は「邪魔」な存在でしかなくなり、今回のジープのように(たぶん一方的に)切り捨てられることになり、中国側自動車メーカーは、2010年の合弁以来吸収し続けてきたノウハウをもって悠々自適に自社ブランドを展開し、中国市場にて春を謳歌するということに。
中国では愛国心から中国製品を選ぶ傾向がある
そしてもうひとつの中国市場ならではの傾向が「中国製品好き」。
これは中国政府の愛国教育の賜物としかいいようがありませんが、すでにスマートフォン業界ではこれから自動車業界に起こるであろうことと同じ事象が起きていて、アップル(iPhone)以外の製品はほぼ駆逐されていており、シャオミはじめ中国のメーカーに市場が牛耳られている状態です。
実際のところ、中国の消費者は「中国製のクルマの方がデザインが良く性能に優れ、価格が安い」ということで中国車を選ぶ傾向にあり、中国車のシェアはどんどん上昇中。
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もうこうなると歯止めが効かず、ジープだけではなくほかメーカーもどんどん提携を解除されて中国市場から締め出されることになるのではというのが今回のニュースの裏にある恐怖であり、これを各自動車メーカーが懸念している、ということに。
ちなみに「合弁企業を設立しないと中国で生産できない」という規制はすでに解除されていて、これはつまり中国政府が「海外の自動車メーカーからこれ以上得るものなど無い」「たとえ海外自動車メーカーが独自に中国内で自社生産したとしても、中国の自動車メーカーのクルマには勝てない」と判断したと考えて良いかと思いますが、つまりこれが上述の「スマートフォン市場と同じ」というわけですね。
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参考までに、中国での生産・販売比率が高い自動車メーカーとしてはフォルクスワーゲンとGMが筆頭に挙げられ、これらはもしかすると一方的な合弁解除によって中国市場での販売を一瞬にして失うかもしれません(その意味で、これらは先行きが不透明というかかなり危ないと踏んでいる)。
ただ、中国のスマートフォン市場において、いかに地元中国のメーカーが頑張っても「なかなか潰せない」のがアップルであるのと同様、テスラについてもアップルと同じく、いかに中国の自動車メーカーがノシてきたとしても、その優位性が失われないだろうとも考えています。
その理由は明白で、すべてのスマートフォンのベンチマークがiPhoneであるのと同様、すべてのEVのベンチマークがテスラ車だからで、これはその業界において(リスクを覚悟しながら)先鞭を付けた企業の特権だとも考えています。※テスラは合弁ではなく自社で工場を建設し、中国生産をはじめた外国企業の第一号でもある
なお、日本の自動車メーカーだと、ホンダや日産が中国生産の比率が高く、逆にマツダとスバルは低い状態。
トヨタは世界中に工場を分散しているので中国への依存度は「それほど」高くないと認識していますが、その販売台数を失うとなるとタダではすまないのは間違いのないところです。
とにかく今回のニュースはそういった意味で衝撃的でもあり、海外の自動車メーカーは中国市場を失うばかりか、これもスマートフォンのように、中国以外の市場においては中国製品(車)の侵攻を受けることになり、「昨日の友が今日の敵」となって襲いかかることも十分に考えられるという状況です。
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参照:Bloomberg