| 自動車の制御複雑化、電子製品の需要増加、しかしコロナ禍による生産能力の低下というトリプルパンチ |
あと1年以上はこの状態が続くと言われるが
さて、自動車業界にて「チップ不足」が問題となって1年以上が経過しようとしていますが、どうやらこの問題はまだまだ尾を引くことになり、あと1-2年は解消しないだろうとも言われている模様。
フォードやGMのほか、これまでチップ不足の影響をなんとかしのいできたトヨタですら、8月に入ってチップ不足を理由にアメリカ、カナダ、メキシコの工場を休止させるといった事態に発展しています(日本でもトヨタの工場が一時休止しているが、これはチップというより、東南アジアで生産していたパーツが入荷しないことが原因)。
一部調査によると、2021年に第1四半期だけで、全世界的に「チップ不足で100万台の生産が失われている」という統計もある模様。
メルセデス・ベンツにも深刻な影響が
そして今回、メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOがメディアに語った内容だと、「車種によっては納車待ちが1年以上になる」とも。
もちろんこれに対しては最大限の努力を行っていると思われるものの、チップが入ってこなければ生産もできず、手のうちようがないというのが正直なところかもしれません。
そしてこういった状況が続くと、考えうる対策として「利益の大きな高価格モデルを優先して生産する」というものが出てくると思われ(すでにそうなっているのかも)、限られたチップを、より儲かるモデルに回すことになり、そうでないモデルの生産が後回しにされる、というケースも出てきそうですね(すべてのチップが”使いまわし”できるわけではないと思われるが)。
いったい何の「チップ」が足りないのか
そしてよくチップチップといいますが、自動車業界で主に不足しているのではマイクロ・コントローラー・ユニット・チップ(MUCチップ)。
これはエンジンはもちろんABSやトラクションコントロール、エアバッグといった自動車の主要機能を司るもので、1台のクルマにおよそ100個ほど使用されていると言われます。
なお、こういったチップの(1台あたり)使用数は年々増加しているといい、クルマの制御の複雑化、運転支援装置の拡充、インフォテイメントシステムの充実によって飛躍的に要求されるチップが増えているといい、逆に「ちょっと前のガソリン車であれば、数十個もチップがあれば事足りた」とも。
さらにエレクトリックカーの場合はもっと制御が複雑になるため多数のチップが必要になり、自動車そのものが「変わってきた」ことがチップ不足に拍車をかけているようですね。
加えて、自動車以外でもプレイステーションのようなゲームコンソール、スマートフォンにもチップが使用されており、コロナ禍によって「巣ごもり」「リモートワーク」が増えたためにこれら電子機器の需要が一気に増加したことも影響していると言われます(そのぶん、自動車業界へと供給できるチップが減ることになる)。
もちろん、コロナウイルスの蔓延による生産能力の低下も要因として無視できず(太陽誘電だと生産能力が40%減少している)、様々な要素がミックスされて「パーフェクトストーム」状態に陥ったのが現在の状況なのかもしれません。
チップが不足するとどういった影響が出るのか?
現在のところ、チップの調達にかかる期間はおおよそ27週程度だと言われ、これは通常の7週間ほどを4倍も上回る数字です。
チップ不足の要因としては上述の「そもそ1台あたりのチップ使用量が増えた」「チップを必要とする電子機器の需要が高まった」「なのに生産が減った」ということが考えられますが、これだけチップが手に入らなくなると、まず起きるのが「チップ価格の高騰」。
需要と供給において、需要が優れば物価が上昇するのは至極当然であり、チップメーカーも「高く買ってくれる」ところへとチップを供給することに。
もちろん自動車業界としてもチップの購買価格を引き上げてでもチップを入手したいはずですが、スマートフォンはじめ他の製品に比較するとチップを使用する数が多いと思われるため、チップの購入価格を引き上げるとコストが上がってしまい、それを自社で吸収すると利益が減り、製品単価に反映させれば今度は売れなくなることも。
そう考えると「チップの供給が落ち着くまで待つ」ということになりそうで、となるとあと1年ほどは生産が滞る事態が続きそう。
なお、チップの価格は(種類によって)5~20倍ほどに跳ね上がっているという報道も見かけますが、中には中国のように「600倍」という文字通りの桁違いの価格をふっかける例もあるようですね(さすがにこれは中国当局が問題視したようだ)。
そしてもちろん、自動車以外でも同様に「高すぎるチップを入手するくらいなら、生産と価格が正常化するまで待つ」企業も多いと思われ、実際にiphone13についても、これまでにないほどの「納期待ち」が生じるとも言われています。
参照:Reuters