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フェラーリの伝説「フラット12」エンジン搭載モデルの系譜:365GT4 BBからテスタロッサを経てF512 Mまで

フェラーリ・テスタロッサ

| フロントエンジンV12から「フラット12」への転換期 |

フェラーリはなぜ「フラット12」を導入したのか?「フラット12」はミドシップ化のためのひとつの「回答」である

さて、先日は「フェラーリのV12エンジン」について紹介しましたが、その中でも異彩を放つのが「フラット12」。

フェラーリが「フラット12」と呼ぶこのエンジンは、厳密には「バンク角180度のV型12気筒エンジン」を指しており、水平対向エンジン(ボクサーエンジン)と混同されがちですが、決定的な違いはクランクシャフトの構造にあります。

  • 180度V型12気筒: 左右のピストンが1つのクランクピンを共有して動き、このため、ピストンが互いに「パンチを出し合う」ような動きはしない
  • 水平対向12気筒(ボクサーエンジン): 各ピストンが独立したクランクピンを持ち、向かい合ったピストンが同時に逆方向に動き、ポルシェなどが採用する方式
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そしてフェラーリがこの180度V型12気筒を採用した主な理由は以下の通り。

バランスと滑らかさ: V型12気筒は、もともと振動が少ないエンジン形式ですが、180度V型にすることでさらに滑らかで洗練されたフィーリングを実現できる

低重心化: エンジンが平たくなることで重心が下がり、車両の運動性能向上に貢献。特にF1マシンにおいては、この低重心化が大きなメリットとなる

吸気系の取り回しスペースの向上: エンジン上部のスペースが確保しやすくなり、吸気系の設計自由度が高まる

フェラーリが「フラット12」を導入した流れとは

そこでフェラーリがこの「フラット12」を導入した流れを見てみたいと思いますが、フェラーリのフラット12エンジンの歴史は、1970年のF1マシン「312B」から始まります。

このエンジンは、それまでの60度V型12気筒のバンク角を水平まで広げるという発想で開発され、マウロ・フォルギエリが設計したこのエンジンは、1970年代のF1においてフェラーリに数々のタイトルをもたらし、同社の黄金期を支えたことでも知られます。

そしてこのフラット12エンジンは「ミドシップ」レイアウト前提に開発がなされたもので、その理由は「F1がフロントエンジンからミドシップの時代を迎えたから」。

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1960年代、フェラーリはモータースポーツにおいてミッドシップレイアウトを本格導入し、1961年にはフィル・ヒルが156 F1でF1世界選手権を制したのを皮切りに、250LM系はル・マン3連覇を達成するなど華々しい活躍を見せていて、フェラーリはこれをさらに確固たるものにするため、上述のメリットを持つ、そしてミドシップと相性が良い(逆にフラット12は幅広すぎてフロントエンジン車には適さない)フラット12の開発へと踏み切ったわけですね。

F1用「フラット12」から公道用へと進化

この「フラット12」を搭載したレーシングカーだとほかに312 PB (スポーツプロトタイプ)、312 Bシリーズ (F1)、212 E モンターニャ等があり、しかしその一方、ロードカーだとV12を搭載するフラッグシップモデル「365 GTB/4 デイトナ」は1970年代に入ってもなおフロントエンジンを貫いたまま。

ちなみにエンツォ・フェラーリは意外と保守的で、そのため「(レーシングカー、市販車ともに)ミドシップ化」に踏み切ったのはほかメーカーに比べると比較的あとになってから。

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その理由は「牛車は後ろから牛が押すものではなく、牛が引っ張るものだ」という信念のもと、フロントエンジンレイアウトに対する信心を持っていたからだとされますが、さらには「ディスクブレーキ」「アルミホイール」の採用が遅れたのもの同様に「自身のこだわり」によるものであったと言われます。

ただ、これは単に「新しい技術を認めない」という頑固さによるものではなく、「新しい技術を取り入れて失敗するという不確実性よりも、これまでに勝利を獲得してきた確実な方法を選ぶ」という理にかなった思想によるものであったといい、実際のところ、エンツォ・フェラーリは時間がかかれども「ちゃんと」新しい技術を導入し勝利へと結びつけることに成功しています(その裏には相当な試行錯誤があったのだと思われる)。

1973年:365 GT4 BB – フェラーリ初の12気筒ミッドシップモデル

そこで「初の」市販ミドシップとなったのが1971年のトリノショーで発表され、1973年から生産開始された365 GT4 BB(512BB、テスタロッサにつながる)。

搭載されるのはもちろんフラット12ですが、ランボルギーニの「V12ミドシップ」がトランスミッションをエンジンの「前」に搭載したのとは異なり、フェラーリのフラット12では「エンジンの下にトランスミッション」があるという特殊な構造で、これによって重心が高くなってしまい、やや扱いが難しくなったとも言われているクルマです(一方、全長をコンパクトに収めることができており、そのほうがフェラーリにとってのプライオリティが高かったのだと思われる。これは296GTBにて全長が短いV6を採用しホイールベース切り詰めたことからも理解できる)。

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  • エンジン:4.4L フラット12(365馬力)
  • スタイル:ピニンファリーナによる鋼製ボディ+アルミパネル
  • 特徴:ブラックペイントのスカート(人気オプション)、エッグクレートグリル、5本スポークホイール

参考までに、“BB”は「ベルリネッタ・ボクサー」の略称ですが、実際のところ搭載されるエンジンは180度V型であり、「ボクサーエンジンではない」というのがちょっとおもしろいところですね。

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1976年:512 BB – 性能よりも扱いやすさを重視

そして「BB」といえばやはり1976年登場の”512 BB”がよく知られるところで、これは排気量を4.9Lに拡大しながらも出力は360馬力とやや控えめ。

しかし低回転域でのトルクや扱いやすさが向上したモデルでもあり、その後には燃料噴射装置を加えた「512 BBi」が登場し、厳しくなる排ガス規制に対応するなど時代に合わせて進化しています。

  • 新装備:フロントスポイラー、リアのNACAダクト、新デザインのテールランプ&マフラー
  • 生産台数:929台(1981年まで)
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1984年:テスタロッサ – “赤い頭”が象徴する80年代フェラーリ

1984年にはついに「テスタロッサ」が登場し、このクルマはそれまでのBB系とは大きく異なるデザインと構造を持った「新生代のフェラーリを象徴する」モデルとして知られ、そして1980年代を象徴するスーパーカーとなったのはよく知られるところ。

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なお、「テスタロッサ」の名の由来はインテークマニホールドが赤く塗装され「赤いエンジン上部を持つ」ことにあり、「Testa Rossa=赤い頭(エンジンヘッド)」というフェラーリのレーシングカーにおける伝統を継承したことも大きなトピックです(おそらくそれ以降、フェラーリのエンジンヘッドはずっと赤だと思う)。

  • エンジン:4.9L フラット12(390馬力)、4バルブ化
  • デザイン:特徴的なサイドのストレーキ(スリット)、リアラジエター配置
  • ニューヨークのナイトクラブ「リド」で発表されたという逸話も
フェラーリ・テスタロッサ

Image:Ferrari

1991年:512 TR – 性能とハンドリングを大幅強化

512 TRはテスタロッサの改良型として1991年に登場していますが、エクステリアは空力性能向上のために再設計され、インテリアも快適性と操作性が大きく向上しています。

  • エンジン:4.9L フラット12(428馬力)
  • 改良点:エンジン搭載位置を30mm下げ、前後トレッドも調整
  • ハンドリング:大型ブレーキ、改良サスペンションで運動性能を向上
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1994年:F512 M – フラット12の最終進化型

1994年登場のF512 M(Modificato)は、フェラーリにおけるフラット12の集大成とも言えるモデルです。

  • エンジン:4.9L フラット12(440馬力) – 最も高出力の市販フラット12
  • 改良点:固定ヘッドライト、新設計のキャビン、さらなる軽量化と空力向上
  • トリビア:「512 M」という名称は、1970年代のレーシングモデル「512 M」へのオマージュ
フェラーリ512M

Image:Ferrari

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F512 Mの後継となる550マラネロではV12が再びフロントミッドに移されることでフラット12の時代は終焉を迎えますが、しかしフェラーリの「12気筒」は進化を続け、2024年にはフロントエンジンV12を搭載する「12チリンドリ」が登場。

この12チリンドリ、さらにはプロサングエによってその血統が現在まで受け継がれ、その血統は未来永劫受け継がれるものと思われます。

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参照:Ferrari

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