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ポルシェが911(992.2)で採用したハイブリッドは自社の従来システム、そしていずれのライバルとも異なるものだった。わずか50kgと引き換えに多くのものを手に入れる

2024/05/29

ポルシェ
Porsche

| ただしその構造上、もうエンジンが全く見えなくなるのはちょっと寂しい |

実質上、このハイブリッド化によってポルシェが失ったものはないだろう

さて、ポルシェは衝撃の「911ハイブリッド」を発表していますが、992世代の911が登場する前から「992世代のフェイスリフト版、つまり992.2ではハイブリッドバージョンが登場する」と言われており、今回ポルシェはその公約を守ったということになります。

ただ、当時(2018年時点)のチーフエンジニアであるアウグスト・アハライトナー氏は「それが実現するとは確信していなかった」と語っており、それは911にとってハイブリッドシステムが「満足できる」性能に達していなかったから。

ハイブリッドはこの世代の一部では現在計画されていません。市場の観点から、おそらく何らかの規制のために、それが本当に必要かどうかを判断するには数年待たなければなりません。そしてもちろん、私たちは今日のバッテリー技術に満足することはありません。もちろん、今日提供することはできますし、それはかなりうまく動作しますが、私たちにとって十分ではないのです。

つまり当時のチーフエンジニアですら自信を持つことができなかった「911ハイブリッド」が6年の時を経て登場したということになり、このハイブリッドシステムは「T-ハイブリッド」と呼ばれています。

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ポルシェの「T-ハイブリッド」はこう作動する

このT-ハイブリッドは非常にコンパクトなことが特徴で、そして他社が採用するハイブリッドシステムとも、そしてポルシェが他車種に採用するプラグインハイブリッドシステムとも根本からして異なるもの。

現在は「911GTS」のみと組み合わせられており、その核となるのは新開発の3.6リッター・フラットシックスで、これにエレクトリックモーターが「2つ」組み合わせられています。

その一つはターボチャージャーに内蔵されており(14.7馬力)、これによって「排気による加給がかかるよりも早く」強制的にタービンを回してブーストをかけることが可能になり、これによってリニアな加速を実現できるわけですね(エレクトリックモーターが直接動力としてサポートするわけではないが、加速をサポートすることには間違いない)。

ちなみにこのエレクトリックモーターは回生によってバッテリーへと蓄電することもできますが、興味深いのは「ツインターボ」ではなく「シングルターボ」ということ。

ポルシェ911にシングルターボが積まれるのはじつに30年ぶりで、これは「エレクトリックモーターで大きなタービンを無理やり回すことができるので」コンパクトなターボチャージャーを2つ積む意味がなくなったからだとも考えられます(そのぶん構造もシンプルになる)。

そしてもう一つのエレクトリックモーターはガソリンエンジンと8速PDKとの間に挟み込まれており、これはランボルギーニ・レヴエルトやマクラーレン・アルトゥーラ、フェラーリGTBなどと同じ構造。

そしてこのエレクトリックモーターは54馬力を発生し、発進時の応答性を高めることになりますが、ライバルと異なるのは「エレクトリックモーターのみでは走行ができないこと」。※実際のところ、ライバルに比較するとエレクトリックモーターの出力は半分~1/3くらいにとどまっている

もちろんこれはポルシェのPHEVシステム「E-Hybrid」パワートレインとも根本的に異なる部分であり、よって今回のT-Hybridがいかに特殊であるかがわかります。

そしてこれらエレクトリックモーターは1.9kWh、400ボルトのバッテリーによって駆動されますが、このバッテリーは(ノンハイブリッドの)911では12Vバッテリーが搭載される位置(つまりフロントコンパートメント)に積まれ、かわりに通常の12Vバッテリーは座席後ろのコンパートメントへと移動しています(配線の距離を考慮すると非効率的であるようにも思われるが、重量配分を最適化するにはこの方法がベターであったのだと思われる)。

そしてこのエンジン自体も「新しく」、ベースとなるのは2008年に997世代の後期型(997.2)とともにデビューした9Aシリーズの直噴ボクサーエンジンですが、9A3という名称が付けられたのは今回が初で、以前のカレラGTSで使用されていた3.0リッター9A2エンジンと比較すると、ボアは97mm、ストロークは81mm拡大され、合計3.6リッターとなっています。

ハイブリッドシステムにより従来のベルトドライブが不要になったためエアコンとパワーステアリングは電動で駆動され、これにより、ポルシェは(補機類含む)エンジン全体の高さを110mm削減することができ、インバーター、DC-DC コンバーター、インタークーラーがエンジンの上に配置されることが可能となっているわけですね(もちろん、ベルトによる駆動ロスが軽減され、レスポンスが向上しているものと思われる)。

このエンジンはポルシェ得意の”バリオカム”可変カムシャフト調整システムを採用しており、911GT3に搭載される4.0リッターフラット6と同様に、バルブの開閉には従来のバケット・アンド・シム・タペットではなく、ローラー・フィンガー・フォロワーを使用していることが特徴であり、よりスペックがGT3に近づいたと考えることができるかもしれません(992.2世代の911カレラのインタークーラーは911ターボ譲りである)。

なお、許容回転数は3リッター版ツインターボと同じ7,500回転、そして出力は485馬力なのでエンジン単体では先代911カレラGTS比で+5馬力(トルクは同じだが、電動アシストを考慮してトルクカーブはずいぶん異なる可能性も)、ハイブリッドシステムまで含めると+61馬力を数えます。

そしてこのエンジンについて特筆すべきは「環境性能が高いこと」。

もともとポルシェは環境性能(燃費)の向上がない出力アップを行わない会社ですが、多くの(他社の)高性能エンジンが高回転時に空気と燃料の混合比を濃くすることで(排気ガスを犠牲にして)性能を高めているのに対し、この新型エンジンではレッドラインまでずっと理想的な空燃比14.7:1で稼働し続けます (ポルシェはこの稼働状態をラムダ = 1と呼んでいる(一般にはストイキオメトリックと呼ばれることがある)。

つまりポルシェは「既存エンジンにハイブリッドシステムを追加した」のではなく、エンジンとともにハイブリッドシステムを設計した(あるいはその逆)ということになりますが、この犠牲となったのはもちろん重量で、新型911カレラGTS(ハイブリッド)は先代911カレラGTSに比較すると50kg重くなっています。

ハイブリッドシステム自体の重量は公開されていないものの、様々な軽量化を行ったうえでの+50kgなので、ハイブリッドシステム自体はもう少し重いと考えてよく、しかしリアタイヤが太くなったり後輪ステアリングの追加もあるため、この+50kgというのは相当に小さい重量ペナルティだと考えていいのかもしれません。

あるいは、ハイブリッド化しなければ、厳しい排ガス規制に対応するために大きな触媒を積む必要が生じ、これと同じくらいの(あるいはそれ以上の)重量が増えていた可能性があることを鑑みると、ポルシェは「非常にうまくものごとを解決した」と考えることも可能です。※パナメーラのPHEVモデル同様、電動化に際しては、その特性ををうまく活用し、さらには”お釣り”が来るほどの成果を達成している

新型ポルシェ911(992.2)のプロモーション動画はこちら

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