ポルシェ718ボクスターに試乗。
718ボクスターは「981ボクスター」のフェイスリフト版にあたりますが、モデル名をそれまでの「ボクスター」から「718ボクスター」へと変更に。
これは今までのポルシェの歴史上でもかなり珍しいことですが、550を改良した1957年登場のレーシングカー、「718」に由来しています。
なおコードネームは「981」のままではなく「982」となっていることからも「981ボクスターとは別のモデル」であることがわかります。
ポルシェとしてはヒストリックモデルに関連付けてボクスターの性格をよりスポーツに振るという意向があると考えられ、「918スパイダー」でも明らかな通りピュアスポーツモデルはミドシップに集中させるのかもしれず、一方で911はGT色を強めるのではと考えています。
価格は981ボクスターの687万円(PDK)に比べて710万円(PDK)と小幅ながら上昇。
ただしエンジンはダウンサイジングされたにもかかわらずターボ化にて300馬力を発生(981ボクスターは265馬力)。
車両のサイズは981ボクスターとほぼ一緒ですが、トレッドが広くなったぶんリアのホイールアーチにモールが取り付けられ、そのぶん全幅が2.5センチほど広くなっている模様(トレッドの拡大は1.5センチ、リアホイール幅も1/2インチ拡大)。
全長は数字上では4ミリ拡大、全高は同じ。
上述の通りサイズは981ボクスターとほぼ同じ。
ですが、フロントバンパーやリアバンパー、ドアパネル、サイドシルなど、外板の多くが入れ替わっていることでイメージが一新されています。
フロントは最新のポルシェにおけるデザイン言語を採用し横基調のスッキリしたデザインに。
981ボクスターではフロント左右を中央に向け絞っていたという印象がありますが、718ボクスターでは「左右に張り出した」印象があり、ここはけっこう雰囲気の変わったところ。
ヘッドライトの内部構造も大きく変わり、マットブラック/グロスブラックやクリアパーツ、金属調パーツなどを組み合わせた非常に複雑な形状となっていますね。
ヘッドライト内部にこだわるのはアウディ、ジャガー、メルセデス・ベンツ、BMWなどですが、それらと比べてもひけをとらないどころかリードしているとすら感じます(まさかポルシェがこういった部分にここまで力を入れるとは)。
オプションのLEDヘッドライトになるとさらにその複雑さとデザイン性が向上し、クワッドLEDが立体的に表現されるように。
オプション価格は35万円ほどですが、981ボクスターのバイキセノン(PDLS)に35万は出せなくても、718ボクスターのLEDヘッドライトになら35万は出せる、と感じます。
ドアは911と同じくドアハンドル周りがスリムになっていますが、サイドシル形状が変更され、サイドシル下部がちょっと出っ張った形状になり、これによって視覚的な安定感が大きく向上していますね。
サイドのエアインテークもガイドが大きく張り出し、よりアグレッシブな印象に(ここに飛び石が当たるように思われ、これが飛び石を食い止めてくれるおかげでボディに傷は付かないかもしれない。このエアインテークは安価で交換可能と思われる)。
リアも大きく変わった部分で、リアウイングは大きく広くなり、テールランプと連続したデザインを持っていた981ボクスターとは異なり、718ボクスターではリアウイングとテールランプが切り離されたデザインに(なんとなく986ボクスターに近いように見える)。
なお718ボクスターのテールランプ形状もライバルメーカー含めてもっとも複雑かつ先進的な内部構造を持つと言ってよく、ポルシェがこんなオシャレなものを作るとは、という新鮮な驚きはありますね。
ヘッドライト、テールランプの内部構造としてはメルセデス・ベンツ(とくにAMG GT)に近いように見えますが、それよりも一歩進んだ形状だと思います。
リアウイングの下には左右テールランプをつなぐグロスブラックの加飾パーツ(これはテールランプの内部構造パーツと連続性がもたらされるという非常に凝ったデザイン)があり、ここに「PORSCHE」文字が取り付けられています。
このポルシェ文字ですが横から見るとかなり立体的で、単に文字を貼り付けたというわけではないこと、そして上述の加飾パーツについても「ポルシェ初の採用」と考えており、とにかく「新しいことづくめ」なのが718ボクスターと言えるでしょう。
さすがに「718ボクスター」と名称を変えてきただけあって、内装も大きく変更。
メーター周りやメーターバイザー、エアコン吹き出し口も変更され、ステアリングホイール、PCM(ポルシェ・コミュニケーション・システム)も他ポルシェのモデル同様にバージョンアップ。
オプションの「GTステアリング」はかなりデザイン性が高く、特にドライブモード変更スイッチは秀逸。
スイッチ自体はロータリー式でノーマルの走行モードに加えて「スポーツ」「スポーツプラス」の設定が可能で、スイッチ中央にはボタンがあり、これを押すと20秒の間レスポンスが向上するという仕様です(911のようにブーストを上げるわけではない模様)。
なおこちらはアイドリング時のエンジンサウンド。
ドアを開けて車内に乗り込み、ステアリングやミラーを合わせますが、この辺り慣れ親しんだもので操作系に変化はなし。
それでも座った瞬間にシートの出来の良さを感じさせるのはさすがで、このシートに座れるというだけでもポルシェを購入する価値はあると考えています(ぼくはポルシェの純正シートをかなり高く評価している。スポーツモデルだとベントレー・コンチネンタルGTの次くらい)。
エンジンをスタートさせると、今までの機械の動作を感じさせる繊細な音から図太く低いサウンドへ変化していることがわかります。
自然吸気エンジン搭載の981ボクスターは空冷を思わせるバラバラという音が聞こえましたが、ターボ化された718ボクスターではほとんどそういった音は聞こえず、エンジンの作動音というよりは排気音の方が目立つ印象。
ギアをDレンジに入れ、パーキングブレーキをリリースして(これは今でも違和感があり、981ボクスターを売る時まで操作に慣れることはなかった)試乗をスタート。
クリーピングの感覚は今までの981ボクスターと同じ。
段差を乗り越える時の感触もこれまでと変更されたという印象はなく、しっとりとした柔らかいサスペンションの動きです。
ステアリングホイールの操作感、ウインカーのタッチ、ペダルとブレーキフフィーリングも981ボクスター同様と言って良いでしょう。
ただし大きく変わったのは当然ながらエンジンとアクセルレスポンス、サウンド。
出力については300馬力へと35馬力も向上しており、ターボ化に伴いトルクも大きく向上していますが、これによってベースグレードの981ボクスターではややパワー不足を感じる場面があったものの、718ボクスターではそういった不足がなくなっています。
低速域のトルクが太いので扱いやすく、中間加速にも優れる印象ですが、常用域の回転数は気持ち高い印象で(200〜300回転くらい?)、これはおそらくタービンを回すという目的だと推測。
ちょっとエンジンの回転数を上げてタービンを回すことで加速時などのアクセルのツキを良くしようという意図なのだと思います。
同様に回転落ちも緩くなっており、981ボクスターではアクセルから足を離すと糸が切れたように落ちていたタコメーターの針が「おや?」と思うほどゆっくりと下降します。
これも回転数をある程度維持することで再加速するときのトルクとパワーを維持するための方法なのでしょうね(回転数が落ちてしまうと小排気量ターボの場合は加速までに時間がかかる)。
よって、自然吸気エンジンを搭載していた頃の「アクセルを踏むとどの回転域からでも一気に回転数が上がり、アクセルから足を離すと一瞬で回転が落ちる」というポルシェの特徴からはかなり異なる印象のエンジン特性になっています。
ただボクスターの性格を考えると、このユルさが車の性格に合っているとも言え、非常に運転しやすいと言えるでしょう。
なおターボ化された911を運転した時にはこういった印象を受けなかったので、おそらくですが911(991.2)はより自然吸気エンジンに近い「アクセルを踏むとどの回転域からでも一気に回転数が上がり、アクセルから足を離すと一瞬で回転が落ちる」設定だったのだろうと思います。
エンジンの排気量の差はあるものの、ここへきて「911とボクスターとの性格の差」がより明確になってきていると考えられ、911はより「911らしさ」を反映させた車になってきているように感じられ、ボクスターはまた別の道を歩むのでしょうね。
そして718ボクスターにおいても「ボクスターS」はまた別のキャラクターを持つと思われますし、将来登場するであろう「718ボクスターGTS」、「718ボクスター(ケイマン?)GT4」においてはよりNAに近いシャープさを持つであろうことは容易に想像可能。
ドライブモードを「スポーツ」に入れると一気に音が大きく太くなりますが、同時にアクセルオフ時のバブリングの音も強烈になっていますね。
今までは窓を開けていないとあまり音が聞こえなかったのですが、718ボクスターでは窓を閉じていてもしっかりバブリングの音が聞こえます。
ただ、上述のように回転落ちが緩いので、バブリング発生も「アクセルオフ後に即発生」ではなくちょっと遅れてから発生することに。
しかしながらスポーツモードへ入れた時の回転数はかなり高くなるので、その分ブースト圧も高くなるため、自然吸気エンジンでの「ノーマルとスポーツモード」に比べてターボエンジンでの「ノーマルとスポーツモード」との落差はより大きくなっています。
そして「オーバースーストボタン」を押した時にはその変化は顕著で、20秒間回転数とともにブーストも上がるため「かなりな」加速とレスポンスを体感可能(なお、このブーストボタンの使用回数制限はなく、20秒経過したらすぐにまた押せる)。
排気音は太く低いもので、これはBMWのMシリーズ、メルセデスAMGとよく似た類の音でもあり、やはりターボエンジンになるとこういった音にならざるを得ないのだろうと思いますが、ぼく的にはこの音の方が好みなので問題はありません(機械音が大きいと、どうしてもそのバラツキが気になる)。
アイドリングストップの設定は若干変更されており、981ボクスターでは完全に停止してからエンジンがストップしていたのに対し、718ボクスターでは車両が停止する前に(車両側が停止するだろうと判断して)エンジンがストップ。
つまり車が動いている状態でもアイドリングストップが作動するわけですが、こういった細かな設定変更で燃費はリッター14キロ程度に(981ボクスターでは10キロ程度)。
981ボクスターから718ボクスターへの変更にあたり、その範囲は非常に大きく、911が991.2へと進化した時に比べてもそれは大きいと感じています。
エンジンは6気筒から4気筒にダウンサイズされていますが、それを補って余りあるパワーとトルクを発生しており、そして各部のデザインや質感向上を考えるとこの価格上昇幅は「極小」とも言え、逆に割安感すら感じます。
加えてバイキセノンヘッドライト、ウインドデフレクターの標準化を考えると「値下げ」といってもいいレベル。
ポルシェは今まで「馬力当たりコストパフォーマンス」の低いブランドでしたが、アウディTTは230馬力で542万円、718ボクスターは300馬力で710万円となり、つまりアウディTTは23,565円、718ボクスターは23,666円とほぼ同じレベルに(918ボクスターは25,924円)。
そういった馬力当たりコストパフォーマンスを抜きにしても、魅力的になりデザイン性と質感が向上した内外装は高く評価でき、「911ではなく718ボクスター」を積極的に選ぶ理由になる、と考えています。
981ボクスターと比較するとステアリング、サスペンションといった美点はそのままに、エンジンをトルクフルに扱いやすく変更しており、よりフレキシビリティが増しているという印象。
加えてドライブモードの選択によっていかようにも性格を変化させることができるので、この一台で楽しめる範囲、対応できる範囲が広くなっていると言えます。
981ボクスターでは自分でエンジンの回転をパワーバンドに閉じ込めておく必要がありましたが、718ボクスターでは車がエンジン回転数を「おいしいところ」に勝手にキープしてくれ、かつその範囲はモード(ノーマル、スポーツ)によって自由に設定の変更ができるのが非常に便利。
エンジンの出力特性は自然吸気と全く異なる印象があり、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、仮に価格が同じで981ボクスターと718ボクスターの選択を迫られた場合、迷わずに718ボクスターを選びます。
そして、冒頭に記載した通り981ボクスターとは別のモデルと考えるのが良さそうで、「ボクスターの名前と外観を持った」新モデルと認識しても良いかもしれません。
試乗記について
ランボルギーニ、AMG、アルファロメオ、VW、ジャガー、ベントレー、ルノー、ミニ、フェラーリ、マクラーレン、テスラ、レンジローバー、スズキ、トヨタ、マツダ、スバル、ホンダ、レクサス、メルセデス・ベンツ、BMWなどこれまで試乗してきた車のインプレッション、評価はこちらにまとめています。