| マルチェロ・ガンディーニ氏ほど芯の通ったデザイナーも少ない |
自動車メーカーとしては戦略上「過去の焼き直し」も必要であり、このあたりの調整は難しい
さて、ランボルギーニは「カウンタックの現代版」、カウンタックLPI800-4を発表していますが、これについて「オリジナルのカウンタックをデザインした」マルチェロ・ガンディーニ氏が意義を唱えるプレスリリースを公式に発行することに。
同氏はプレスリリースの中で「新型カウンタックLPI800-4は、自身の精神やヴィジョンを反映していない」としており、「革新性がまったくない」ともコメントしています。
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いったいなぜこんなことに?
マルチェロ・ガンディーニ氏は1971年に発表されたカウンタックLP500をデザインしたその人で、その後のスーパーカーにおけるデザインを再定義したといってもいい人物。
カウンタックをデザインしたのは、当時在籍していたベルトーネにおいてであり、ベルトーネなきあとは現在は自身の「マルチェロ・ガンディーニ・デザインスタジオ」を主宰しています(ほかにはミウラやランチア・ストラトスなどもデザインしている)。
そして今回こういったプレスリリースを発行することになった背景としては「ランボルギーニとの誤解」があったといい、まずは自身が登場し、カウンタックについて語る動画について説明。
この動画について、マルチェロ・ガンディーニ氏は「先日公開された、当時のカウンタックをそのままリバイバルした、ワンオフのカウンタックLP500」について語ったものであり、この時点ではカウンタックLPI800-4について聞かされておらず、実際に生産されることも知らなかったといいます。
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たしかに動画を見ると、ランボルギーニのチーフデザイナーであるミッチャ・ボルカート氏と語っているのは「初代カウンタック」の話であり、新型カウンタックについては一切触れていないようですね。
そして、この動画は後にランボルギーニがカウンタックLPI800-4を発表する前のコンテンツの一環として公開されることになりますが、同氏にとっては「聞いていない話に自身が利用された」という印象を持っているのだと思います。
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こういった「誤解」はよくある
なお、こういった誤解はよくあるようで、つい最近だと、ブガッティEB110へのオマージュとして製作されたブガッティ・チェントディエチの例があり、現在のブガッティ・オトモビルは、ブガッティEB110を製作した(別会社の)ブガッティ・アウトモビリの経営者であったロマーノ・アルティオーリ氏にコンタクトを取り、EB110について意見を交わしています。
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ただ、実際にチェントディエチが発表された際、ロマーノ・アルティオーリ氏は「チェントディエチの話は何も聞いていない」とも語っており、つまり同氏はブガッティ・オトモビルから(EB110について聞かれただけで)チェントディエチの企画について知らされていなかったということになりますね。
ちなみにロマーノ・アルティオーリ氏の場合は「自身の作品が、時を経て評価されることになったのは身に余る光栄だ」とコメントしており、何も聞かされずにEB110へのオマージュモデルが発表されたことに特に不快感はない模様。
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さらにフェラーリについても似たような例があり、フェラーリは2016年に「70周年記念車」として70種類の限定モデルを発売していますが、その中の一つとして存在したのが「スティーブ・マックイーンをモチーフにしたモデル」。
この限定モデルを企画する際、フェラーリはスティーブ・マックイーンの息子はじめ遺族に連絡を取り、相談を行ったそうですが、遺族側のコメントによると「たしかに相談があったが、名称や仕様について合意した後、承認を与えた上で進められるはずだった」とのことで、しかしフェラーリは合意を得ないまま「スティーブ・マックイーン」という名を関した限定モデルを発売してしまい、これが訴訟へと発展しています。
そしてその結果、スティーブ・マックイーンという名称が「ザ・アクター」へと変更されているので、これはフェラーリに非があった(遺族の主張を認めた)ということなのかもしれません。
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フェラーリの件はともかくとしてですが、すでにデザインされたものを再デザインする際、オリジナルのデザイナーに対して「どこまで許可を得るか」は非常に難しく、契約書にて明確に記載していない限りはその境界線を明確にすることはできないのかもしれません。
なお、これは問題となった例ではないものの、フェラーリは「ピニンファリーナがデザインした」458を、自社のチェントロ・スティーレにてデザインをアップデートさせ「488」として発売しており、当時ぼくは「このあたりピニンファリーナとの調整はどうなっているんだろうな」と思ったことも。
マルチェロ・ガンディーニは常に自身の作品に誇りを持ち、前を向いている
そしてマルチェロ・ガンディーニ氏に話をもどすと、同氏は自身の仕事に誇りを持っていて、常に前を向いている人だという印象を持っています。
過去にはランボルギーニ・ディアブロのデザインを担当していますが、当時ランボルギーニはクライスラー傘下にあり、クライスラーはアメリカ市場の嗜好や安全性を考慮し、ガンディーニが出してきたデザイン案に対して「角を丸くする」という修正を(自社のデザインチームによって)加えることに。
当然マルチェロ・ガンディーニ氏はこれに対して異議を唱え、「手を加えられた作品は自身のものではない」とし、ディアブロのデザイナーとして自身の名を出さないように主張するものの、「デザインの改変」「デザイナーとしてのクレジット」が契約書に盛り込まれていたといい、これに反論することができずに「ディアブロはマルチェロ・ガンディーニのデザインである」ということになっています。※さすが訴訟大国だけあって、アメリカの契約書の縛りはキツそうだ
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そのほか、マルチェロ・ガンディーニ氏はブガッティEB110のデザインも手掛けていますが、これについては「(空力状の理由で)尖ったノーズを採用したかった」ものの、前出のロマーノ・アルティオーリ氏が「ブガッティには、馬蹄形(ホースシュー)グリルが必要だ」と主張し、マルチェロ・ガンディーニ氏が提出したデザイン案にホースシューを含めるように指示したことで対立が生じ、結果的にマルチェロ・ガンディーニ氏がチームから離脱するという結果に(最終的には、マルチェロ・ガンディーニ案に対し、ジャンパオロ・ベネディーニ氏が馬蹄型グリルを取り付けたデザインで発売された)。
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そしてもうひとつ、マルチェロ・ガンディーニ氏の考え方をよく表すエピソードがあり、これは「1990年に、カウンタック最後の一台がラインオフした際、ランボルギーニはマルチェロ・ガンディーニ氏に敬意を表し、寄贈を申し出たが、同氏は”過去の作品には興味がない”としてこれを断った」というもの。
さらに今回のプレスリリースの中で、マルチェロ・ガンディーニ氏は「過去のモデルを繰り返すことは、私の考えでは、私のDNAの創始原理を否定することになります」とも述べており、まったく過去を振り返らない、前しか見ていない人でもある、ということがわかります。
マルチェロ・ガンディーニ氏が発行したプレスリリースを紹介するツイートはこちら
So since this #Gandini press release seems to be a bit of a scoop, here's the full thing. Absolutely searing criticism, not in any way wrong. #countach pic.twitter.com/k5cLyIBZkm
— Drew Meehan (@drewdraws2) October 22, 2021
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