| F1タイトルを獲得したチームの中でこれほど異色の経歴を持つチームも他にないだろう |
そしてレッドブルは間違いなく「モータースポーツの中心」となりつつある
レッドブルの創設者にしてオーナー、ディートリッヒ・マテシッツ氏が2022年10月23日に78歳で死去したとの報道。
これはレッドブルから公的に発表されたもので、レッドブルは同氏がなしとげた偉業への感謝の意を表するとともに、レッドブルF1チームのクリスチャン・ホーナー氏もアメリカGPの会場からディートリッヒ・マテシッツ氏への追悼を捧げており、「数々のスポーツの成長ために、彼が築き上げた実績は計り知れない」と述べ、「とても悲しい」とも。
なぜディートリッヒ・マテシッツ氏はレッドブルをここまで成長させることができたのか
なお、レッドブルは誰もが知る巨大企業ですが、レッドブルはディートリッヒ・マテシッツ氏の創業後「一代で」ここまでの規模に成長しています。
そしてこのディートリッヒ・マテシッツ氏はレッドブル創業以前は「一介のサラリーマン」にすぎず、当時(1984年)は歯磨き粉の販売をしていたといい、そのセールスのためにタイへと出向くことに。
欧州からタイへと飛行機で飛んだために時差ボケに悩まされ、慣れない現地の蒸し暑さに疲労困憊していた同氏ですが、現地の人に勧められて飲んだのがタイで人気のあった栄養ドリンク「クラティン・デーン」で、これを飲むと一気に疲れが吹き飛んだといいます。
このクラティン・デーンとは、現地タイの起業家、チャリアオ・ユーウィッタヤー氏が開発し販売を行っていた製品であり、「タイで人気だったリポビタンDのシェアを獲得しようと」開発されたもの。
なお、リポビタンDは高価であり、タイの労働者階級が日常的に購入することが難しく、しかし労働者が過労死するという社会的問題を解決すべくチャリアオ・ユーウィッタヤー氏は様々な成分の配合を試し、ようやく安価なエナジードリンクを開発することに成功したわけですが、これがくだんのクラティン・デーン。
成分としては砂糖やカフェイン、タウリン、ビタミン等、そしてここに独自の配合として混ぜたのがKrating Deang(クラティン・デーン)なる成分で、これがそのまま製品名となっています。
ちなみにこのKrating Deangとは(赤いガウル※ガウルは牛の一種)という意味で、この英語訳がそのまま「レッドブル」というわけですね。
ディートリッヒ・マテシッツ氏はアイデアを「横取り」しなかった
そしてディートリッヒ・マテシッツ氏は、クラティン・デーンを口にした瞬間から、「この素晴らしい飲み物を世の中に広めねばならない」と直感し、同時にこれは「大きなビジネスになる」と考えたと言われます。
なお、今でこそエナジードリンクの存在は一般的であるものの、当時欧米ではその市場が存在せず、ここに同氏はチャンスを見出したということになりますね。
ただ、ディートリッヒ・マテシッツ氏はこのクラティン・デーンをパクるのではなく、その開発者であるチャリアオ・ユーウィッタヤー氏との提携によって欧米人の味覚に合うように調合を変えるなど共同開発を行い、そのロゴマークについてもクラティン・デーンと同じ「夕日と牛」を使用したり、ネーミングそのものもクラティン・デーンの英語版「レッドブル」へ。
もちろんこれによってチャリアオ・ユーウィッタヤー氏も巨額の富を得ることになったわけですが、利益を独り占めせずに「分配した」ところに同氏の「偉人」としての姿を見ることができるかと思います。
1984年のレッドブル設立後、同氏はそれまでの経験を活かし、巧みなターゲティングやマーケティングによってその認知度を向上させてゆき、1989年にゲルハルト・ベルガーの個人スポンサーにつくことでF1との関係性を持ち、その後ザウバー(1995年~2004年)、アロウズ(2001年~2002年)のスポンサーを努め、2004年にはF1を撤退するジャガーチームを買収することでついに自身のチームを手に入れることに。(同年にはミナルディ=現アルファタウリも買い取っている)。
その後はA1リンク(現レッドブルリンク)の買収、F1でのタイトルの獲得、ハイパーカープロジェクトの始動、自身でのパワーユニットの開発など、どんどんその手を広げているわけですが、それらはすべてディートリッヒ・マテシッツ氏が「偶然」飲んだ現地のエナジードリンクに原点があり、そしてそのチャンスを自身の経験を活かすことでお金に変えた同氏の行動力によるものである、ということですね。
ディートリッヒ・マテシッツ氏の資産は推定で4兆円程度だと報じられており、これには驚かされるばかりではあるものの、それに見合う偉業を達成した人物であることは間違いなく、ここに冥福を祈りたいと思います。
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参照:Motorsport.com, AFP