| 実際のところ、液晶タッチスクリーンはクリーンで先進的、デザイン的な制約もぐっと少なくなるうえにコストが低いというメリットがあるが |
たしかに一部機能や場面においては「適していない」と感じることも
さて、つい昨年あたりまでは「猫も杓子もタッチスクリーン」を導入し全ての操作系がタッチパネルになるという勢いでの流行を経験しましたが、ここへ来て一部の自動車メーカーは「物理ボタン」を復活させる動きを見せています。
つまりは(現在まだまだタッチスクリーンが主流ではあるものの)物理コントロールが再評価されていると考えてよく、これについて専門家の発表した一つの論文が注目を集めることに。
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ヒョンデ「申し訳ありません。物理スイッチを減らしタッチパネルに置き換えたのは間違いでした」。今後は物理スイッチが復活するもよう
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「ボタンの専門家」はかく語る
インディアナ大学ブルーミントン校の准教授であり、「ボタンの専門家」として知られるレイチェル・プロトニック氏は、この触覚的な再興を何年も研究してきた専門家であり、彼女は『Power Button: A History of Pleasure, Panic, and the Politics of Pushing』(2018年)という著書の中で、ボタンの心理学と文化史、そしてそのテクノロジーにおける不変の役割についての見解を述べています。
そして現在、彼女はその研究結果が認められることで「自動車メーカーが、がデジタルと触覚のバランスを取るためにインターフェースを改善する手助けをしている」そうですが、まず彼女は物理ボタンの復権について以下のように語っています。
「おそらく、スクリーン疲れです。私たちは1日中、夜もデバイスを使ってスクロールしたり、ページやビデオをめくったりしていますが、それに疲れることがあるんです。ボタンの復活は、私たちの毎日の生活をある程度『テクノロジーから離れる』方法となり得るかもしれません。だからと言って、ボタンがスクリーンと上手く組み合わせられないわけではありませんが、ボタンは視覚という感覚の優先度を下げ、スクリーンが常に最良の方法で何かと対話する手段ではないことを認識させてくれます。」
加えてレイチェル・プロトニック氏は「実用性と安全性」についても触れ、「タッチスクリーンでは、操作するために視覚的な注意が必要とされるため、特定のシナリオでは危険である」ことを指摘しており、つまり事故が発生する可能性の高さについても触れています。
これについてはいくつかの団体も同様にの指摘を行っていて、たとえばオーディオコントロールやエアコンの温度のように「頻繁に」操作を行う機能の場合、その位置や操作方法が「直感的に理解でなければ」、あるいは「操作するのにいくつかのアクションを要求するのであれば」ドライバーがそれに気を取られ、運転に振り分ける注意力が不足してしまうと言われているわけですね。
一部の自動車メーカーはようやくこの問題に気づく
多くの自動車メーカーは、タッチスクリーンの限界、あるいは、物理的なコントロールを削減してコスト削減を図ったことの功罪に気づき始めていて、これには消費者からの反発が影響しており、上述の「エアコン」「オーディオ」はとくに(タッチスクリーンによる制御の場合)満足度が低いとされ、よってホンダはこれらを「物理ボタン(ノブ)」へと戻し、トヨタも同様の対応を取ることに。
そしてこれらのコントロールは、迷路のようなインフォテインメントメニューから救済され、元の場所、つまりセンターコンソールに戻されていますが、これと同様に、タッチセンシティブな「ハプティックボタン」(例えばフォルクスワーゲン)は本物の触覚的フィードバックを提供せず、使いにくかったため、通常の物理的な代替品に取って代わられつつあるという現状も。※これを回避するため、タッチし操作を受け付けた場合、クリック音を返したり、ディスプレイの場合はその表面を振動させフィードバックを返す例もある
そのほか、単に「機械式腕時計(クロノグラフ)のプッシュボタンのように、「操作することでその品質の高さを感じさせ、オーナーに満足感を与える」ことを理由に物理スイッチを採用する例もありますが、これはちょっと特殊なケースかもしれません(利便性や安全性とは別の問題である)。
ただ、レイチェル・プロトニック氏は、物理的なボタンとタッチスクリーンは相互排他的ではなく、むしろ補完的であると述べていて、「人々は物理的なボタンを求めています。なぜなら、それらは常に視覚で見なくても済むからです。視覚的に注意を払わずとも、感覚的にそれらを探し出せることができます。また、ボタンはより多くの触覚的フィードバックを提供します」と述べ、物理ボタンは運転環境においては特に価値があり、直感的な操作が安全で効率的であることに触れる一方、タッチスクリーンを完全に放棄するのではなく、物理的なコントロールとデジタルインターフェースを適切に組み合わせるハイブリッドアプローチを採用すべきだとも。
たしかに温度調整やボリュームコントロール、ヘッドライトの切り替えなど、時間的に重要な機能は物理的なボタンやダイヤルで管理するのが最適で、しかしその一方、ナビゲーションやエンターテイメントのような時間的にプレッシャーの少ない作業、あるいは後部座席からの操作についてはタッチスクリーンに任せるのが最も効果的なのかもしれません。
ただし、すべての自動車メーカーがこの(物理ボタンを見直すという)方向に進んでいるわけではなく、物理的なコントロール排除に関しての先駆者であるテスラは、タッチスクリーン中心のアプローチをさらに強化し、実際のところ最近のアップデートではステアリングストーク(コラムから生えるレバー)すら取り除き、そしてテスラが作り出した流行を好む中国車ではますます「タッチスクリーン中心の制御」が加速している状況であるとも認識しており、まだまだこのタッチスクリーン狂想曲が続くことになるのかもしれませんね。
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