
| フェラーリは小排気量V12エンジンを搭載しはじめてル・マンで優勝した自動車メーカーである |
フェラーリはこれまでにも様々なV12エンジンを開発している
さて、フェラーリの歴史を語る上で外せないのが「V12」。
フェラーリは1940年代後半に、それまでは大型高級車、自動車メーカー製のレーシングカーに積まれることが常識であったV12エンジンを「小排気量化し、当時まだ無名であった自身のレーシングカーに搭載」していますが、この166MMはフェラーリの創業からわずか2年後にル・マン24時間レースで優勝を飾り、これによってフェラーリの名が世界中に知れ渡ることとなっています。※ル・マン24時間レースで「小排気量V12エンジン」を搭載して初めて優勝した車両でもある
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そしてこのV12エンジンを設計したのが天才エンジニアと称されたジョアッキーノ・コロンボで、V6やV8エンジンが主流を占め、V12といえば大排気量エンジンしか存在しなかった中、小排気量ながらも高回転化と高効率化を追求したV12エンジンでをもってル・マンという過酷なレースを制し、その技術力と信頼性を世界に示したわけですね。
この勝利は、フェラーリが後のモータースポーツ界で圧倒的な存在感を示す上で重要な一歩となり、フェラーリとV12エンジンとの歩みはここから始まったと考えてよいかと思います。
フェラーリの初期において、V12エンジンには「コロンボV12」と「ランプレディV12」が存在する
フェラーリの初期のV12エンジンには、主に「コロンボV12」と「ランプレディV12」という2つの系統が存在し、それぞれ異なる設計思想と特徴を持っていますが、ここでざっとそれらの特徴を挙げてみると以下の通り。
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コロンボV12 (Colombo V12)
- 設計者: ジョアッキーノ・コロンボ (Gioacchino Colombo)
- 特徴:
- エンツォ・フェラーリ初のエンジン: フェラーリが最初に製造したモデル「125 S」(1947年)に搭載されたのがこのコロンボV12
- 小排気量からスタート: 当初は1.5リッターという比較的小排気量から始まり、その後徐々に排気量が拡大され、多くのロードカーやレーシングカーに搭載される
- コンパクトな設計: その設計は非常にコンパクトで、軽量性に優れていた
- バンク角60度: V型12気筒のバンク角は60度で、これにより優れたメカニカルバランスを実現し、スムーズな回転と高回転化を可能に
- シングルカムシャフト (SOHC) が主流: ほとんどのコロンボV12は、バンクごとに1本のカムシャフトを持つSOHC(シングル・オーバーヘッド・カムシャフト)であった
- 「良いクルマは美しい見た目も必要」: エンツォ・フェラーリの哲学である「見た目の美しさ」にも貢献する、洗練されたデザインが特徴
- 長期にわたる採用: フェラーリの歴史を通じて非常に長く使われ、250GTOなど、数々の伝説的なモデルに搭載される
ランプレディV12 (Lampredi V12)
- 設計者: アウレリオ・ランプレディ (Aurelio Lampredi)
- 特徴:
- 高出力指向: 1950年代初頭に、コロンボV12に代わる高出力なエンジンとして開発される
- ビッグブロック設計: コロンボV12と比較して、より大きな排気量と高出力に耐えうるように設計された「ビッグブロック」エンジンで、これにより、より大きなパワーを引き出すことが可能になった。
- 主にレーシングカーに搭載: 主にレーシングカー、特に耐久レースやF1などの競技用車両に多く採用され、数々の勝利をもたらす
- 排気量の多様性: コロンボV12よりも幅広い排気量バリエーションが存在する
- バルブ配置の多様性: SOHCだけでなく、DOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)のバリエーションも存在
- 短命だったが強力: コロンボV12ほど長く使われることはなく、しかしその期間にフェラーリのレースでの成功に大きく貢献
両者の主な違いのまとめ
特徴 | コロンボV12 | ランプレディV12 |
設計者 | ジョアッキーノ・コロンボ | アウレリオ・ランプレディ |
登場時期 | 1947年~(フェラーリ初期から) | 1950年代初頭 |
設計思想 | コンパクト、軽量、バランス重視、ロードカー中心 | 高出力、ビッグブロック、主にレーシングカー中心 |
排気量 | 比較的小排気量からスタートし拡大 | より大排気量で高出力に対応 |
使用期間 | 長期にわたって使用された | 短期間だが、レースで大きな成果を上げた |
主な搭載車 | 125 S, 166, 250シリーズなど多くのロードカー | 275 S, 340 Mexico, 375 Plusなど主にレーシングカー |
簡単に言えば、コロンボV12はフェラーリの基盤を築いた万能で洗練されたエンジンであり、ランプレディV12はレースでの勝利を追求するために生まれた、よりパワフルで競技志向の強いエンジンと言えそうです。
その後のV12エンジンはこういったタイプがある
そしてこのほか、フェラーリは以下のようなV12エンジンを開発しており、これだけの数のV12エンジンを開発した自動車メーカーは他に類を見ないかもしれません。
フラット12(水平対向12気筒)
- 設計者: (初期のものはコロンボの流れを汲むものもあるが、独立した系譜として進化。具体的な設計者は不明)
- 特徴:
- V型12気筒のバンク角を180度にした、いわゆる「ボクサーエンジン」。低重心化が可能で、特にミッドシップレイアウトのモデルに適しており、むしろミドシップに搭載するために開発されたV12という側面が強い
- 1970年代から1980年代にかけ、フェラーリのフラッグシップモデルに搭載される
- F1でも採用され、大きな成功を収める
- 代表的な搭載モデル: 365GT4 BB、512BB、テスタロッサなど
456 / 550 / 575M / 599 などに積まれたV12
- 特徴:
- 1990年代以降、コロンボ系V12に代わる形で開発された新世代のV12エンジン
- 456GTに搭載された「ティーポF116」に始まり、550マラネロ、575Mマラネロ、そして599GTBフィオラノへと進化する
- DOHC化され、より洗練された電子制御が導入され、高出力と信頼性を両立
- バンク角は65度
- 代表的な搭載モデル: 456GT、550マラネロ、575Mマラネロ、599GTBフィオラノ、612スカリエッティなど
F140系V12 (現行の自然吸気V12)
- 設計者: フェラーリ
- 特徴:
- 2002年の「エンツォ・フェラーリ」に初搭載された、最新世代のV12エンジン
- これもバンク角は65度
- 高い出力を持ちながら、環境性能や信頼性も向上
- 「F140」という名称で知られ、A、B、C、D、E、F、G、Hといったサブタイプが多数存在し、排気量や出力、特性がモデルごとに最適化されている
- 最新の「ドーディチ・チリンドリ(12Cilindri)」に搭載される「F140HD」型は、最高回転数9500rpmを誇り、自然吸気V12の最高峰として君臨
- 代表的な搭載モデル: エンツォ・フェラーリ、599GTO、F12ベルリネッタ、FXX K、ラ・フェラーリ(ハイブリッド)、812スーパーファスト、812コンペティツィオーネ、ドーディチ・チリンドリなど
フェラーリのV12エンジンは、その誕生以来、常に最高峰の技術と情熱の結晶として進化し続けており、各世代のエンジンにはそれぞれの設計者の思想や時代の要求が反映されているのも興味深いところ。
つまりV12エンジンはフェラーリの歴史を語る上で欠かせない存在で、これがフェラーリの歴史そのものだと言われる所以でもありますね。
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