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フェラーリ「V12エンジンをターボ化する計画はありません。我々がターボを使用するのは出力を維持し、エンジンをダウンサイジングする必要があるときだけです」

Image:Ferrari

| フェラーリは「いかに困難でも」V12エンジンを自然吸気のまま存続するための努力を行ってきた |

そしてその努力に「車両の購入」という形でファンが応じることでフェラーリのDNAが維持される

さて、フェラーリは自然吸気V12エンジンのみで走行するスーパーカー、12チリンドリを発表していますが、現時点でV12エンジンを継続する自動車メーカーは非常に少なく、少量生産メーカーを除くとフェラーリのほかはランボルギーニ、ロールス・ロイス、アストンマーティン、パガーニ(パガーニも少量生産ではありますが)といったところかと思います。

ただ、これらのうちでハイブリッドやターボチャージャーと組み合わせられていないのはフェラーリのみといった状況です。

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フェラーリはV12エンジンの存続に最大限の犠牲を払ったはずである

フェラーリ以外の自動車メーカーがV12エンジンにハイブリッドシステムあるいはターボチャージャーを追加するのは「環境規制をクリアするため」が主な理由かと思われますが(もちろんパフォーマンスの向上も重要な理由である)、フェラーリはエンジン性能を損なうことなくユーロ6eの排ガス規制に適合させるために多大な努力を行っており、これは今までに出願された数々の特許を見てもわかるとおり。

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12チリンドリに積まれるV12エンジンはこれまでのF140HB(65度V12)の発展形である”F140HD”と呼ばれるユニットで、排気量も同じ6.5リッターを維持しており、出力も812コンペティツォーネと同じ830馬力、許容回転数は9,000馬力を誇りますが、フェラーリの製品開発責任者、ジャンマリア・フルゲンツィ氏によれば、12チリンドリに積まれるV12エンジンは「多くの理由で自然吸気になった」。

V12 は自然です。低回転から最高回転まで感情、音、加速を生み出すものです。 それが私たちが届けたかった製品なのです。

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なお、この830馬力は296GTBに積まれる「V6+プラグインハイブリッド」と同じ数字で、812コンペティツォーネに対しても数値的増加はなく、さらにパフォーマンス面では0-100km/h加速タイムは296GTBと同一、0-200km/h加速においては296GTBに0.6秒のビハインドがあり、これを見るにフェラーリは「パフォーマンスを求めて」12チリンドリに自然吸気V12エンジンを積んだわけではなく、これまでにも何度か語られたように「感情」を最優先したがためだと思われます。

フェラーリ
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そしてフェラーリはその「感情」を最優先するがためにV12エンジンを自然吸気のまま存続させることに最大限の注力を行ったということになりそうですが、「出力が増加していない」ところを見ると自然吸気のままユーロ6eに適合させることは非常に困難であったと考えてよく(あるいは812コンペティツォーネに対する配慮なのかもしれない)、しかしフェラーリは様々な手段を用いて”環境性能とドライバーに与える感動”とを両立させており、たとえばセラミック触媒コンバーター、チタン製コンロッド、F1から派生したスライディングフィンガー・フォロワーによるバルブ開閉機構(これの採用によってエンジン内部での関連部位の摩擦係数が下がる)などの採用はそれを示す一つの例だと言えそうです(これらは先行して812コンペティツォーネにも取り入れられている)。

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加えて、12チリンドリではサウンド品質の向上を目的として数々の改良が加えられ、等長マニホールドの採用(もちろん音質のみではなく排気効率も向上する)、点火順序の調整による倍音成分の増強、吸気ダクトにおけるレゾネーターの位置変更(中周波音が豊かになった)を行ったほか、アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ASP)なる新機構を採用し、これは3速と4速において「トルクカーブを増強しドライビングプレジャーを高める」ことに成功しているのだそう。

なお、このASPは電子制御によって作動しますが、フェラーリはドライビングエクスペリエンスを高めるために積極的に電子制御を取り入れており、V8ツインターボエンジンにおける各ギア間での過給圧の変更、そしてエキゾーストシステムのバルブ開閉(アクセルを踏み込むとエンジン回転数の上昇よりも速くバルブが開きエキゾーストサウンドが大きくなり、リニアな間隔が得られる)など様々な試みを行っています(そのほかにも非常に多くの電子制御を取り入れ”ファン・トゥ・ドライブ”を実現している)。

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フェラーリはV12にターボチャージャーを追加する予定を「今のところ」持っていない

そして前出のジャンマリア・フルゲンツィ氏によれば、「V12にターボチャージャーを追加することは、私の頭の中にはありません」。

同氏いわく、フェラーリがターボを私用するのは「出力を維持しながらエンジンをダウンサイズする必要がある場合」だといい、たしかに近年のフェラーリを見るとV8ツインターボ化しかり(排気量が4.5リッターから3.9リッターへ。これは環境規制への対応が主要因だと思われる)、そしてV6ターボも同様なのかもしれません(エンジン全長を短くし、ホイールベースを短縮することが目的であったのだと思われる)。

ただ、フェラーリがV12エンジンを存続させる理由は(上述の通り)パワーやパフォーマンスによるものだけではなく、実際のところ「数字上の」優位性を得るためにはターボチャージャーやハイブリッドを使用するほうがずっと効率的で、極言すればV12である必要もなく、しかしそれでもV12にこだわるのは「それがフェラーリのあるべき正しい姿である」から。

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現在自動車業界にとって「逆風」が吹き荒れており、各自動車メーカーは環境規制をクリアするためにエンジンのダウンサイジング、ターボ化やハイブリッド化を余儀なくされているという現状があるものの、フェラーリはそれに立ち向かう数少ない自動車メーカーのひとつでもあり、12チリンドリを見ると”自身のアイデンティティを守るためにいかなる手段をも用いている”ことがわかるかと思います。

そしてこの”手段”はターボ化やハイブリッド化よりもコストがかかるものだと推測でき(このほうがコストが安いのであれば、ほかの自動車メーカーもフェラーリに倣っているはずである)、そのコストが(欧州での)約6500万円という驚愕の価格設定として反映されているのかもしれません。

実際のところ、フェラーリはV12エンジンに関して「コストをは問題ではない」といい、そして「フェラーリがフェラーリであり続けるため、存分にコストを投じたV12モデル」を購入する人々こそが真のフェラリスタであり、フェラーリがV12モデルのオーナーを特別視することもここに理由があるのだと考えています(まだ購入できる価格設定に収まっているうちにV12エンジンを購入せなばならないとぼくは考えている)。

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参照:Autocar

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