さて、紆余曲折あってやっと戻って来た(というか別の個体に交換となった)オーデマピゲ・ロイヤルオーク・オフショアクロノグラフ(26400SO)のレビュー。
しばらく使用した感想をここで述べてみます。
ぼくが他に使用している42ミリのロイヤルオーク・オフショアクロノグラフ(Ref.26020)↓に比べると「わずか2ミリ」大きなケースとはいえど、相当に大きい、と言えます。
そのため存在感は抜群。
ただ、42ミリ版ロイヤルオーク・オフショアクロのと最も大きく異なるのはそのサイズのみではなく、各部のエッジの処理。
44ミリではそのエッジがより「鋭く」、指先で触っても明らかにカドの立ち方が鋭くなっていいます。
要は「カクカクしている」ということですが、44ミリモデルはダイアルを除くと「丸い」デザインを持つパーツがなく(42ミリモデルはプッシュボタンが丸)、これによって全体的にシャープなイメージとなっており、実際の見た目はサイズやパーツ(プッシュボタンやガード形状)の変更以上に違う、と言って良いでしょう。
ロイヤルオークシリーズはもともとジェラルド・ジェンタのデザインで、彼はこの腕時計のデザイン時に「どこを磨いて、どこをブラシ仕上げに」して時計を立体的に見せるか細かく指示したと言いますが、その初代設計時の思想がこのモデルにも息づいている、と考えて良さそうですね。
プッシュボタンも上面、側面で「ブラシ仕上げ/鏡面仕上げ」が使い分けられており、やはり立体的に見えるように考えられ、それなベゼルも同様。
そしてブラシ仕上げの「溝」が深いのもロイヤルオークの特徴で、この溝が素材に陰影を作っており、これがロイヤルオークの表情を独特のものにしている、と言えるでしょう。
この「溝」はステンレス部においては陰影を作ることで時計自体を「暗く」見せており、これによって重厚感が出ている、とぼくは考えています。
逆にセラミック部(黒い部分)においてはこの溝が光を反射することで、黒いセラミックにも「きらめき」を感じることに。
ガラスやベゼルの面が「平面」ということもあり、この広い面が「反射」することで存在感をアピールしているとも考えられますね(ガラスが丸かったり、ロレックス・デイトナのようにガラスとベゼルの面における角度が異なると反射する”面積”が小さくなる)。
文字盤はおなじみ「メガ・タペストリー(大柄の立体的なチェック模様)」。
シンプルな文字盤ですが、このメガ・タペストリーがシンプルな文字盤に陰影を作り、ケースやベゼルの「溝」同様、腕時計に表情を与えていますね。
インデックスの加工精度も高く、意外と見落としがちな部分で貼りますが、ここはそのブランドの力量が現れる部分。
針もそうですが、インデックスや針の「面」がきっちり出ていないと、やはりそのブランドの製品は「ちょっと信用できない」、と考えたりします。
ケースとベルト部は独特の接続方法を持ちますが、これはロイヤルオーク独特のデザインでもあり、そのために「文字盤やベゼルが見えなくても」ロイヤルオークだと認識できる部分でもありますね(文字盤を見ずにそのブランドを判別できる腕時計は数少ない)。
また、ケースとベルト、その間の四角い二つのパーツ(ピンバックル)との「チリの小ささ、ツライチ度合い」も絶妙で、加工精度の高さを視覚で感じられる部分(実際に指先で触っても段差がほとんど感じられないほどの滑らかさ)。
プッシュボタンのガードはヘキサボルト、ベルトとケースはマイナスネジで取り付けられていますが、これらネジの精度も高く、何から何までよくできている、と感じます。
なおベルトは「ラバー」ではあるものの、シリコンのように柔らかい素材ではなく比較的硬め。
かつ、ケース形状に沿うように外側に向かって伸びており、「内側に」、つまり腕に沿うように曲げるのは困難です。
しかもベルトの穴も欧米人の腕の太さにあわせて設定されているようで、日本人で痩せている人だとまずベルトの穴を最小で使用したとしても「ゴソゴソ」になるのは間違いありません(一説によるとベルトサイズは何種類かある模様)。
ぼくは「ゴソゴソ」でも気にしないタイプですが、腕に時計をしっかりフィットさせたい人は試着が必須と思われます。
こちらはバックルですが、複数パーツが組み合わされるもやはりその段差は極小で、とにかく高い精度で加工されていることがわかる部分。
面を均一に加工したり、エッジを「直角に」加工するのは実際には相当に高い技術を要するのですが、ロイヤルオークは細部に至るまで一分の隙もない高いレベルで製造されていることがわかりますね。
なおバックルには「AP」の文字がエンボス可能されますが、この凹んでいる部分は梨地の「フロスト加工」。
これもまた加工に困難を極める技術だと思われ、非常に贅沢な作りを持っている、と思わせます。
全般的に見ると、シャープなエッジを持ち、腕時計には珍しい「直線」「面」で魅せるデザイン。
かつパーツ一つ一つの「面」を大きく取り、複数パーツの面を連続させてさらに面積を拡大し、加えて面ごとに加工を変えることで立体感を強調するという手法を採用しており、腕時計においてはかなり独特の考え方をもっていると言えそう。
腕時計に必要な部品を見直し、旧来の「常識」を超えた範囲で再構成しなおしたのがロイヤルオーク・オフショア・クロノグラフ、とぼくは認識しています。
腕時計によってはブライトリング(ナビタイマー)のように精緻なデザインをもってディティールで魅せるデザインもありますが、ロイヤルオーク・オフショアは極端にシンプルなデザインであり、細かい部分ではなく、パーツ単位など「ダイナミックな」デザインを持つ腕時計。
対極にあるのは上記ナビタイマーやセイコー・アストロンと言った感じで、やはり近いのは同じジェラルド・ジェンタがデザインしたパテックフィリップ・ノーチラス。
面に変化を持たせ、パーツごとが向いている「角度」がそれぞれ異なるという意味ではロレックス・ヨットマスターもロイヤルオークとは異なる方向性を持ったデザインではありますね。
今までにも様々な腕時計を使用してきましたが、その中でも非常に満足度の高い腕時計だと考えています。