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消費者は「シンプルなクルマ」を求め、しかし自動車メーカーは「どんどん装備を追加しクルマが高価に」。需要と供給との間に広がるギャップ

| 「レザーシートもデジタルメーターも要らない」――今、自動車に求められているのは“装備の引き算” |

フル装備はもはや“売り”にならない?

これまで自動車メーカーは「快適装備の追加=付加価値の創出」として、あらゆる新装備をグレードやパッケージに詰め込んできたという傾向がありますが、もはやその戦略が通用しなくなりつつあることが最新の調査によって明らかに。

米調査会社AutoPacificは、「現在の経済状況において、消費者は“いらない装備”を省いたクルマを求めている」と指摘。

インフレ、金利の高騰、保険料の上昇、修理費の値上げといった複合要因により、アメリカ人が”機能本位”の買い物に回帰していると述べています。

数字で見る「要らない装備」たち

AutoPacificが行った調査では、年収別に人気装備の需要を算出。

25,000~35,000ドルの価格帯をターゲットにする購入層では、以下の装備の需要が思ったより低いことがわかっています。

装備需要($25k-$35k層)需要($35k以上層)差分
レザーシート11%18%-7pt
デジタルメーター(設定可能)21%27%-6pt
パノラマサンルーフ20%27%-7pt
ブランド付き高級オーディオ15%21%-6pt
ヘッドアップディスプレイ15%23%-8pt

上記のように、レザーシートやデジタルクラスターは意外と“不人気”。

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逆に好まれるのは「(AWDではなく)前輪駆動」「アナログメーター」「布シート」「マニュアル調整式シート」など、シンプルで実用的な装備ということも明らかになっているようですね。

グレードによる“抱き合わせ商法”が逆効果に?

さらに現代では、かつて単品オプションで選べた装備が、今では上位グレードや高額パッケージに組み込まれ、結果的に「本当に欲しい装備を得るには30万円以上高いグレードを選ぶしかない」という構造が常態化していますが、これはメーカーが“物流コスト削減”や“在庫効率”の観点から合理化した結果ではあるものの、消費者がこれを求めていない、あるいは納得していないことは明らかで、現在の自動車業界においては「自動車メーカーの事情」と「消費者が求めるもの」との差が大きく拡大しつつあることもわかります。

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「装備の足し算」から「装備の引き算」へ

調査では、買い手の多くが「自分にとって不要な装備にお金を払いたくない」と感じており、今後は自動車メーカーがエントリーグレードや中間グレードをどう再設計するかが重要に。

さらに今後、「ディーラーを通さず直接オンラインで装備を選んで注文する」といった仕組みが浸透すれば、不要な装備の押し売り構造から脱却できる可能性もあり、自動車の企画から販売という「上流から下流まで」の流れが変わってくるのかも。

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ただ、「いらない装備が追加され」自動車の価格が高くなっているのには理由があり、それは「超シンプルなクルマを作っても、どのみち高くなるから」。

現在では人件費や材料、物流、そして規制対応のためのコストが上昇しており、豪華装備を含めなかったとしても、「かつての高級車並み」の価格となってしまうわけですね。

よって自動車メーカーは「であれば、さらに価格が上がったとしても、豪華装備を追加したほうが消費者の価格納得性が高い」と考えることになり、たとえばある自動車メーカーが「(基本装備しか備わらない)素」のクルマを作り、売ろうとした時、市場価格が300万円になったと仮定します。

ただ、そのクルマがサブコンパクトカーであって、「なにも装備がないクルマに300万円」というのは消費者には納得しづらく、であれば「レザーシートに電動調整機構、デジタルメーターにプレミアムオーディオ、運転支援(ADAS)に安全装備」を組み込んで350万円に設定したほうが”割安感”が生じ、かつ他社製品との比較において有利となる場面も出てきます。

もちろん、自動車メーカーにとっても「それらの装備」を組み込むことでさらに製造原価が上がってしまうのですが、これらは他の車種にも幅広く使用するものであったり、すでに開発コストの多くが吸収できているものであったりして「さほどコストがかからない」ということに。

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よって、販売価格を50万円上乗せしたとしても、それらの原価が10万円だったとすると、自動車メーカーは「装備を追加することで、高額になってしまい、いくばくかの顧客を遠ざけることになるかもしれないが、それでも販売の際には”素”よりも多くの利益を得ること」が可能となります。

結論

つまり、現代の自動車が高額になっているのは、「素の状態で販売したときの割高感を解消し価格納得性を高めるため」という逆説的なマーケティング理論が働いているのだと考えられます(安く見せるために高くなっている。現代の社会構造では、顧客が納得する”シンプルで安いもの”は二度と作れない)。

一方で消費者が自動車メーカーに求めるのは「どれだけ装備を足せるか」ではなく、「どれだけ装備を引けるか」で、レザーシートや大画面ディスプレイ、サンルーフといった装備は万人にとって必須ではないという現状があり、急激なインフレ、環境規制の締付けによって「過去の常識と現在の事情」との間に解離が生じ、それに消費者が追いつくことができないのが今の状況なのかもしれません。

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よって今後、自動車メーカーにとっては、本当に必要な人にだけ届く選択肢の見直し、そしてシンプルで価格を抑えたベースモデルを(設計やサプライチェーンの見直しによって)作れるかどうかがサバイバル戦略の要となるのでは、と考えています。

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