| 多くの予想では「BYDは永遠にテスラやフォルクスワーゲンに勝てないだろう」と見られていたが |
もはやこれほどまでに自動車業界の動向が読みづらい時代になろうとは
さて、テスラは18日に2023年第3四半期の決算を発表していますが、そこで明らかになったのが「利益43.7%減」というショッキングな数字。
なお、売上高そのものは前年同期比で8.8%増加(233億5000万ドル)であったものの、純利益は43.7%減って18億5300万ドル(現在の為替レートにて2775億円くらい)にとどまっており、これは「中国のEVメーカーに対抗するために行った値下げの影響」だと報じられています。
当然ですが、この結果を受けて株価は前日比で4.7%と大きく下落することとなっています(ただし中東情勢や長期金利の上昇など複数要因が絡んでおり、NY市場全体での下げが大きい中での下落である)。
一方、BYDは好調そのもの
反面、テスラを苦しめている主要因とも言える中国の電気自動車メーカー、そしてその筆頭であるBYDは暫定にて2023年第3四半期の決算予想を発表しており、こちらは「四半期ベースで過去最高の利益を計上する見込み」。
ちなみに現在中国の電気自動車「4強」はBYD(比亜迪)、上海汽車、吉利汽車、広州汽車となっていて、今回BYDはが香港証券取引所に提出した内容だと2023年第3四半期(7-9月)の純利益は115億元(現在の為替レートで2350億円くらい)だとされ、これはテスラの純利益に迫る勢いです。
そしてもちろんこれを受けてBYDの株価は大きく上昇し、1月以来の大幅上昇率となる8.3%を記録することに。
なお、中国の電気自動車市場においては(メーカーにとって)相当に厳しい状況が続いており、BYDとしても競合他社の厳しい戦いにさらされているわけですが、「自社でバッテリーと半導体を製造している」という大きな強みを持っていて、これによって他社よりも低いコストによって電気自動車を作ることが可能になっていると言われています。
参考までにですが、下の図は2022年6月に予想された「2025年までのEV販売勢力図」。
これによると、2023年はテスラが1位、2位はフォルクスワーゲン、3位がBYD(テスラの半分くらい)となっていますが、この予想から1年数ヶ月も立たないうちに全く異なる結果となっていて、2023年には「BYDがテスラを抜く」可能性が非常に高くなっています。
ただしテスラはこの予想に近い数字を達成するものと思われ(180万台を目指している)、しかしフォルクスワーゲンとフォードやGMはこれに大きく届かず、驚くべきことにBYDが「予想より倍ほど伸びた」ということになりますね。※そう考えると、BYDは中国市場にて、テスラではなくVWやフォードの電気自動車のシェアを食ってしまったのかもしれない
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ただしBYDにも死角はある
しかしながらBYDとしても「万能」であるわけではなく、いくつかの懸念が指摘されており、ひとつは「海外市場への進出」。
BYDは中国国内と(主に)東南アジアにて強さを誇りますが、世界最大の自動車市場である中国内で売れている理由は「(自動車メーカーに対する)補助金」「(消費者に対する)EV購入優遇政策」。
前者に関しては、中国政府がEVの製造を奨励するため、EVを製造する自動車メーカーに対して出している補助金を指し、この補助金目当てに新興メーカーが続々誕生し、そして大量に製造されたEVが”売れない”ままに放置された「EVの墓場」も話題となったほどで、つまりそれくらい多額の補助金がバラ撒かれたということに(EVメーカーを創業してもモトが取れるくらいのお金を得られたということになる)。
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現在もこの「補助金」は継続中ですが(対象期間が延長された)、このおかげで中国車は体外的な競争力を保っているとも考えられ、もしこの補助金が打ち切られるようなことになれば、とたんに利益が圧迫されるほか、「輸出」という道も絶たれることになりかねないわけですね。
加えて、この補助金によって「安価に製造が可能な中国製EV」は健全な競争を阻害するという観点にて、EUはすでに関税を導入することを検討しており、補助金が打ち切られなかったとしても、今後世界的に見て中国のEVが競争力を失う可能性も出てきます。
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そしてもう一つの”BYDの将来に影を落とす懸念”としては「中国国内需要の将来的な鈍化」。
現在中国は(アメリカに大差をつけて)世界で最もクルマが売れている国ですが、中国政府はEVの生産や輸出、もちろん国内販売を奨励しており、国内に関しては各種税制の優遇に加え、「ナンバープレートの取得のしやすさ」という特典を付与。
中国ではナンバープレートを簡単に取得できず、ガソリン車の場合だと「抽選制(なかなか当たらない)」「入札制(1枚あたり200万円以上になることもある)」などを導入し、実質的にガソリン車の購入を制限している状態ですが、一方の電気自動車だと(現在のところ)ほぼ制限なく簡単にナンバープレートを入手できるといい、これもまた中国の人々を「EV購入に走らせる」理由となっているわけですね。
そして上述の補助金、このナンバープレート対策等が追い風となって「EVは儲かる」という風潮が誕生し、中国ではピークで500ほどのEVメーカーが誕生することになっており、これによって中国内では熾烈な競争が生じています。
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もちろんこの競争もBYDにとって無縁ではなく、そして得意とする普及価格帯において「EVがゆきわたってしまうと」販売の伸び率が鈍化することも予想され、よってBYDとしても「競争が少ない」高級車市場へと触手を伸ばしたり、数々の技術的イノベーションによって将来的な利益の確保を見据えた戦略を取っているのかもしれません。
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参照:Bloomberg, etc.