| BYDの強みは製品となって外に出るが、テスラの強みは「開発や製造に関するノウハウ」であって社外に出ることがなく他社がそもそも知り得ない |
この特許出願件数を見る限り、BYDは相当数の独自技術を持っているものと考えられる
さて、すでにテスラを(販売台数だけではなく)様々な意味で超えつつあるとされるBYDですが、今回「2003年から2022年の間に13,000件以上の特許を出願しており、その数は同期間にテスラが出願した特許(863件)の16倍にも達している」という事実が報道されることに。
なお、BYDの出願している特許の半分以上がバッテリー関連だとされ、これはバッテリー製造業をバックボーンに持つBYDならではの状況であるとも言えそうです。
BYDはなぜ特許をそこまで多数出願しているのか
BYDは自社の製造する電気自動車のコスト削減のためにバッテリーを内製していますが、その強みは正極にリン酸鉄を使用した比較的安価なリチウムイオン電池だとされ、逆に日本や韓国の電池メーカーは、ニッケルやコバルトなど高価な材料を使う3元リチウム電池を好む傾向にあるのだそう。
そしてBYDがここまで多くの特許を出願している理由としては「他社がBYD製品を購入し、分解すればその技術を容易に知り、模倣することができるため」だと見られており、BYDはそういった事態を避けるために特許という法的な枠組みを使用して自社の技術を保護しているのだと見られています。※ブレードバッテリーはその例のひとつかもしれない
参考までに、中国では毎年1万件以上の特許訴訟が起きていると言われ、米国の3,000~4,000件、日本の約100件と比べても多く、それだけ模倣が多いのだと思われますが、これは「中国のメーカーは、外国の製品を模倣するだけではなく、中国の同胞が作った製品をも真似している」ということを意味しており、「中国人がもっとも信用しないのが中国人である」ということを示す事実なのかもしれません。
さらにBYDは「バッテリーを車体に組み込んでコストを削減する”eプラットフォーム3.0”など、バッテリー以外にも同様のコスト削減策を展開」していて、これらについてもBYD製品を分解すればその技術を盗むことができる可能性があるため、特許によって保護を行っている、ということになりそうです。
なぜテスラの特許出願数は少ない?
ただ、「BYDの特許出願がテスラの16倍」ということにつき、BYDの出願件数が多いことも関係しているものの、この差は「テスラの特許出願件数が少なすぎる」という見方もできるそうで、というのもテスラの規模であれば現在の10倍以上、つまり1万件程度の特許を出願するのが通常であるとされるため(トヨタ自動車は2000年以降、電池関連の特許を約2万件出願しており、これは世界のどの自動車メーカーよりも多い)。
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ただしテスラの特許出願数が少ないのにはいくつかの理由があるといい、まず1つ目は「テスラ固有の技術の多くは生産に関するもので、工場の外から出るものではない」こと。
テスラは、巨大なアルミダイキャストマシンを用い、従来なら”多数の小さな部品”で構成されていた大きな車体部品を製造するギガキャスティング技術など、生産革新を通じてEVのコスト削減によって業界をリードしており、テスラで最も売れている「モデルY」だと、171の鋼板部品をたった2つの大型アルミ部品(下の画像の青い部分)に置き換えています。
加えてテスラはコンピューターやスマートフォンと同じ方法でEVを生産する「アンボックスド・プロセス」と呼ぶ次世代生産方式のコンセプトを発表しており、これは車両が6つのモジュールに分割されたうえで(6つそれぞれが個別に)生産され、内装部品が取り付けられた後に統合されるという方式だとされていますが、現在のギガキャスト、アンボックスド・プロセスによって製造した車体を他社が購入し分解しても、その「結果」は理解できるものの、製造の「過程」までを把握することは難しく、よってテスラはこういった「製造に関する独自技術」については特許出願の必要性を感じていないのかもしれません。
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むしろ、製造方法を特許として出願してしまうと、(出願時には詳細を記す必要があるので)その内容が他社に知られてしまい、他社がテスラの目につかないところでそれを真似たり、テスラの特許に触れないよう、うまく「特許回避を行う方法」を自ら示してしまう可能性があり、この観点からも「そもそも他社が知り得ない情報」については無用に特許申請をするべきではないのでしょうね。※実際のところ、「生産に関わる技術は一般的に特許を取らない」のが通常なのだそう
そのほかテスラが他社に対して優位性を持つのは「ソフトウエア」ですが、こちらについては一般に公開されている情報が多く使用されるため、この分野での特許の必要性は低く、よってこれらについてもテスラは特許を出願していない、とされています。
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これらとは逆に、テスラの特許の多くは、充電インフラやドライバーとEV間の通信に焦点を当てたもので、最も有名なものは、北米全域でEVの標準となりつつある北米充電規格(NACS)であり、これらについてはしっかり特許を出願し、他社がその技術を使用できないようにしているもよう(その一方、テスラはEV全体の発展のため、一部特許を無償開放し、自社の技術を他社が利用できるようにしている)。
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参照:Nikkei Asia