>フェラーリ

フェラーリ「他のスーパーカーブランドの買収は絶対にない」。厳選されたパートナシップ契約によって業務を推進し「DNAを守りつつ、柔軟性を保ちたい」

2023/06/07

フェラーリ

| フェラーリはまず達成すべき目的を定め、その手段として「それに見合う技術を持つパートナー企業の選定」を行う |

そしてこの激動の時代を生き抜くために柔軟性と独立性を重要視

さて、ブルームバーグが主催したカンファレンスにて、同メディアがフェラーリCEO、ベネデット・ビーニャ氏に対し「他のスーパーカーメーカーを買収する可能性はあるか」と尋ねたところ「我々は、他社(スーパーカーメーカー)を買収することには意味がないと考えている」と述べ、反面「他社(サプライヤー)との協調体制を引き続き注力する」とコメント。

そこに至るまでの流れについては不明なので、ブルームバーグの質問の意図はわかりかね、しかし「他社の技術を取得するために他スーパーカーメーカーを買収することを検討しているか」「スーパーカービジネスを拡大し、市場での占有率を向上させるために他スーパーカーメーカーを買収する可能性があるのか」ということを聞きたかったのかもしれません。

フェラーリはテック業界との関わりを強める

そしてベネデット・ビーニャ氏はこれに対してNOと回答しているわけですが、「他社(サプライヤー)との協調体制を引き続き注力する」という回答をしているあたり、同業他社からの技術移転を図るつもりはないように思えます。

そもそも、ベネデット・ビーニャCEO自身が「自動車とは関係のない、電子業界出身者」で、同氏がCEOに就いたのち、ほかの重責者の大半を入れ替えており、これまでの(ガソリンエンジンの設計やガソリン車そのものの設計に携わった)功労者の多くを解任し、かわりに「電子業界とハイブランド業界出身者で固める」という人事を行っています。

フェラーリのホイール
フェラーリが新人事を発表!エレクトロニクス業界出身の新CEOのもと、マイクロソフト他IT業界出身者で幹部が固められることに。一つの時代の終焉か

| なんといっても、今やフェラーリは「もっとも電動化比率が高いスーパーカーメーカー」となっている | 意外やフェラーリはほかメーカーに比較して電動化への対応が速かった さて、フェラーリではルイス・カミ ...

続きを見る

つまり、これからのフェラーリに必要なのは過去の技術や考え方ではなく、新しい技術と考え方だと認識しているものと思われ、これは他ブランドとは大きく異なるところかもしれません(ポルシェ、アストンマーティン、ランボルギーニ、マクラーレンのCEOは自動車業界出身者である)。

そして「他社との協調体制」という点についてもこの方向性が現れており、ジョニー・アイブやマーク・ニューソンとの協業や・・・。

フェラーリがiPhone、Apple Watchのデザイナーと提携発表!2025年発売のEVについてジョニー・アイブ、マーク・ニューソンとデザインを共同にて行う模様
フェラーリがiPhone、Apple Watchのデザイナーと提携発表!2025年発売のEVについてジョニー・アイブ、マーク・ニューソンとデザインを共同にて行う模様

| フェラーリの「異業種との関係性構築」はとどまるところを知らない | フェラーリの新型EVは「アップル」っぽく丸くシンプルな形に? さて、フェラーリが「LoveFrom(ラブフロム)」との複数年に渡 ...

続きを見る

そのほか様々なテック業界とのパートナーシップ締結を見るに、フェラーリは今後流動的に変化してゆくであろう「自動車のあり方」について、自社でできることや得意なこと、そして他社の得意なことや他社でしかできないことをうまく結びつけ、その時その時で最良のプロダクトを生み出してゆこうとしているのかもしれません。

フェラーリ

つまり、急速に変化し、今後何がどうなるかわからないという不確実な現在について、可能性や方向性を一つに絞るわけではなく、そして新しい分野については一から自社で開発を行ったのでは時間がかかり、かつ品質を担保できるかどうかわからないという観点から、「スピードを重視し」、自社が持たない技術については(その分野でトップの)パートナーに頼ることにしているのだとも考えられます。※経営に対する柔軟性を確保したいのだと言い換えてもいい

フェラーリ
将来のフェラーリはスマホのように?ハーマンとの提携を発表、「最初からアップグレード可能なハードを仕込み、その後ソフトのアップデートで機能更新、パーソナライズが可能に」

| フェラーリは運動性能のみではなく、常に「運転しやすさ」「快適性」を考えている | 将来のフェラーリはユーザーエクスペリエンスが大きく向上するものと思われる さて、フェラーリとハーマンとがパートナー ...

続きを見る

つまり、何らかの拍子で情勢がガラリと変わってしまう場合もあり、その際にすぐ方向性を転換できるよう、そして意思決定を素早くできるよう、できるだけ会社自体はシンプルにし、余分なものを持たないようにしたいのかもしれませんね。

反面、すべてを自社で行うこと、全てのニーズを賄うための手段として買収を活用する自動車メーカーもあり、また多くなグループに属するスーパーカーメーカーだと、グループの意向に従わなければならないということも出てきますが、フェラーリとしてはそういった事態を避けたいと考えているのだと思われます。

フェラーリ
フェラーリの取締役名簿を見て驚いた・・・。サンローラン、グッチ、シャネルなどハイブランド業界、アップルといったテック業界の大物で占められる

| やはりフェラーリは今後ハイブランド化、スマートフォン化してゆくことになるのだろう | ウワサには聞いていたが、フェラーリは「自動車」というよりは「ブランド」ビジネスへとシフトすることに さて、ラン ...

続きを見る

フェラーリ「DNAを保持することが重要である」

そしてベネデット・ビーニャCEOが付け加えたのが「フェラーリにとって重要なのはDNAを保持すること」。

これは創業当初から貫かれている考え方でもあり、実際にその通りなのは間違いなく、DNAを希薄化しないためにも他ブランドの買収は避けるべきなのかもしれません。

なお、ここで補足しておかねばならないのは、上述の「他社との協業」によってであればDNAが希薄化しないということ。

フェラーリが(協業を行う)パートナーを選択するプロセスとしては、まずフェラーリが「これを行う」という明確な方向性が最初にあり、そしてそれを実現するために最も優れた企業がどこなのかという選定を行うことによって進められるものと思われ、つまりフェラーリが「主」、パートナーが「従」の関係にあり、フェラーリの目的を最大の効果にて達成するのがパートナーの役割だと考えられます。

そして、その目的が変わればまたパートナーも変わるということになり、そうやってフェラーリは「最先端の技術を活用し、DNAをよりタイトにしながら」、また「状況によってパートナーを変えながら」前に進んでゆくことになりそうですね。

フェラーリ

フェラーリ
フェラーリがクアルコムとの提携を発表!クアルコムの株価は上昇、ただしボクはもう昨年末にクアルコム株を売っちゃったよ・・・

| ちょっとクアルコムの株を売るのが早すぎたな | クアルコムはこの調子だと「自動車業界の標準」となりそうだ さて、フェラーリがクアルコムとの提携を発表し、市販車とF1含むレーシングカーの両方にて(ク ...

続きを見る

フェラーリは現在数少ない「独立系」自動車メーカー

なお、フェラーリはもともとフィアットの出資を受けた時代(1960年代)からしばらくフィアット・クライスラー・オートモビルズ(現ステランティス)傘下にあり、2014年にはニューヨーク証券取引所へと記念すべきIPO(新規株式上場)を行っています。

この時点では、一般向けに売り出された株式は(発行済株式の)10%のみで、他の10%は(エンツォ・フェラーリからの譲渡にて)エンツォ・フェラーリの実子であるピエロ・フェラーリが所有し、残りの80%がフィアット・クライスラー・オートモビルズ保有のまま、ただし一部は主要株主に分配されることに。

フェラーリ
エンツォ・フェラーリ唯一の子孫、ピエロ・フェラーリが自身の所有するフェラーリ株をその子孫に残す手続きを開始。今後もフェラーリ一族はフェラーリの経営に関与

| ただし、フェラーリ一族といえど、現在の最大株主であるフィアット創業者一族に反対できないという密約付き | ピエロ・フェラーリはエンツォ・フェラーリの後継者にふさわしい人物だった さて、現在唯一の「 ...

続きを見る

よって上場したといえど実質的にはフィアット・クライスラー・オートモビルズの支配下にあったわけですが、2016年にはフィアット・クライスラー・オートモビルズが、自身の持つ株式の多くを(支配権を失うまでに)自由市場へと放出することでフィアット・クライスラー・オートモビルズの支配権から開放され、ここでフェラーリは50年ぶりに「自由」を得ています。

ただ、2023年2月の状況では、筆頭株主は24.4パーセントを保有するエクソール(Exor N.V.)で、これはフィアット創業者一族の経営するオランダの持ち株会社。

つまりフィアット・クライスラー・オートモビルズの手を離れたといえど、いぜんフィアット創業者一族の支配下にあるのは間違いなく、これはフェラーリの現会長がフィアット創業者一族であるジョン・エルカーンであることからもわかるかと思います。

ただ、フィアットが最初にフェラーリに出資したとき同様、フィアットはフェラーリに対して「お金は出すが、口は出さない」という理想的なパトロンでもあるので、現在のフェラーリは自由に、そして独立性と迅速な判断をもって経営を行うことができているわけですね。

フェラーリ

これからのフェラーリはどこへ向かうのか

現在フェラーリは継続してその業績を伸ばしていて、2022年には13,221台という記録を達成し、少し前にはかつての親会社(現ステランティス)の時価総額を追い越すことに。

今後の展開としてわかっているのは、まずマセラティへのエンジン(3.8リッターV8ツインターボ)供給を終了させることであり、これはマセラティが自社開発の3リッターV6”ネットゥーノ”の採用に絞ることが理由ですが、これもまたフェラーリの独立性を示す一つの事例なのかもしれません(以前はフェラーリとマセラティが同じグループ内にあったが、今はそうではない)。

加えて、このマセラティの新型V6エンジンとフェラーリのV6エンジンとの関係性がないことも強調されています(基本設計がそもそも異なる)。

フェラーリ「296GTBのV6はマセラティMC20のV6とはなんら関係性がない。フェラーリは何者の真似もしないし、他から何かを受け継ぐこともない」
フェラーリ「296GTBのV6はマセラティMC20のV6とはなんら関係性がない。フェラーリは何者の真似もしないし、他から何かを受け継ぐこともない」

| フェラーリの「コアバリュー」たるエンジンを他社と共同設計したとなると、さすがにエンツォ・フェラーリも墓から蘇って怒鳴りそう | 実際のところ、バンク角やタービンの配置は全く異なる さて、フェラーリ ...

続きを見る

そして今年はあと3つのニューモデルが発表される予定であり、まずはSF90VS(もしくはル・マン=Le Mans)とそのオープン版、さらには812スーパーファストの後継モデルがリリースされるものと見られていますが、ラフェラーリ後継となるハイパーカーもどこかの段階で発表されるとも言われていて、2025年にはフェラーリ初のピュアエレクトリックハイパーカーの発表も控えています。

そして2024年6月にはゼロエミッション車を組み立てる「e-ビルディング」が完成することにも言及されており、「エレクトリックモーター、バッテリーパック、インバーターなどの」中核部品の開発と生産が行われるほか、ここで車両の組み立ても行われると考えられます。

現在の予定では、2026年までというタームにて、「純粋なガソリンエンジン搭載するモデルは全体の40%、55%がハイブリッド、5%がEV」、2030年には「ガソリン車が20パーセント、ハイブリッドと電気自動車がそれぞれ40パーセント」という比率を計画しているものの、この計画についてもベネデット・ビーニャCEOは「大きな柔軟性を保ちたい」とコメントしており、社会情勢等にあわせて計画の変更があることも示唆しています。

Ferrari
フェラーリはEUのエンジン車延命(販売禁止撤回)を受け「我々は自由を得たのです。顧客にとっての選択肢が拡がり、内燃機関、HV、EVといった3つのパワートレインを提供します」

| ただし多くの自動車メーカーがこの措置を受け、戦略の見直しを考える必要が出てきそう | そして内燃機関の将来は「合成燃料(Eフューエル)」にかかっていると言っていい さて、EUが「エンジン搭載車の販 ...

続きを見る

合わせて読みたい、フェラーリ関連投稿

フェラーリ
フェラーリCEOの年収は7億4300万円!株主総会が開催され「2024年まで受注がいっぱい」「ガソリン車をあと何台か発売する」「それでもエレクトリック化推進」と発表

| V12エンジン搭載モデル以外をエレクトリック化することで、V12モデルの価値がいっそう高まる | 時代がどう変わろうともフェラーリの成長は揺るぎない さて、フェラーリの会長、ジョン・エルカーン氏が ...

続きを見る

フェラーリ
フェラーリがサムスンとの提携を発表!次世代フェラーリには同社の軽量なカーブOLEDディスプレイが搭載されることになりそうだ

| フェラーリはこれまでの常識を覆す形で「電子化」を推進することになりそうだ | そのスピードはランボルギーニやポルシェなどライバルとは比較にならないほど速いものとなるだろう さて、フェラーリがサムス ...

続きを見る

フェラーリ
フェラーリの株価は今年に入って34%上昇、かつての親会社であるステランティスの時価総額を上回る。そしてボクはまだまだフェラーリの株価が上がると考えている

| ちなみにボクの最大のポートフォリオの名称は「フェラーリ」である | 現在のフェラーリに「死角はない」と考えている さて、フェラーリの株価が今年に入って34%上昇し、時価総額が539億ドルに達して「 ...

続きを見る

参照:Automotive News Europe

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

->フェラーリ
-, , , ,