| フェラーリの「コアバリュー」たるエンジンを他社と共同設計したとなると、さすがにエンツォ・フェラーリも墓から蘇って怒鳴りそう |
実際のところ、バンク角やタービンの配置は全く異なる
さて、フェラーリは「初」の6気筒エンジン搭載モデル、296GTBを発表していますが、かねてより憶測を呼んでいたのが「296GTBのエンジンは、マセラティMC20に積まれる3リッターV6エンジンと同じではないか」。
この経緯としては、フェラーリがもともとマセラティ(クワトロポルテやグラントゥーリズモ等用として)にエンジンを供給していたこと、アルファロメオ・ジュリア・クアドリフォリオに積まれるV6エンジンがフェラーリのV8エンジンと高い共通性を持っていること(V8から2気筒を切り落としたと言っていい)が前提にあり、そのために「マセラティとフェラーリは、それぞれにV6エンジンを積むことを前提に、エンジンを共同開発したのではないか」という話が出てきたわけですね。
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現在、フェラーリは独立した自動車メーカーだが
なぜマセラティがフェラーリのエンジンを?という疑問があるかもしれませんが、マセラティは1993年にFCA(フィアット・クライスラー・オートモビル)傘下に入って、そこで1969年以降フィアットの管理下にあったフェラーリと技術のやり取りを開始し、これを機にフェラーリがエンジンをマセラティに供給、というのがその経緯。※現在、FCAはPSAと合併して新会社”ステランティス”へ
その後2015年にフェラーリは株式公開(IPO)を果たしていますが、このIPO自体が、「フェラーリ株式の多くを保有するフィアットの活動資金を確保するため」。
その後さらにFCAはフェラーリの株式を売却してフェラーリの支配権を手放すことになり(同時に多額の資金を手にした)、これによってフェラーリはFCAから事実上分離して独立しています。
ただ、フェラーリを実質的に支配するのはフィアット創業者一族であるアニエッリ家の持株会社「エクソール」。
フィアットももちろん同家によってコントロールされているので、FCAとフェラーリとは現在「別会社」ではあるものの、実質的な経営者は「一緒」と考えることも可能です。
参考までに、フェラーリの浮動株は67.09%、エクソール保有分が22.91%、ピエロ・フェラーリ氏(エンツォの次男で唯一の存命中の息子)の持ち分が10%。
加えて、マセラティがMC20のためにフィオラノ・サーキット(フェラーリの有するテストコース)を使用していることからも両者の関係は非常に深いと考えるのが自然です。
さらには、フェラーリ初のSUV「プロサングエ」はマセラティ・レヴァンテの外装を借りてテストを行う様子がたびたび目撃されていますね。
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「フェラーリは誰の真似もしない」
そこで本題となりますが、今回フェラーリの最高技術責任者、マイケル・ライターズ氏が語ったのが「フェラーリ296GTBのエンジンは、マセラティMC20のエンジンとはなんら関連性を持たない。フェラーリは誰かの真似をすることはないし、他社からなにかを引き継ぐこともない。これはフェラーリの伝統であり、なぜならそうする必要がないからだ」。
これは至極「もっとも」な話で、実際に両者のエンジンを比較してみると、マセラティMC20のエンジンは3,000cc、ボア88mm/ストローク82mm、出力は630馬力、Vバンクは90度。
一方でフェラーリ296GTBのエンジンは2,992cc、ボア88mm/ストローク82mm、出力は663馬力、Vバンクは120度。
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こうやって見ると、ボアとストロークこそ共通ではあるものの、そもそもVバンクが異なり、ターボチャージャーの位置も異なる(フェラーリはホットV、マセラティは両バンク外)ため、やはり両者に共通性はないと考えるのが妥当かと思います。
フェラーリは自社のプレスリリースにおいて真っ先にエンジンについて述べる会社であり(他の自動車メーカーはまず環境性能について述べる)、それだけエンジンに重きを置いているということになりますが、そのエンジンを他社と共同開発となると、エンツォ・フェラーリも怒りのあまりあの世から蘇るのかもしれません。
参考までに、エンツォ・フェラーリは存命中、「エアロダイナミクスなんぞは、エンジンの設計ができない奴がやるもんだ」とも言い放っていますね。
参照:Autocar