
| 【2025年時点の最新動向】各メーカーの量産計画に疑問符、普及にはさらに5年? |
中国自動車フォーラムで専門家が指摘、「4つの重大課題」
次世代の「理想のバッテリー」として期待されるソリッドステート(全固体)バッテリー。
高エネルギー密度、高速充電、安全性といった特長を備えながら、実際の量産・搭載が想定よりも大幅に遅れる可能性が指摘されています。
なお、現時点における「想定」すらも当初の予定よりも大きく遅れており、このソリッドステートバッテリーが話題となり始めた頃は「2020年には実用化される」という内容であったと記憶しています。
ただしそこから実用化が大きく伸びて現在に至っていて、この状況を考慮して「そもそも全固体電池の実用化は不可能」「もっと実用化が先になることを見越し、過渡的技術を応用した次世代バッテリーの開発を行うほうが現実的」という話が出ているのが現在の状況でもあるわけですね。
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現時点で中国は「バッテリー製造の最先端」である
そこで今回開催された「中国自動車フォーラム」にて、中国汽車技術研究センターの主任科学者・王芳氏が「ソリッドステートバッテリーが直面する4つの技術的障壁を次のように指摘」することとなったのですが、中国は現在バッテリーの生産や技術においては「最先端」を走っており、よってこの指摘は「的を射ている」のかもしれません。
- イオン伝導経路の不明確さ
- 製造プロセスの複雑さ
- 安全制御の未確立
- 大量生産体制の未整備
これらは、材料・技術・コストの各面で未解決な問題であり、短期的な解決は困難と見られています。
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EV用バッテリーシェアNo.1のCATLが「ソリッドステート(全固体)技術はEV業界が考える特効薬ではない」と衝撃発言。実現の難しさ、その危険性について言及
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【各社の量産計画一覧】2026年〜2030年が目標も現実は厳しい?
参考までに、現時点での大手自動車メーカーの「ソリッドステートバッテリー実用化」スケジュールはこういった状況となっていて、現在の予定であっても中国が他の国の自動車メーカーに先んじていることがわかりますね。
自動車メーカー | 計画 | バッテリーメーカー | 計画 |
---|---|---|---|
BYD | 2027年:デモ車、2030年:本格展開 | CATL | 2027年:小規模生産 |
Chery | 2026年:実証運用開始、2027年:市場投入 | CALB | 2028年:量産開始 |
トヨタ | 2030年:量産予定 | Penghui | 2026年見込み |
SAIC(上海汽車) | 2026年:量産計画 | Farasis | 2025年末:60Ah 硫化物型バッテリー量産 |
GAC(広州汽車) | 2026年:量産 | Talent New Energy | 2027年:バッチ生産 |
長安汽車 | 2026年:検証開始、2027年:量産化へ | EVE Energy | 2026年:量産、2028年:次世代投入 |
BMW | 2030年前:本格量産 | Svolt | 2030年以降 |
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メルセデス・ベンツがソリッドステートバッテリー(全固体電池)搭載プロトタイプの公道テストをついに開始。一回の満充電あたり航続距離は約1,000km、EV新時代の到来か
Mercedes-Benz | 現時点では多数のバッテリーメーカー、自動車メーカーがソリッドステートバッテリーの実用化に王手をかける | ただし「実現」できたとしても価格や生産ボリュームなどの課題も残 ...
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安全性に関する懸念:「一線を越えたら液体電池より危険」
王芳氏は「全固体電池は液体より安全性の“幅”は広いが、限界を超えると液体より危険になる」と指摘しており、近年EV火災の報道が相次ぐ中、メーカー各社は国の基準を上回る安全試験を実施しているものの、現時点ではラボレベルのデータに過ぎず、実車での検証は「まだまだこれから」という段階です。
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ソリッドステートバッテリー(全固体電池)でも中国が独走?チェリーに続きBYDが「2027年から市販車に搭載」と発表
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新たな競合技術:PHEVと急速充電でソリッドステートの必要性が低下?
なお、ソリッドステートバッテリーは一般に「リチウムイオンバッテリーの3倍のエネルギー密度を持つ」とされ、しかし現時点ではリチウムイオンバッテリーの性能も向上していて、PHEVやEREV(レンジエクステンダーEV)であれば「より安価に」ソリッドステートバッテリー同様の航続距離を実現できる例も登場しています(現在の中国では「1,000km無給油・無充電走行」がひとつの目安である)。
実際のところ、中国においても「より現実的な選択肢」としてPHEVやEREVが急成長しており、2025年上半期には前年同期比で以下のような増加を記録していることも明らかに。
種類 | 成長率(前年比) |
---|---|
BEV(純EV) | +42.5% |
PHEV(プラグインハイブリッド) | +5.1% |
EREV(航続距離延長型) | +26.2% |
NEV全体 | +28.3% |
また、BYDの「eプラットフォーム」やZeekr / Huaweiの1.5MW超急速充電、NIOのバッテリー交換ステーション(3,000拠点)といった代替技術の進化により、ソリッドステートバッテリーの「必然性」は後退しつつあり、この流れが続くならば、「研究開発費がかさみ、実用化できても高額な選択肢となるため、販売上のメリットもさほどない」であろうソリッドステートバッテリーの開発から撤退する例もあるかもしれません。
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コストは従来の3倍以上、「高級車専用装備」から脱却できるか?
コンサル企業「Battery Intelligence」によると、ソリッドステートバッテリーのコストは1,200元/kWh(約2.6万円/kWh)。
これは従来の液体リチウム電池の3倍以上に相当し、コスト面でのハードルは依然として高いままとなっていて、この価格が「現在の、EVに対する低い熱量しかない市場」で受け入れられるかどうかは大きな疑問として残ります。
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マセラティ「ソリッドステートバッテリー(全固体電池)は性能上の懸念があり、我々は使用しないことを決定した」。EVであっても各社各様の考え方があって面白い
| どうやらソリッドステートバッテリーは「一気にパワーを放出すること」に向いていないようだ | 一方では軽量性や安全性、密度に優れるというメリットも さて、現在は多くの自動車メーカー、そしてバッテリー ...
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結論:5年以内の普及は「楽観的すぎる」?
いくつかの中国メディアによれば、これらの技術的・性能的・コスト的課題により、2026~2027年という各社の量産目標は実現が難しいという見方が強まっており、本格的な普及には、少なくともあと5年はかかるというのが一般的な予想です。
そして技術の進歩著しい現在、「5年」先にはまた自動車を取り巻く環境、そして既存バッテリーに関する技術、もちろんソリッドバッテリーに関する技術もなんらかの変化を迎えているのかもしれません。
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バッテリー製造最大手、CATLが「電動旅客機も実現できる」新型蓄電池の実用化を発表!ソリッドステートバッテリーの実用化前にそれ以上の性能を実現できそうだ
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参照:CarNewsChina