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マツダが世界を変えるはずだった「SKYACTIV-X」とは一体何だったのか?採用車種の拡大が進まず販売比率も低いまま、米国市場には導入されておらずコストを回収できない可能性も

2024/02/19

マツダが世界を変えるはずだった「SKYACTIV-X」とは一体何だったのか?採用車種の拡大が進まず販売比率も低いまま、米国市場には導入されておらずコストを回収できない可能性も

| もしスカイアクディブXが触れ込み通りの性能であれば、実際に世界は変わっていたのかもしれない |

しかしそれでもコストが高く、総合的なコストパフォーマンスはハイブリッドに劣る可能性も

さて、マツダはおよそ6年前の2018年に「内燃機関に革命をもたらす」と約束された新技術を採用したエンジン、「SKYACTIV-X」を発表していますが、これが最近になって「結局何だったのか」「マツダによる欺瞞だったのではないか」という声が上がっているもよう。

なお、このスカイアクティブXについては、「ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとのいいとこ取り」「熱効率を27%増加させて56%に引き上げ、一方では二酸化炭素排出量を25%引き下げる」「SKYACTIV-Gに比べて全域で10%以上、最大30%におよぶ大幅なトルク向上を実現」「燃費率はSKYACTIV-Gと比べ最大で20~30%程度改善」という触れ込みであったものの、実際には期待された性能が達成されていないこと、2リッターエンジンでしかスカイアクティブXが提供されていないこと、そして自動車市場としては世界二番目、そしてマツダにとってもシェア30%を占める米国にはスカイアクティブXが導入されていないことが指摘されています。

参考までに、SKYACTIV-Xエンジン(2リッター)は従来のSKYACTIV-Gエンジンと比較して出力が156馬力から(最新バージョンでは)190馬力へ(約22%向上)、欧州WLTPテストでは燃費が約10%向上、CO2排出量は約5%という結果にとどまっています。

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マツダのSKYACTIV-Xとはどういったエンジンなのか

マツダのSKYACTIV-Xエンジンはいわゆる予混合圧縮着火 (HCCI) エンジンの一種であり、これは自動車業界における数十年にわたる圧縮着火ガソリンエンジンの集大成ともいえるもので、このエンジンは排出ガスが少なく、ディーゼルに匹敵する燃費が期待できるというもの。

フォード、GM、日産、ホンダ、メルセデス・ベンツ、ヒョンデなどの大手自動車メーカーはこぞってHCCIエンジンのプロトタイプを開発し、米国エネルギー省もこの技術の研究に資金を提供したとされ、しかしそのほとんどが挫折し、ただしマツダはこの技術の実用化に成功した数少ない(もしかすると唯一の)自動車メーカーということに。

ガソリンエンジンは通常、”オットー サイクル”を実行することになり、ここではエンジンは点火プラグを使用し、吸気内で予混合された混合気、または直噴エンジンのように燃焼室自体で混合された混合気を点火(着火)しますが、 ディーゼルエンジンは”ディーゼルサイクル”で作動し、 圧縮自体が混合気の点火に必要な熱を発生するため、スパークプラグは必要ありません。

ディーゼルエンジンは、より高い圧縮比で運転できるため、ガソリンエンジンよりも効率が高くなります。 しかし、オットーサイクルは本質的にディーゼルサイクルよりも効率が良いので、より高い圧縮比で火花点火エンジンを稼働させることができれば、より効率が向上します。つまり、本質的には、”ガソリンの点火をどのようにして実現できるでしょうか。制限されるのは燃料の特性です。ディーゼルエンジンに近づけるにはどうすればよいのでしょうか?”ということです。

マーガレット ウールドリッジ教授(ミシガン大学機械工学プログラム)
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HCCIエンジンはガソリンを燃料に使用しますが、着火時にはスパークプラグの代わりに圧縮を使用し、非常に希薄な混合気を迅速かつ均一に点火するというディーゼルに似た動作をします。

混合気はガソリン エンジンとほぼ同じ方法で生成され、ディーゼル エンジンのような不均一な給気ではなく均一な給気を生成するわけですね。

HCCIエンジン内の空気の量に比べて燃料の燃焼量が少ないため、燃焼温度は比較的低いままです。 つまり、エンジンが生成する窒素酸化物と二酸化炭素 (総称して NOx) は少量のみです。 また、装入物は十分に混合されており、過剰な燃料が含まれていないため、燃焼によって発生するすす状粒子は少量のみです。 エンジン効率が高いのは、HCCI燃焼プロセスにより、ディーゼルに似た高い圧縮比 (燃焼燃料単位あたりにより多くの出力を生成) が使用できること、およびディーゼルと同様に、HCCI エンジンが吸気絞りを使用せずに負荷要求を満たすことができるためです。 いわゆる呼吸損失をなくします。

Scientific American
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ただ、ここで大きな問題が発生し、それは「HCCI燃焼は制御が難しく、非常に少数のパラメーターの範囲内でのみしか動作しない」ということ。

実際のところ、GMのHCCIエンジン試作機に関するレポートでは、「圧縮点火(着火)は1,000~3,000rpm の間でのみ利用可能であること、その帯域内であっても、ドライバーはアクセルペダルの操作に細心の注意を払う必要があること」について言及しています。

オットーサイクル・ガソリンエンジンは点火時期を制御するためにスパークを使用しますが、ディーゼルエンジンは同じ目的で燃料噴射を使用することになり、それぞれのエンジン型式においては「スパーク」「燃料噴射」が着火手段として正確に制御できるものの、HCCI エンジンで同様の精度を達成することは困難で、よって上述のGMのエンジンのように、一定回転数では圧縮点火(着火)を利用するものの、それ以外では従来のスパーク点火を用いるという”切り替え”が必要となってくるわけですね。

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マツダはこの問題をどうやって解決したのか

そこで「マツダがどうやってこの問題を解決したのか」についてですが、この偉大なイノベーションの核は「スパークを使用して圧縮点火を制御するプロセス」にあり、これは火花点火制御圧縮着火 (SPCCI) と呼ばれ、当時発行されたプレスリリースでは以下のように説明がなされています。

<革新技術>
ガソリンと空気の混合気をピストンの圧縮によって自己着火させる燃焼技術(圧縮着火、Compression Ignition(CI))を世界で初めて実用化。
マツダ独自の燃焼方式「SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)」(火花点火制御圧縮着火)によって、従来ガソリンエンジンにおける圧縮着火(CI)の実用化で課題となっていた、圧縮着火(CI)の成立範囲を拡大することで、火花点火と圧縮着火(CI)のシームレスな切り替えを実現。
<特長>
ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの特長を融合した、新しいマツダ独自の内燃機関であり、優れた環境性能と出力・動力性能を妥協なく両立。
圧縮着火(CI)によるこれまでにないエンジンレスポンスの良さと、燃費改善目的で装備したエア供給機能を活用し、現行の「SKYACTIV-G」に比べて全域で10%以上、最大30%におよぶ大幅なトルク向上を実現。
圧縮着火(CI)で可能となるスーパーリーン燃焼によって、エンジン単体の燃費率は現行の「SKYACTIV-G」と比べて最大で20~30%程度改善。2008年時点の同一排気量の当社ガソリンエンジンから、35~45%の改善。最新の「SKYACTIV-D」と同等以上の燃費率を実現。
低燃費率領域が極めて広いエンジン特性によるギア比選定の自由度の大幅拡大により、走りと燃費を高次元で両立。

MAZDA

マツダは今後、どこへ向かうのか

そしてこの理論を実行するには非常に多くの、そして複雑なハードウェアが必要で、筒内圧センサーがシリンダー内部の状態を常に監視し、ディーゼルのような超高圧燃料噴射システムが燃料を正確に計測することになるのですが、(出力向上が主目的ではなく)マツダは理想的な比率である 14.7:1 の最大2倍まで混合気を希薄化するため、クラッチ式ルーツ型スーパーチャージャーを使用しています。

ただ、上述の通り、現時点では「2リッター」でしかSKYACTIV-Xエンジンが提供されず、これを搭載する車両の価格は(SKYACTIV-Gに比較して)8%ほど高く(日本だと約70万円くらい高い)、実際の馬力や燃費、環境性能を考慮すると「許容できる範囲ではない」という意見が出ているのもまた事実。

さらに、現実的にはSKYACTIV-Xエンジン搭載車の販売比率はワールドワイドだと5%程度に留まるという統計もあり、マツダは投じたコストを回収できていないという指摘もあるもよう。

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しかしながらマツダとしても「せっかく開発した」技術をこのまま捨て去るつもりはないと見え、SKYACTIV-Xの6気筒版を開発中という報道も散見されますが、「得られる結果」としては高価なSKYACTIV-Xエンジンではなく、(より簡素でコストが安い)アトキンソンサイクルやミラーサイクルエンジンを使用し、これにハイブリッドシステムを組み合わせたほうがいいのかもしれません。

マツダは「ロータリーエンジンの市販車搭載に成功した」唯一のメジャー自動車メーカーであり、今回のSPCCIしかり、「エンジンに掛ける情熱」は高く評価されるべきではあるものの、その戦略はマツダの生産規模と財務状況に見合っていない可能性が高く、かつ市場動向ともやや乖離している可能性も。

ただしまだまだ自動車業界における状況は流動的であり、「時代に逆行している」と非難を浴びたトヨタが「現実的には唯一とも言うべき勝者」となったように、マツダもまた自身の戦略が正しかったということを証明する日が来るのかもしれません。

ちなみにですが、ぼくとしてはマツダはもっとスポーツカーを作るべきだと考えていて、というのもマツダのクルマで評価されているのは過去の例を見ても「スポーツカー」だから。

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もちろんスポーツカーが斜陽となっているのは百も承知ですが、スポーツカーは宣伝効果が非常に高く、トヨタが「退屈なクルマを作る自動車メーカー」から「プレミアムを乗せて転売されるようになるクルマを作る自動車メーカー」へと変貌を遂げたのも豊田章男氏率いる”GR”ブランドが数々の話題を提供したからだと考えており、よってまずマツダは世界に誇れるスポーツカーを作り、そのイメージや技術をほかの「実利につながる」コンパクトカーやSUVに転用することでブランディングを行うべきではないか、とも考えています。

同じようにコストを投じるのであれば、いつの日か古くなり廃れてしまう”技術”よりも、ずっと人々の”記憶”に残るスポーツカーに対してであるべきだと考えていて、まさに日産GT-Rがまさにそうであり、GT-Rは日産のイメージを支えるひとつの柱であるとも認識しているわけですが、要は「そこに盛り込まれる技術」よりも、「その技術をもって何を成し遂げたか」を強い印象として世の中に残すべきなのかもしれません(メカニズムどうこうよりも、ニュルブルクリンクでぶっちぎりの1番になった、というほうがインパクトがある)。

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参照:Motor1, Mazda(UK), Autonews, etc.

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