| フィードバックがないクルマを走らせるということは、いうなればゲームの中でクルマを運転しているような感じになってしまうのかも |
一般道では問題ないかもしれないが、サーキットでは「クルマからのフィードバック」は非常に重要である
さて、EVは「とんでもなく馬力を上げたり、気分が悪くなるほどの凄まじい加速」を実現でき、一見するとハイパフォーマンスカーと相性が良いように見えるものの、いくつかは(現時点での技術レベルにおいて)相容れない部分があり、一つはその「重量」、そしてもうひとつは「(クルマからの)インフォーメーション」。
今回BMW M社のCEO、フランク・ファン・ミール氏が後者について意見を述べ、「MモデルのEVがドライバーとコミュニケーションを取る方法として、ギアのシミュレーション、音響的な合図、振動フィードバックを検討している」とコメントしています。※ただ、実現するとしてもずっと先になるようだ
BMW Mの場合はあくまでも「より早く走るための手段」として
なお、そういった話を聞くと「またガソリンやマニュアル・トランスミッションへのノスタルジーか・・・」と思ってしまうのですが、BMW Mの場合はけしてそうではなく、真剣に、そして速く走ろうとするとそれらがどうしても必要だと考えているもよう。
フランク・ファン・ミールCEOによると、サーキットを走行しているとき、「ガソリン車では、エンジンの音や感触、ギアシフトの配置、レブインジケーターによって、クルマの計器に集中しなくても、ドライバーが、限界域でクルマが何をしているかを知ることができるが、EVはそうではない」。
現時点でEVだと「速度計」くらいしかクルマの状態を知らせる指標はなく、しかし「回転数」を示すことが出来るものの、エレクトリックモーターの示す回転数は「ガソリンエンジンにおいて、ピークパワーを引き出すための重要な指標としての回転数」とは異なる”単なる数字”にとどまっていて、その回転数を維持するためにシフトチェンジを行うといったこともなく(多くの場合、EVはギアを備えない1速仕様である)、さらに回転数にもとらわれず(エレクトリックモーターは)ピークトルクを放出することが可能です。
そういったエレクトリックパワートレーンを搭載した場合、どうやってドライバーへと「限界域においてクルマが何をしているのか、どういった状態にあるのか」を知らせるために”ギアのシミュレーション、音響的な合図、振動フィードバック”を検討している”というのがBMWの真意であり、そうやって聞くと「なるほどな」と思ったり。
いうなれば「とんでもなく速いエレクトリックスポーツカー」を運転したとしても、フィードバックが少ないために「それはゲームの中でクルマをドライブしているような感じ」であり、限界域での挙動を感じにくかったり、クルマとの対話によって次の動作に移るということが難しいのかもしれません。
いくつか「EVにガソリン車のロジック」をもたせる例も
参考までに、先日発表されたヒョンデ・アイオニック Nにも「ガソリン車の挙動を再現した」デバイスが搭載されていて、(EVなので)トランスミッションを持たない1速仕様ではあるものの、ソフトウエアの制御にて8速デュアルクラッチ・トランスミッションと同じフィーリングを再現し、さらにはNアクティブサウンド+と連動してドライバーへとフィードバックを与えるという仕組みを持っています。
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意外なことではありますが、人間というのはけっこう様々なフィードバックに「騙される」こともあり、たとえばアクセルを踏んでから加速し、一定の速度に達するまでの時間(つまり数値)が同じ2台のクルマがあるとして(仮にAとBとする)、Aではアクセルを踏んだ瞬間に爆音が出て、Bでは速度が上がるにつてエキゾーストサウンドが大きくなるといった制御がなされた場合、Aとのほうが「圧倒的に速い」と感じることも。
つまりそれくらいフィードバックというのは重要であり、とくにサーキットにおいて限界走行をしている場合など、EVのインフォテイメントスクリーンを見ている暇などはなく、よってBMWは「感覚に訴えかけ、直感的に判断できる」フィードバックを検討しているのかもしれません。
ちなみにですが、少し意図は違うかもしれないものの、フェラーリも(おそらくEV向けとして)インタラクティブなインフォーメーションの表示方法を特許として申請していて、ハイパフォーマンスカーの領域においては「どうやって(ガソリン車にあってEVにない)情報を補完してゆくか」という課題に頭を悩ませているのだと考えることも可能です。※そしてこれらは、SUVやサルーンには無関係の問題であり、あくまでもハイパフォーマンスカーに限られる問題だと思われる
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もう一つ参考までに、トヨタは「フェイクMT」の開発を進めており、こちらは「楽しさ追求のため」だと捉えていたものの、もしかするとBMWのように「ドライバーに対し、スポーツ走行時に不可欠な情報を与えるため」という意図があるのかもしれません。
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ただ、ぼくとしては「EVは出力特性が基本的にガソリン車と異なり、かつ駆動方法も(クワッドモーターなど)ガソリン車とは全く違うものが出てきたり、かつ重量バランスも違う」と捉えていて、となるとEVを無理にガソリン車の基準に合わせる必要もなく、EVはEVとしての新しいスタンダードを作っていったほうがいいんじゃないかとも考えています(でないと、将来的に、ガソリン車に乗ったことがない人にとっては無意味かつ難解な制御が行われることにもなりかねない。MTを運転したことがない人にはある種のことが絶対に理解できないのと同様に)。
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