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ロールス・ロイスとベントレー:かつては同門、しかし袂を分かつことで双璧をなすようになった英国高級車の知られざる歴史と違いとは

ロールス・ロイスとベントレー:かつては同門、しかし袂を分かつことで双璧をなすようになった英国高級車の知られざる歴史と違いとは

Image:Rolls-Royce

| はじめに:英国高級車の二巨頭、ロールス・ロイスとベントレー |

かつて両ブランドは「70年以上も」同じ企業による「異なるブランド」であった

自動車の世界には、ただの移動手段を超えた「芸術品」と呼べる存在があり、その代表格が英国が誇る最高級ブランドである、ロールス・ロイスとベントレー。

どちらも圧倒的な存在感と比類なき乗り心地で、世界中のセレブリティを魅了し続けていますが、同じ英国の高級車ブランドということで、一般には「区別がつきにくい」「両者の立ち位置がはっきりしない」という意見も聞かれるのが実情です。

実際のところ、この二つのブランドには、深い歴史的な繋がりがあり、かつては同じ道を歩んでいたことがあり、それが両者のポジションを「ややこしく」しているのかもしれません。

ここでそれぞれのブランドが辿ってきた道のりを踏まえ、現在の両者の違いはどこにあるのか、ロールス・ロイスとベントレーの知られざる歴史と明確な相違を考察してゆきたいと思います。

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ロールス・ロイスとベントレー、かつての蜜月と現在の分離

多くの人が「ロールス・ロイスは究極のラグジュアリー、ベントレーはスポーティなラグジュアリー」といったイメージを持っているかもしれません。

この認識は、現在の両者の立ち位置を的確に表していますが、その背景には複雑な歴史があります。

共通の歴史:ロールス・ロイス傘下だったベントレー

驚くかもしれませんが、ベントレーは1931年から1998年まで、約70年近くにわたりロールス・ロイスの傘下にあったという歴史的背景を持っています。

W.O.ベントレーによって1919年に設立されたベントレーは、ル・マン24時間レースで数々の輝かしい勝利を収めるなど(ル・マン第一回目から参戦し、第2回目で総合優勝を飾っている)、高性能スポーツカーメーカーとしての地位を確立していたものの、世界恐慌の影響で経営危機に陥り、最終的にロールス・ロイスに買収されることになったわけですね。

この買収後、ベントレーはロールス・ロイスの兄弟ブランドとして、共通のシャシーやエンジンを使用しながらも、よりスポーティな味付けのモデルを開発する路線を歩むことになるのですが、この時代においては、「ロールス・ロイスはオーナーが後席に乗るクルマ、ベントレーはオーナーが自らステアリングを握るクルマ」という住み分けが自然と形成されてゆくことに。

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この物語はロールス・ロイスの歴史を抜きには語れない

そしてロールス・ロイスについて触れておくと、まずロールス・ロイスの物語は、二つの異なる才能、対極ともいえる出自を持つ2人が巡り合うことから始まります。

  • フレデリック・ヘンリー・ロイス (Frederick Henry Royce): 貧しい家庭に生まれながらも、卓越したエンジニアリングの才能を持つ人物でで、完璧主義者として知られ、自らが製造した電気部品の不具合に不満を抱き、より優れた自動車の製造を志す
  • チャールズ・スチュワート・ロールズ (Charles Stewart Rolls): 裕福な貴族の出身で、自動車販売会社を経営していたほか、熱心な自動車愛好家であり、レーシングドライバーとしても活躍していた

1904年、二人はマンチェスターで出会い、ロイスが設計した自動車にロールズが感銘を受け、彼らが共同で自動車を製造・販売することで合意し、そして1906年、正式にロールス・ロイス・リミテッド (Rolls-Royce Limited) が設立されることに。

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「世界最高の車」の誕生と拡大 (1907年 - 1930年代)

  • シルバーゴーストの成功 (1907年): 創業後すぐに発表された「40/50 HP」モデルは、その高い静粛性、優れた走行性能、そして驚くべき耐久性から「シルバーゴースト」と名付けられ、「世界最高の車 (The Best Car in the World)」と称賛され、このモデルが、ロールス・ロイスを最高級車ブランドとして世界に知らしめるきっかけとなります。
  • 航空用エンジンの開発: 第一次世界大戦が始まると、ロールス・ロイスはその高い技術力を活かし、航空用エンジンの開発にも着手し、特に、戦闘機「スピットファイア」などに搭載された「マーリンエンジン」は、第二次世界大戦におけるイギリスの勝利に大きく貢献し、「救国のマーリン」とまで呼ばれるほどとなり、この航空機エンジン事業は、自動車部門をしのぐほどの規模に成長していきます。
  • ベントレーの買収 (1931年): 世界恐慌の影響で経営危機に陥っていた、高性能スポーツカーメーカーのベントレーを傘下に収め、この買収により、ロールス・ロイスはベントレーをよりスポーティなラグジュアリーカーとして位置づけ、ブランドポートフォリオを拡大したわけですね。
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波乱の時代:倒産と部門分離 (1970年代)

  • 経営破綻と国有化 (1971年): 1960年代後半、航空機エンジンの開発プロジェクト「RB211」が失敗し、莫大な開発費が経営を圧迫。ロールス・ロイス・リミテッドは経営破綻し、イギリス政府によって国有化されることに。
  • 自動車部門と航空機部門の分離: 国有化後、経営再建のため、航空機エンジン部門は「ロールス・ロイス・ホールディングス」として、自動車部門は「ロールス・ロイス・モーターズ」として、それぞれ別の会社に分離され、これにより、自動車と航空機という全く異なる事業が独立して運営されることになります。

再度の売却とブランド争奪戦 (1980年代 - 1990年代)

  • ヴィッカース傘下へ: 1980年代には、自動車部門のロールス・ロイス・モーターズは、(ベントレーを抱えたまま)イギリスの重工業メーカーであるヴィッカースの傘下に入ります。

運命の分岐点:フォルクスワーゲンとBMWによる買収

BMWとフォルクスワーゲンの争奪戦 (1998年)

1990年代後半、ヴィッカースが(ベントレーを含む)ロールス・ロイス・モーターズの売却を決定すると、自動車業界の巨人であるBMWとフォルクスワーゲン(VW)の間で熾烈なブランド争奪戦が繰り広げられます。

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当初はBMWが買収に合意しますが、VWがより高額な買収額を提示し、ヴィッカースの株主はVWへの売却を決定することに。

しかし、この買収には大きな盲点があり、VWが買収したのは「ロールス・ロイス・モーターズ」という会社全体であり、そこにはベントレーの製造設備や技術、そして「フライング・レディ」や「パルテノン・グリル」といったデザインの意匠権が含まれていたものの、「ロールス・ロイス」という"ブランド名"と"ロゴ"の商標権は、航空機エンジンを製造する「ロールス・ロイス・ホールディングス」が保持しており、BMWがこの商標権の使用権を獲得していたという矛盾が生じます。

結果として、VWはロールス・ロイスの工場とベントレーを手に入れたにもかかわらず、「ロールス・ロイス」というブランド名でクルマを製造することができず、その一方、BMWはブランド名だけを手に入れ、クルマを製造する設備を持たないという、非常に複雑な状況が生まれたわけですね。

ブランドの最終的な分割(VWとBMWとの合意)

 この事態を解決するため、最終的に以下のような合意が形成されますが、この分割により、両ブランドは完全に独立した道を歩むことになり、それぞれの親会社であるフォルクスワーゲンとBMWという、全く異なる哲学を持つ自動車メーカーの影響を受け、その個性をより一層際立たせていくことになります。

  • 2003年まで: VWは、「ロールス・ロイス」と「ベントレー」の両ブランドで自動車を製造・販売する権利を保持
  • 2003年以降: 「ロールス・ロイス」ブランドの自動車製造・販売権はBMWが完全に取得し、VWはベントレーを専業で手掛けるこ
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こういった歴史的背景を見るに、もしかすると「ロールス・ロイスとベントレー」がまとめてフォルクスワーゲングループ、あるいはBMWグループへと移っていた可能性もあり、そうなると今日のロールス・ロイス、そしてベントレーとは異なる形で発展を遂げていたのかもしれません(現在とは異なる、その時間軸を見てみたいような気もするが)。

ロールス・ロイスとベントレー、現在の明確な違い

さて、歴史的な繋がりを理解した上で、現在のロールス・ロイスとベントレーがどのような違いを持っているのかを見ていきましょう。

ロールス・ロイス:究極の静粛性と「マジック・カーペット・ライド」

現在のロールス・ロイスは、BMWの最新技術を惜しみなく投入しながらも、創業以来の「究極の静粛性」と「マジック・カーペット・ライド」と称される極上の乗り心地を徹底的に追求しています。

  • デザイン: 威厳と品格を兼ね備えた、堂々たるエクステリア。パルテノン神殿を思わせるフロントグリルと、フライング・レディのオーナメントは唯一無二の存在感を放ちます。
  • インテリア: 最高級の素材と熟練の職人技による、まさに「走る応接室」。細部に至るまでこだわり抜かれた作り込みは、乗る者すべてに究極の安らぎを提供します。
  • ドライビング体験: エンジン音やロードノイズは極限まで抑えられ、まるで絨毯の上を滑るかのような滑らかな走りが特徴です。運転手が後席のオーナーのために気を遣う必要のない、至高の移動空間を提供します。
  • 電動化戦略:ハイブリッドを通り越して一気に「ピュアエレクトリックブランド」へ。もともとロールス・ロイスは「静かで快適なクルマ」を目指して作られており、V12エンジンを採用するのも「スムーズで静かだから」。実際に創業者も「インフラさえ整えば、ピュアエレクトリックのほうがいい」と100年以上前に述べていて、当初の目的と電動化は相性が良いものと思われます。
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ベントレー:伝統と革新が融合した「グランツーリスモ」

一方、ベントレーはフォルクスワーゲン・グループの一員として、ポルシェなどグループ内の技術も活用しながら、伝統的な「グランドツアラー」としての魅力を深化させています。

  • デザイン: エレガントでありながらも、筋肉質な力強さを感じさせるデザインが特徴です。特にコンチネンタルGTのようなモデルは、美しいクーペフォルムが人気です。
  • インテリア: ロールス・ロイスに劣らぬ上質な素材とクラフトマンシップに加え、最新のデジタル技術も積極的に取り入れています。スポーティさとラグジュアリーのバランスが絶妙です。
  • ドライビング体験: 高性能なエンジンと洗練されたシャシーにより、長距離移動でもドライバーが疲れにくい、快適かつダイナミックな走行性能を誇ります。自らステアリングを握り、ドライビングを楽しむオーナーに最適な選択肢です。
  • 電動化戦略:当初はロールス・ロイス同様に「ハイブリッドを通り越してピュアエレクトリックへ」と移行する戦略を掲げていたものの、顧客の意向、社会情勢を反映し「当面はハイブリッド中心」へ。これは「客層」がベントレーに対し、静粛性よりもパフォーマンスを求めているからだと思われます。
  • ベントレーの今後:ベントレーは2025年、新しいCEOと新しいデザイナーを獲得し”新しい時代”へと移行する準備を進めていますが、未来を示唆するコンセプトカーもすでに発表されており、いっそう「エレガントで力強く、パフォーマンス志向の」ブランドへと進化するものと思われます。
Bentley at GFoS 2025 - 2

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まとめ:それぞれの道を進む英国高級車の未来

かつては同じ屋根の下にいたロールス・ロイスとベントレー。

現在はそれぞれ異なる親会社のもと、独自のブランド戦略を展開しており、ロールス・ロイスは「究極のラグジュアリー」「人類が作りうる最高のクルマ」を追求し、ベントレーは「スポーティなグランドツアラー」としての地位を確立しています。

どちらのブランドも、その歴史と伝統を重んじながらも、電動化や自動運転といった次世代技術への対応も進めていますが、これからも、それぞれのブランドがどのような進化を遂げ、私たちを魅了し続けるのか、その動向を見守りたいところですね。

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