| フェラーリはとにかく「エンジン中心」でやってきた会社であった |
ある意味、これだけチャレンジングな会社もないであろう
さて、フェラーリはかつてその創業者であるエンツォ・フェラーリの「エンジンが強力であればレースで速く走れる」という信念のもと、ひたすら強力なエンジンを作ることに特化しており、実際にこれまでにいくつかの素晴らしいエンジンを世に送りだしています。
その一方、エンジンに固執するあまりエアロダイナミクス、サスペンション、ブレーキ、ホイールやエンジン搭載位置については保守的(というかほぼ関心がなかった)であったようで、ワイヤースポークホイールを使い続けたり、ドラムブレーキを採用しつづけ、F1に参戦するコンストラクターの中でミドシップに移行したのがほぼ「最後の部類」だとされていますね。
フェラーリは2気筒、3気筒エンジンを開発していた
そしてフェラーリのエンジンに対する思い入れは現代の新型車に関するプレスリリースに見て取ることができ、多くの(主にドイツの)自動車メーカーのプレスリリースが「環境性能から」始まるのに対し、フェラーリのそれは「いかにそのクルマに積まれるエンジンが素晴らしいか」からはじまるのが通例となっているわけですが、かつては2気筒あるいは3気筒といった「フェラーリのイメージとはとうてい結びつかない」エンジンを本気で作っていたことも。
なお、フェラーリの(ディーノを除くと)ロードカーはこれまでV8とV12エンジンの採用例しかなく、そこへ296GTB / 296GTSが加わることでV6がラインアップされるわけですが、レーシングカーにおいては様々な試みが行われており、その段階では様々なエンジンへの取り組み、紆余曲折、さらには興亡があったようです。
そこでまず紹介するのは1950年代に開発された、アウレリオ・ランプレディの手による「直列2気筒エンジン」(1950年代はじめから後半にかけフェラーリに在籍した。その後フィアットへ)。
アウレリオ・ランプレディはレーシングカーだけではなくロードカー用のエンジンも開発しており、1950年代には「時代遅れ」になりつつあったジョアッキーノ・コロンボが開発したV12エンジンに大きく手を加えた革新的なV12を考案し、こちらは225Sなどに積まれています。
そして当時、「F2レーシングカーがF1にも出場できるという規則」が存在したたため(1954年に消滅)、エンツォ・フェラーリは4気筒エンジンにも興味を持つようになり、自社のエンジニアへと「レース用4気筒エンジン」の開発を命じ、そこでアウレリオ・ランプレディは自然吸気DOHC 2.0リッターエンジンを開発し、このエンジンはウェーバー製キャブレターを2基を搭載し、当初は163馬力、最終的には185馬力を発生するに至ります。
これが搭載されたのが「フェラーリ500 F2(レーシングカー)」で、アルベルト・アスカリによるドライブでチャンピオンシップを獲得したことでも知られます。
そしてこの「4気筒エンジン」は1950年代を通じて活躍し、4気筒エンジンを搭載した最初のF1カーであるフェラーリ625 F1 から、その年のル・マン24時間レースで3位になった1956年の625LM、さらには860モンツァまで、フェラーリのさまざまなレーシングカーで採用されることに。
こういった4気筒エンジンの活躍を目にしたエンツォ・フェラーリが(驚くべきことに)「低速でツイスティなサーキットで強みを発揮するであろう」直列 2 気筒エンジンを開発するようアウレリオ・ランプレディに指示を出し、そこで誕生したのが「252 F1」と呼ばれる排気量2.5リッターの2気筒エンジン(ボアおよびストローク118mm x 114mm、出力173馬力)を積んだプロトタイプです。
ただしこのエンジンは4,800回転で最古出力を発生するというフレキシビリティを見せるものの、「エンジンのバランスが適切でなかったため」ベンチテストでクランクシャフトを破損してしまい、結果的にプロジェクトが中止され「4気筒へと」戻ってきたもよう。
フェラーリは199年代に「3気筒」エンジンの開発を行っていた
この後しばらくダウンサイジングの波は収まっていたものの、ロードカーであれば512TR、F355、F50、550マラネロが現役であった1994年、フェラーリはなぜか直列3気筒エンジンの開発を開始しており、しかしこれはそのまま世に送り出すものではなく、むしろ新技術の追求という意味合いがあったもよう。
これは「F134」と命名され、将来的には新しい2ストロークV6 エンジンへと発展させるために設計されたのだそう(つまりV6エンジンの片バンクのみを設計・製造しテストした)。
F134エンジンは(当寺のバイクの一部に使用されていた)1.3リットルの排気量を持ち、しかし「2ストローク」といった風変わりな仕様を持っていて、さらには(低回転でトルクを発生しにくい)2ストエンジンの弱点を克服すべくスーパーチャージャーを装備していたほか、ドライサンプ導入、キャブレターの廃止、ツインポート噴射の採用、カムシャフト制御による排気バルブ導入といった特徴を持っており、フェラーリがこの3気筒エンジンで最終目標としたのは、「2つのF 134 エンジンを共通のクランクシャフトで結合し、ロードカー用の2ストロークV6エンジンを生み出すこと」。
しかしながらこのF 134は(複雑な構造の割に)130 馬力しか出せず、推定出力は(V6時に)260馬力にとどまるため、フェラーリにとっては”理想からは程遠い”存在となってしまい、そのためにこのエンジンはお蔵入りとなってしまったようですね(この他、その複雑さゆえ当時の技術では量産が難しかったであろうことも指摘されている)。
そのほか、「画期的な(特徴的な)」エンジンとして、フェラーリは60年代半ばから90年代半ばにかけて、12気筒 DOHC設計を特徴とする一連のフラット12エンジンを生産したことがあり、この構成を最初に採用したのはティーポ207。
このティーポ207が「フラット12」であって「ボクサー12」ではないのは「同じクランクピンを介して接続されたコネクティングロッド」を持つことで、つまりピストンが一般的なボクサーエンジンのように反対方向ではなく同じ方向に動きます。
このエンジンは1973年から1976年にかけて365GT4BB 、さらに改良を受け512BB / 512BBi、テスタロッサ、512TRに採用されていますが、この「フラット12気筒」エンジンを開発した理由は「(おそらく時代の流れ、そしてランボルギーニへの対抗上)12気筒エンジンをリアに積みたかったものの、トランスミッションとの位置関係にて、従来のV12だと重心が高くなって島から」だとも言われていますね。
そしてもうひとつ特徴的なエンジンに触れておくと、「アルノー XI ハイドロプレーン」なるレーシングボートに搭載されるティーポ 375(V12)。
アウレリオ・ランプレディによって設計されたエンジンを大幅に改装し、排気量4.5リッター、ツインスーパーチャージャーとツインキャブレターを備えることで600馬力を絞り出し、往復平均最高速度241.7km/hにて航行してクラス最高速度を記録しています。
ちなみにですが、フェラーリはスピードボートを連想させる一連のティーザーキャンペーンを開始したものの、その後はなんら音沙汰がなく、こちらについても「革新的な」エンジンの搭載が期待されるところですね。
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参照:CARBUZZ