
| 「フェラーリという会社は誰のものか?」という問いの意外な答え |
そう多くはない金額にてボクらはフェラーリを所有できる
さて、フェラーリはエンツォ・フェラーリによって設立された自動車メーカーですが、2016年1月にはフェラーリの株式の大半が一般公開され、創業者一族の所有ではなくなっています。
よって、「フェラーリの現在のオーナーは誰なのか?」という問いへの答えはこうなります。
「フェラーリの株を持っていれば、“あなた”もフェラーリのオーナーのひとりです。」
フェラーリの資本の変遷はこうなっている
そこでフェラーリの「資本」「オーナー」の変遷についておおまかに述べてみると以下の通り。
1960年:株式会社化 フェラーリは1960年に株式会社化
1969年:フィアット傘下へ 創業者のエンツォ・フェラーリはレースへの投資を拡大し、財務状況が悪化したため、1969年にフィアットの傘下に入り、これにより、約47年間にわたるフィアットとの資本関係が始まることに(この際、フィアットはエンツォ・フェラーリが所有していたフェラーリの株式を50%取得し、エンツォ・フェラーリの株式所有比率は50%に下がっている)
2015年:ニューヨーク証券取引所(NYSE)上場(IPO) 2015年10月21日、フェラーリはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA、現在のStellantis)から独立する形で、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場。公開価格は1株あたり52ドル、そしてFCAはこの際にフェラーリの株式の10%を売却している
2016年:ミラノ証券取引所上場とFCAからの完全独立 2016年1月4日には、ミラノ証券取引所(MTA、現在のEuronext Milan)にも上場。FCAは残りの80%の株式を既存株主に割り当て、フェラーリはフィアットグループから完全に独立した企業へ
現在のフェラーリの株式構成はこうなっている
現在、フェラーリの発行済株式は1億9300万株だとされていますが、その構成は以下の通り。
つまり、今でもフェラーリ創業家とフィアット創業家(アニェッリ家)は深く関与しており、「一般株主が主体」とはいえ、彼らの影響力は無視できないということに。
参考までに、ピエロ・フェラーリが持つ株式には「議決権がない」とされ、ピエロ・フェラーリおよびその株式を引き継いだものは「アニエッリ家の意向に従わねばならない(反対してはならない)」という取り決めがあるようですね。
- 一般株主(パブリック):68.19%
- Exor N.V.(アニェッリ家):21.5%
- ピエロ・フェラーリ(エンツォ・フェラーリの息子):約10%
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エンツォ・フェラーリは「男の約束」を守る人物であった
エンツォ・フェラーリの死後(1998年8月14日)、ピエロ・フェラーリは遺言によってエンツォ・フェラーリの所有する株式の10%を相続していますが(残りはアニエッリ家に渡るという取り決めが最初からなされている)、興味深いのはその「10%」が度重なる増資によっても希薄化していないことで、これはやはり「ピエロ・フェラーリ(とその一族)の持つ株式を10%に維持することで、自分たちと同じ意向を持つ株主を10%確保できるから(支配力を維持したいから)」なのだと思われます。
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あるいは、エンツォ・フェラーリがアニエッリ家と「子孫の持つ株式を10%から希薄化させてはならぬ」というの取り決めを行っていた可能性もありますが、エンツォ・フェラーリはジャンニ・アニエッリと様々な約束を生前に交わしており、その中のひとつが「エンツォ・フェラーリが没した後、エンツォ・フェラーリが所有するフェラーリ株50%のうち、40%に相当する株式をアニエッリ家に、残り10%分をピエロ・フェラーリに」というものです。※1969年6月18日に交わされたという記録がある
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参考までに、フェラーリは1970年代に、それまで独立したコーチビルダーであったスカリエッティを買収していますが、その際にはスカリエッティ当主と「スカリエッティの看板はフェラーリの存続する限り守り続けること」という約束があったそうで、そのため現在でもスカリエッティは(いまではフェラーリの一部門であるにかかわらず)創業の地にてスカリエッティの看板を掲げたままフェラーリの車体を製造しているといい、エンツォ・フェラーリはその約束をしっかり守り、そしてその没後もまたその約束が「有効」であることには驚かされます。
このほかにも、エンツォ・フェラーリが決めたこと、そして当時エンツォ・フェラーリとなんらかの関係性があった人物との「約束」が今も守られ続けているという話についてはマラネッロにて複数の人物から聞かされていて(現地でエンツォ・フェラーリは崇拝の対象である)、このあたりは「マフィアのドン」、あるいはゴッドファーザーのように、エンツォ・フェラーリが情に厚く、そして死後なお消えることがない信頼を得ていたことがわかりますね。※ピニンファリーナやスカリエッティに敬意を示すモデルも発表するなど、自身の協力者には感謝を惜しまなかったようである。さらには「男と男の約束」は絶対かつ永久に守ったようだ
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実は「誰でも」フェラーリを買える
そこで今回の本題ですが、現在フェラーリの株式は一般公開されていて、現在の株価は「490ドル」。
これは上場時の52ドルに比較して9倍にも相当する数字であり、この10年ほどでここまでフェラーリが成長したということを同時に意味し、理論上ではこのフェラーリ株を買えば「フェラーリ(の一部)を所有している」ということに。
現在の為替レートだと、490ドルは約7万3000円ですが、7万3000円あればフェラーリの「1億9300万分の1」を所有しているということになり、立派なフェラーリ(という会社の)オーナーであるというわけですね。
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要は、フェラーリのクルマは非常に高額なので購入することは難しいものの、株主としてフェラーリという会社に関わることは誰にでも可能であり、マラネッロの赤き情熱の一部を持っていると考えると、そこにロマンを感じることができるかもしれません。
補足しておくと、フェラーリは継続して株主に配当を支払っている企業のひとつであり、これもまた「協力してくれる、フェラーリを支えてくれる」人や企業に恩を返すというエンツォ・フェラーリの信念が息づいているものだとも考えられます。
ここ数年だと、0.7%〜0.8%くらいの配当を年に一回株主に還元しており、直近だと(2025年4月22日に)1株あたり3.43ドルの配当があって、これは505円にとどまるものの、「自分はフェラーリの一部を所有し、そしてフェラーリがそれを認め、お金を還元してくれている」という事実はフェラーリファンにとってなにものにも代えがたい喜びなのかもしれませんね。
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