| フェラーリは新しい施設の稼働によって車両開発を効率化してコストを下げ、さらにはパーソナリゼーションを強化する意向を示している |
おそらくは限定モデルやワンオフモデルにもリソースが割かれるはずである
さて、フェラーリはつい先日、マラネッロに457,466平方フィートの新しい生産施設”E-ビルディング”をオープンしたと発表していますが、この「E」は「電化(Electric)」のEではなく、「進化(Evolution)、環境(Environment)、エネルギー(Energy)」の頭文字であるとコメントされています。
実際のところ、この新しい建物は環境に対して強く配慮しており、ニア・ゼロ・エネルギー・ビルディング=NZEBをほぼ実現しているとコメントされていますが、注目すべきはその生産能力で、既存の生産施設とあわせて20,000台の生産が可能となります(2023年の生産台数は14,000台弱であった)。
フェラーリは「台数」よりも「1台あたりの利益」を強化
そこで今回、フェラーリCEO、ベネデット・ビーニャ氏がロイター通信に語ったのが「(その生産能力にもかかわらず)より多くの自動車を製造するのではなく、この施設を使用して開発を迅速化し、自動車1台あたりの収益を増やす」という目標。
この「より多くの自動車を製造するのではなく」というのは、もちろんその排他性(希少性)を維持するためで、他の多くの自動車メーカーが目指す「できるだけ多くの台数を製造する」のとは全く逆の戦略です。
つまりフェラーリはその「~9台」という限定台数から見てもわかるとおり、常に「顧客が求めるよりも1台少なく作る」ことをそのモットーとしており、供給数を制限することでその価値を維持しているわけですね。
よってフェラーリは「生産/販売台数を(急激には)増やさない」という基本方針を持っていますが、それでも株式を公開している営利企業なので利益を増加させねばならず、そのための手段が「車種の増加」と「1台あたりの利益の増加」。
前者についてはプロサングエのような、これまでの車種とは競合しないモデルの追加により全体の販売台数を底上げすることが可能となり、さらには近年顕著になっている「クーペとオープン」両方のラインアップもこれに該当するかと思います※一方、販売台数は車種の増加に比例して増えているわけではないので、つまり1車種あたりの生産台数はむしろ減っており、これによって希少性が高まっているとも考えられる
そして後者は開発コストの低減、さらにはもちろん車両価格の引き上げ(もちろん付加価値の向上も伴う)、そしてオプション装着率の向上、さらには限定モデルの投入、ワンオフモデルの供給量増加ということに。
この建物により、市場投入までの時間や製品開発時間を短縮できます。つまり、(開発期間の短縮はコスト削減に直結するため)基本的に自動車1台あたりの収益が増えるということです。私たちは会社を成長させたいと思っていますが、それは取引量を増やすためではありません。私たちはより多くのツール、テクノロジーツールを持ちたいと思っています。クライアントのさらなるパーソナライズのニーズに対応するために、より柔軟に対応したいと考えているのです。
フェラーリCEO ベネデット・ヴィーニャ
なお、この「パーソナライズに対応」というのは現代のプレミアムカーにおいては非常に重要で、ロールス・ロイスやベントレーがこれによって大きくその収益を向上させていることが報じられていますが(ベントレーの場合、販売台数が減っているにも関わらず、そのパーソナリゼーションプログラム”マリナー”の利用率が向上したことで収益が増えている)、今後フェラーリはワンオフモデルの販売を加速させる可能性もあり、これもやはりロールス・ロイス、そしてブガッティが強化したいと考えている分野でもありますね。
加えてベネデット・ビーニャCEOは「この工場は、技術中立の原則を反映しています。私たちは、将来の自動車パワートレインに単一のソリューションはないと考えています。私たちの戦略は、3つ(ガソリンエンジン、ハイブリッド、ピュアエレクトリック)すべてに投資し続けることです」とも述べており、今回のE-ビルディング建設を境として、フェラーリは「量販車、限定車、ワンオフ」、そして様々なパワートレーンにおける開発と製造を一気に加速させることになるのかもしれません。
参考までに、ベネデット・ビーニャCEOは自動車業界には珍しい「電子業界出身のCEO」で、実際にマクラーレンやポルシェ、ランボルギーニ、アストンマーティン、ロールス・ロイス、ベントレーなどいずれのプレミアム/7ハイパフォーマンスカーメーカーのCEOも自動車業界の叩き上げです。
ただ、フェラーリの取締役会は特定の意図をもってベネデット・ビーニャ氏を異なる業界から引き抜いており、そしてその意図としては「クルマそのものをより良くすること」よりも「クルマづくりのプロセスそのものを根本から変えること」にあったのだと思われ、その観点からすると、ベネデット・ビーニャCEOは着実に自身に求められる役割を果たしつつある、とも考えられます。
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