
| 中国の「自動車スピード革命」が世界を揺るがす |
このスピードは果たして効率化なのか、それともリスクを伴う近道なのか
多くの欧米・日本の大手自動車メーカーが警戒する中、中国ブランドが急速に追い上げを見せていますが、これは「予想だにしなかった」状況です。
その背景にあるのは「中国の自動車メーカーの驚異的な成長速度」「新車の開発・発売速度向上」ですが、たとえばBYDやChery、Zeekrなどは、従来60ヶ月かかっていた新型車開発期間をわずか18ヶ月に短縮していることが明らかになっています。
従来の常識を覆す「開発18ヶ月」
なお、一般に新型車開発は4-5年を要するのが普通であり、日米欧の自動車メーカーだとこれが「業界標準」。
しかし中国の自動車メーカーでは「平均18ヶ月」にとどまるといい、たとえばシャオミは「自動車業界へ新規参入してからわずか2年で」量産車の発売にこぎつけていて、この場合は「生産工場含め、全く経験のない状態から」のスタートであり、しかしこれは今の中国にとっては「とくに珍しくもなく、普通のこと」なのかもしれません。
- 欧米メーカー:平均開発期間は4〜5年(特にピックアップや商用車はもっと長い)
- 中国メーカー:たった18ヶ月で企画〜販売開始
- 例:Cheryは「Omoda 5」の欧州仕様を6週間でアップデート&出荷
参考までに、この「中国企業の展開の速さ」は今に始まったことではなく、たとえば(いまはもうみんな忘れてると思うけど)ハンドスピナー、セグウェイのような電動スケートボードが「一瞬で」溢れかえったことを思い出せば納得ができるかも(そして一瞬で消え去った。おそらくEV業界でも同じように多くの企業が消えるのだろう)。
中国企業はどうやって“そんなこと”ができるのか?
そこでまず「いったいなぜ中国の新興EVメーカーにとってそれが可能になるのか」を考えてみたいと思います。
ソフトウェア開発的アプローチ
- 完成度より「まず市場に出す」
- 不具合や改善点は消費者のフィードバックで対応
- シリコンバレーのスタートアップ的思考に近い
AI・仮想シミュレーションの活用
- 実車プロトタイプを省略し、VRやHIL(Hardware-in-the-loop)で検証
- Zeekr:20年分の設計データをAIで分析し部品共通化
- BYD:部品の75%を自社生産 → サプライヤー待ちリスク回避
これらのほか、「酷暑・冬季テストを簡略・省略」する例もあると聞いていますが、なによりも基本となるのは「他社に先んじられたら負け」「他者より先に出してナンボ」という基本思想なのかもしれません。
さらには「中国的・組織的特徴」も
さらに中国では(上述の通り)シリコンバレー的思想が根付いており、いわゆる「ベストエフォート型(最大限の努力はするが、失敗の可能性も許容)」を採用する場合が多く、とくに日本に多い「ギャランティー型(なにがあってもエラーが出ないように責任を持つ)」はほぼ皆無(そんなことをしていたら、製品を発売するころにはブームが収束しているか、市場を他社に抑えられチャンスを奪われてしまう)。
加えて多くの人口を抱える中国だけに「労働力を確保しやすい」「地方から安価な労働力を連れてくることができる」という特殊性も絡んでいると言われます。
加えて、中国は長らく「一党独裁」にて国を運営してきたという歴史があり、よって(ぼくが思うに)中国の「企業」においてもその性質が強く、民主的というよりは独裁によって会社が運営され、そして市場や会社が成長している段階において、その「独裁」はいい方向へと作用することが多いようですね(日米欧の企業では判断に数ヶ月かかるところ、中国企業ではその場で即決)。
中国独自の強み:「組織文化と構造」
- BYDの従業員数:約90万人(トヨタ+VWに匹敵)
- 週6日・1日12時間労働が一般的(低人件費+高稼働率)
- 階層の少ないフラットな組織 → 意思決定が爆速
中国企業の方針は「危険なショートカット」ではないのか?
確かにプロトタイプや長期実走テスト、耐久試験を省略するのはリスクが高いようにも見えます。
しかしCheryはすでにEuro NCAPで5つ星評価を取得しており、品質も国際基準に達してきているのが現実で、となるとここで思うのが「もはや多くのテストはシミュレーション上で完結するのでは」「日米欧の自動車メーカーは慣習にとらわれ、不要なことをやっているのではないか」。
もしそうだとすれば、これは「速度」だけではなく「コスト」にも影響し、中国企業は多くの面においてアドバンテージを確保しているということなのかもしれません。
日米欧の自動車メーカーはどう対抗?
現在中国の自動車メーカーは確実に世界を「侵食」しており、たとえばチェリーは2024年実績で「100カ国で110万台以上を販売」。
BYDも2030年までに販売台数の半数を国外へ輸出するという計画を打ち出しているほか、欧州と米国が設定する「関税」障壁をクリアするために現地生産を行うという計画を発表するメーカーも出ているという状況です。
つまり日米欧の自動車メーカーは「開発スピードとコストを改善しない限り」中国勢に市場を奪われてゆくだけとなる可能性も否定できず、こういった危機感からかフォルクスワーゲン、そしてアウディは中国現地企業と組むことによって「中国企業が持つ新型車開発ノウハウを吸収しようと」している段階です。
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