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テスラのシェアがさらに下落し「まるで袋叩きにあっているようだ」との報道。ただしEV市場の特殊性を理解しないと真実はなかなか見えてこないように思う

2023/10/15

テスラ

| シェアが下がっていることは間違いないが、EV市場はパイの取り合いではない |

他のメーカーがテスラと同じ台数を販売し、同じように成長し続け、利益を出し続けることができるかどうかはクエスチョンである

さて、アメリカ市場においてテスラのシェアが下落し続け、「袋叩きにあっているようだ」との報道。

2012年にテスラがモデルSを初めて発売したとき、市場に電気自動車はほぼ存在せず、「量産車」としては事実上日産リーフくらいであったわけですね。

そしてこの過去10年の間、テスラは他の新興EVメーカー、既存自動車メーカーのEVに対して大きく優位性を保っていたものの、直近ではその地位に甘んじ、優位性を失っている、と報じられています。

テスラは「殆どのすべての自動車メーカーからターゲットにされている」

モデルSの発売以来、多くの自動車メーカーがテスラに「追いつけ、追い越せ」とばかりにテスラに対抗しうるEVの開発を行っており、ようやく数年ほど前から市場にはそれらEVが出回り始め、今年そして来年には一層多くのEVが市場に登場すると言われていますが、こういった「テスラをターゲットにしたEV」が大量に出現しテスラに挑戦する状況は「まるで袋叩き」。

テスラ自身の成長の冷え込みに加え、競合製品に対する需要の高まりがテスラのアメリカでのEV販売を圧迫し、同社のシェアが減少していると報じられているわけですね。

たとえば2023年上半期、テスラは大型モデルであるモデルXとモデルSに対して本格的なフェイスリフトを行ったにもかかわらず、その販売台数が大幅に落ち込んでおり、モデルSの登録台数は上半期に前年同期比で51%減少し、販売台数はわずか9,743台にとどまったうえ、モデルXの販売も18%減少することに。※一方モデル3の登録台数は19%増加し、モデルYの登録台数は95%増加

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今年7月末までの数字だと、より安価なモデルが大量に売れたおかげで実際の販売台数は着実に伸びているものの、前年比21%増(主にモデルYの伸びによる)という数字はテスラが過去に計上した数字よりもはるかに小さく、これは「他社がテスラのリードに徐々に追いつき、前年同期比で大幅な伸びを記録している」のとは真逆の状況です。

例えばシボレー・ボルトEVの2023年上半期の販売台数は昨年の11,774台から27,802台へと2倍以上に増加しており、フォルクスワーゲンID.4、ヒョンデ・アイオニック5も同様の販売台数の伸びを記録したうえ、BMW i4やリビアンR1Sのような新しいモデルは生産台数の増加に伴い、2023年に販売台数が急激に伸びることとなっています。

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最新のデータによると、テスラの北米市場シェアは現在わずか58%にとどまり、昨年のこの時期からは7ポイントの低下となっているそうですが、これは競争力の低下を意味するのかもしれません。

なお、この競争力の低下については「広告」戦略が大きく影響しているとも言われていて、というのもテスラは広告宣伝を行わないため。

つい最近はこの姿勢を変化させることについてイーロン・マスクCEOが言及したものの、実際のところ目に見える変化はなく、一方でゼネラルモーターズ(GM)は電気自動車の広告に多くの資金を費やしており、これによって(もちろんこれだけではありませんが)2023年の最初の8カ月間において、2022年と比較してEV登録台数が3倍近く伸びています。※シボレーは現在EV市場の6%を占める

テスラ
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ただ、新規参入組の販売がすべて増えているかというとそうではなく、たとえばフォードのシェアは2022年の7.1%から今年は5.3%に低下し、アメリカのEV覇権争いでは3位に沈むことに。

ちなみにヒョンデは4位、BMWは5位、リビアンは6位にランクされていて、昨年や過去10年間には存在しなかったプレーヤーが、今やこのスペースに大勢いるのは注目すべき事実かもしれません。

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果たしてテスラは競争力を失うのか?

こういった報道がなされているものの、ぼくはちょっと違う見方をしていて、現段階でシェアを落とすのは「問題ない」と考えています。

というのもガソリン車市場とは異なってEV市場は「パイの取り合い」ではなく成長過程にあり、シェアが落ちようとも販売台数を伸ばすことが可能です(実際テスラはそうなっている)。

加えて、今のEV市場にはハッチバックやピックアップトラックなどテスラが拾うことが出来なかったボディタイプが多数存在し、それらを求めていた顧客がテスラ以外の選択を行うのもまた当然だと思います。

よって、ここで見るべきはシェアではなく「何台販売したか」、そして「どれだけ利益を上げたか」、さらに言えば「継続して伸ばせたか」。

たとえばフォードのように一瞬販売を伸ばしたとしても、「1台売るごとに数百万円の赤字」が出たり、次の年に販売を落としてしまっては意味がなく、同じように今年伸ばしたGMは来年もさらに多くの台数を販売できないかもしれません。

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しかしながらテスラはこの状況においても販売を伸ばし続け、かつ利益を出し続けており、他の自動車メーカーがこれと同じことをできるかといえばそれは「甚だ疑問」。

そしてモデルSとモデルXについても、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、アウディ、BMWのみならずルシードまで参入してきた状況においてここにこだわる必要はなく、テスラとしては「EVへの理解が浸透し、EVが特別な乗り物ではなくなってきたいま」、より低価格のモデル3やモデルYにシフトするのは当然のことだと思われます。※テスラは先行者利益に甘んじていたわけではなく、様々な未来につながる取り組みを行っている

実際のところ、テスラの目標は「高価なEVを販売し、1台あたりの利益を最大化する」というメルセデス・ベンツはじめとするジャーマンスリーとは異なって「1台でも多く売り、そのためには全米でもっとも安価なEVを提供する」ことなので、これまでの自動車業界の尺度で測ってはならないのかもしれません(むしろ、モデルSやモデルXのシェアを獲得しようとなだれこんできた自動車メーカーのほうが危機的状況を迎えると考える)。

テスラ
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参照:Jalopnik

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