| ただしいずれの普及価格帯自動車メーカーは中国の自動車メーカーに「食われてしまう」危険性をはらんでいる |
おそらくはこの5年ほどで自動車業界の勢力図は大きく変わるだろう
さて、フォードが第2四半期決算説明会を開催し、その場で「EVの価格競争の中において、フォードブランドがどのような状況なのか」に関する最新の報告がなされ、まず要点を述べると「EVの普及には当初予想より時間がかかる」「要するに、あまりうまくいっていない」「状況をポジティブに捉えようと全力を尽くしている」ということで、つまりは計画どおりに進んでいないということになりそうです。
フォードはEVの販売につき、1台あたり450万円を失う
フォードは少し前にガソリン車事業とEV事業とを分割していますが、当初よりEV事業「モデルe」についてはすぐには黒字化できず、2023年には約30億ドルの赤字が出るという想定を行っています。
ただ、この想定が「甘かった」ことが今回のレポートにて明らかになっていて、第2四半期だけで18億ドルの損失を計上したこと、通年では45億ドルの損失を覚悟せねばならないという報告がなされることに。
なお、この損失額は「EV1台あたり32,000ドル(約450万円)」に相当するそうですが、この予想外の損失については、「テスラの値下げ」「中国市場における競争の激化」が直接の原因となっているのかもしれません。
フォードは「EVからPHEV/HVにシフト」
そして同じく第2四半期決算説明会にて説明がなされたのが「財政的な理由にて、EV製造の優先順位を下げ、ハイブリッド車の製造へと目標をシフトする」。
具体的には、2023年末までに年間60万台の電気自動車を生産するという以前の目標が「2024年に後ろ倒し」されることとなっていますが、2026年までに年間200万台のEVを生産するという長期目標については「無期限で延期」となっています。
EVの優先度を下げてハイブリッドの優先順位を上げるというのは完全に時代に逆行する流れではあるものの、フォードとしては「このままEV重視戦略を採用していては、損失が膨らむばかりで会社の経営が危うくなる」という判断を行ったのだと思われ、フォードのジム・ファーリーCEOいわく「以前の目標達成を急ぐ必要はない。EVの短期的な普及ペースは、予想よりも少し遅くなるだろう」。
参考までに、欧米の経営者の評価には「株価」も含まれ、よってジム・ファーリーCEOは「EVシフトを遅らせてでも会社の利益と株価を守る」という戦略を採用するものと考えてよく、しかし「EVへの対応遅れ」もまたマイナス材料には変わりないため、フォードの株価はこのところずっと「下がりっぱなし」という状況です。※黒字に達するには四半期あたり、およそ10万台の生産台数が必要だと言われる
しかしこういった状況はフォードのみではなく、GM、そしてステランティス、フォルクスワーゲンも同様であり、揃って「EVが売れない」と報じられていますが、その理由もやはり上述の通りテスラの値下げと中国の自動車メーカーの台頭。
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ただし比率で言えば「中国自動車メーカーの台頭」のほうがずっと頭が痛い問題だと思われ、もしかすると自動車産業は家電のように「中国製」に支配されることになるのかもしれません。
そして家電よりも悪いことに、自動車の場合だと、中国の工場は「自社ブランド」での展開を行っており、この点は「日米欧の家電メーカーが、製造元として中国の工場を活用する」のと全く異なっていて、つまり利害関係が相反するため、自動車メーカーにとっての中国の自動車工場はすなわち「脅威」でしかないわけですね。
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一方、トヨタやホンダ、マツダ、スバルといった日本勢は「EVに関して出遅れた」ことで(投資を回収できないという)ダメージはそれほど大きくないのかもしれませんが、最大の自動車市場である中国にて「EVに侵食される形で」既存ラインアップの販売を減らしてしまうこととなり、フォードやGM、ステランティス、VWとはまた異なる戦略を取る必要がありそうです。
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