| ただし実際にはテスラの価格帯にライバルは少なく、テスラの下の価格帯に大量にEVが投入されることでテスラのシェアが希薄化 |
そして現実的にはテスラの下の価格帯において多数の会社が消耗戦を戦っている
さて、現在様々な報道がなされているテスラ。
多くの報道で焦点を当てているのが「テスラの支配力がどれだけ続くのか」ということで、つまりテスラの優位性がどこまで継続するのか、ということ。
そして今回発表されたレポートによれば、テスラはその(EV業界における)シェアを比較的早い時期に失うだろうというもので、これによれば2年前のテスラは(北米における)EV全体の販売では75%のシェアを誇り、しかし今では65%、そして2025年には20%以下になるだろうというラディカルな予測を立てています。
やはり問題はその価格か
このレポートにおいて、そのシェアを失う最大の理由は「価格」だとしており、現在のテスラの中心価格帯は6万ドルに達していて(もっとも安価なモデルは46,900ドル)、もはや「普及価格帯」ではなくラグジュアリーカー/プレミアムカーセグメントに足を踏み入れているということを指摘。
一方でフォルクスワーゲンやヒョンデなどの大衆車ブランドは「テスラよりも下の」価格帯へのEV投入を進めており、これらの販売が増加することでテスラの市場支配力が薄くなってゆくだろうというのが今回のレポートの骨子です。
たしかに、北米市場ではないものの、中国において「宏光ミニEV」がテスラよりも多くの台数を販売し、これによってテスラのシェアが一気に減ったという事例がありましたが、これと似たようなケースが北米で起こる、ということなのでしょうね。
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加えて、EVが「一部の、環境意識の高い富裕層」が選ぶ乗り物だった時代も終わりを告げ、コモディティ化していることもこの傾向を加速化させてているものと思われ、レポートでは「消費者の選択肢とEVへの関心が高まっていることから、テスラが圧倒的な市場シェアを維持することは今後困難となるだろう」と結論づけています。
現在のEVにおけるシェアはどうなっているのか
そこで現時点での北米におけるEV販売のシェアについては下記の通り。
トータルで見るとリビアンの数字がけっこう大きいことに驚かされますが(VWと同じ)、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMWの数字が入っていないのはちょっと不思議で、数字が取れなかったのか、もしくは2%以下ということなのかもしれません(ただ、ポルシェのシェアが2%以下ということはないかと思う)。
ただしいずれにせよ、今後普及価格帯のEVが増えてくると、結果的にテスラの存在が希薄化されるであろうということはよくわかりますね。
順位 | EV販売シェア(トータル) | EV販売シェア(高級車) | EV販売シェア(普及車) |
1 | テスラ(65%) | テスラ(86%) | フォード(28%) |
2 | フォード(7%) | アウディ(3%) | キア(19%) |
3 | キア(5%) | リビアン(2%) | シボレー(16%) |
4 | シボレー(4%) | ポールスター(2%) | ヒョンデ(16%) |
5 | ヒョンデ(4%) | フォルクスワーゲン(8%) | |
6 | アウディ(2%) | 日産(7%) | |
7 | フォルクスワーゲン(2%) | ||
8 | リビアン(2%) |
テスラはメインストリームでの勝負を行っていない
そしてテスラの存在感が希薄化するもう一つの理由は「テスラが自社製品を投入しているのは、EVのメインストリーム、つまりボリュームゾーンではない」ということで、しかしボリュームゾーンにはフォード、キア、ヒョンデ、シボレー、フォルクスワーゲンが続々参戦し、そのためにこのゾーンは需要を喚起することにも成功していると考えられます。
加えてレポートでは、「2025年に、消費者が購入できるEVのモデル数は、現在の48から159にまで増加する」ということについても触れていて、これはテスラの生産能力増強よりも速いペースだと予測しており、テスラの戦いがますます厳しいものになるだろうとも述べていますが、どちらかというと苦戦を強いられるのはフォルクスワーゲンや日産、ヒョンデ、キアあたりかもしれず、これらは消耗戦へともつれ込む可能性もあり、そこでテスラが「高みの見物を決める」可能性もあって、まだまだ勝負の行方についてはわからないことも多そうですね。
さらに言うならば、多くの自動車メーカーがまだ「EVの生産を立ち上げたばかり」であり、目標を達成するために十分な量の電気自動車をどのように生産するかという目処が立っておらず、一方、テスラは、電気自動車に対する需要を活用するための準備がはるかに整っていて、その生産能力も日増しに増強中。
そしてテスラは「安価なEV」の投入を行う準備があり、モデル3の生産コストについては数年前の半分にまで下がっているとも報じられ、今後競争するにあたっての「余力」がかなり大きく、これは「今からコストを投じて新規車種を開発せねばならない」他社とは大きく異るところだと思います。※あまり話題にならないが、テスラは自前の充電網を持っていることはかなり大きなアドバンテージだと思う
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なお、今回調査を行ったS&P グローバルのモビリティ部門の担当アソシエイト・ディレクター、ステファニー・ブリンリー氏によれば、「しかし、テスラに同情する前に、このブランドはシェアが低下しても、販売台数が伸び続けるであろうことを認めなければなりません。2022年のEV市場はテスラ市場であり、競合他社が生産能力に縛られる限り、それは続くでしょう。さらに、2022年の最初の9ヶ月間に登録された52万5千台以上のEVのうち、34万台近くがテスラ(実際にはほとんどがモデル3とモデルY)です。残りの台数は、他の46のモデルで構成されで、非常に不均等に分けられています」。
テスラに関し、2023年にはモデル3のアップデート、さらにはサイバートラック投入が控えており、どこかの段階では「廉価版」EVの発売も考えられますが、もしかするとそれらによって駆逐されてしまう(競合他社の)車種が出るかもしれず、テスラに並ぶ、もしくはテスラを抜く自動車メーカーが登場する可能性は否定しないものの、逆にその姿を消すEVスタートアップもまた少なくはないだろうと考えています。
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