
| なぜ?販売不振のテスラ、新営業責任者に“技術畑”の幹部を抜擢 |
果たしてこの「賭け」に勝算はあるのか
さて、テスラは創業当初から他の自動車メーカーとは異なるアプローチを貫いており、その理由としては「テスラは自動車メーカーではなくテック企業である」というDNAが色濃く反映されているためだと思われます。
そして今回もまた、その哲学が現れたかのような異例の人事が行われ、内容としては「テスラ北米における新たな営業責任者として、IT部門出身のラジ・ジャガナサン(Raj Jegannathan)氏が任命された」というもので、つまり営業とは無関係のIT部門のスペシャリストが「なぜか」販売部門責任者に抜擢されており、当然ながらこの人事には業界内外から驚きの声が上がることに。
セールス経験ゼロ、それでも任命された理由とは?
ラジ・ジャガナサン氏は過去13年間、テスラで主に技術職を歴任し、クラウドセキュリティ、インターネットトラフィック、テキサスのデータセンター構築などに携わったとされ、最近ではAIインフラや情報セキュリティのVPを務めていた人物。
2022年、イーロン・マスク氏が買収したTwitter(現X)でも一時的に業務に関与した経歴があり、その後テスラの車両サービス部門の責任者としても活動していたと報じられています。
つまり、営業経験は一切なく、それでもこのポジションに抜擢された背景には、マスク氏の「非伝統的アプローチ」へのこだわりがある、とも(たしかにテスラは”車両の直販””ネット販売””無線アップデート”など業界の常識に反した取り組みを行い、しかし多くの自動車メーカーがこれに倣うといったトレンドを作り出している)。
テスラ内の混乱:ベテラン幹部の大量離脱
なお、この人事の背景には、営業および製造部門のキーパーソンの相次ぐ退任があるとされ、まずは以下のような重要人物が退社したことに端を発しているようですね。
- 15年間在籍したトロイ・ジョーンズ氏(前営業・サービスVP)が7月に退社
- 6月にはオメアド・アフシャー氏(北米・欧州の営業と製造担当)も退社
さらに、最近では次のような幹部たちも退社し、社内が大きな混乱、あるいは「頭脳流出」状態に陥っていると言われます。
- Optimusロボット部門責任者:ミラン・コヴァック氏
- バッテリー技術責任者:ヴィニート・メータ氏
- ソフトウェア部門責任者:デヴィッド・ラウ氏
販売不振の今、求められるのは「ブランドの再構築」
新任のジャガナサン氏には以下のような現場を改善するという極めて厳しいミッションが課されますが、この状況を変えるには、製品力だけでなく、マーケティングの刷新も不可欠で、さらに言えば、イーロン・マスク氏自身のブランドイメージの見直しも課題となりそうですね。
- ブランド全体の販売台数は前四半期に13%減少
- サイバートラックは期待の10分の1しか販売されていない
- CEO、イーロン・マスク氏の政治的発言やSNS上の活動が販売に影響を及ぼしている状況
「クルマの売り方は洗剤と同じ」?過去の成功事例に学べるか
参考までに、このような“非営業出身”の起用は過去にも例があるといい、1992年、GM(ゼネラルモーターズ)はP&G(プロクター&ギャンブル)出身のジョン・スマイル氏を会長に迎え、売上不振からの劇的なV字回復を果たしたことも。※BMWジャパンもまた、日用品の小売業界から社長を迎え、「日用品と高級車ではワケが違う」と言われながら業績を回復させたことがある
当時は「洗剤の売り方で車が売れるわけがない」と揶揄されたものの、新たなマーケティング手法の導入、ブランドマネジメント体制の強化により、わずか2年で赤字から過去最高益へと転換させたという事例もあるそうですが、ただしこの成功も一時的なものに終わってしまったといい、「製品そのものが進化しなければマーケティングは続かない」という教訓も業界に残しています。
モデルSやYの“マイナーチェンジ”では限界か?
現在のテスラにおけるラインアップは、モデルS(2012年デビュー)やモデルXなど設計の古さが目立つ車種が多く、モデル3やYのアップデートも小変更に留まっています(ただしモデル3/Yでは車体構造など見えない部分が大きく変わっている)。
この状況においては、新型ロードスター、次世代モデルラインアップなど、抜本的な製品刷新が求められており、ジャガナサン氏の営業改革だけでは限界があるかもしれません。
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参照:Reuters