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電動化の未来を見据えて取った行動のほとんどが「裏目に出てしまった」メルセデス・ベンツ。今回はEV向け新型プラットフォームの開発を中止したとの報道

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| ただしこの「プラットフォーム開発中止」によって最大で1兆円以上をコストカットできるようだ |

現在多くの自動車メーカーが「後戻り」「投資したコストを捨て去る」という判断を迫られている

さて、ドイツ発の報道によれば、「メルセデス・ベンツは、次世代EQEおよびEQSに採用されると期待されていた、新しい電気自動車用プラットフォームの開発を中止した」とのこと。

このプラットフォームは”MB.EAラージアーキテクチャ”と呼ばれていたもので、開発中止の理由はズバリ(ご推察の通り)「EQEとEQSの販売不振によるため」だとされ、新型プラットフォームの開発を中止する反面、メルセデス・ベンツは現行のEVA2プラットフォーム(EQE、EQE SUV、EQS、EQS SUVに使用される)を改良することでこれを使い続けるとしています。

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メルセデス・ベンツはこれによって最大で1兆円以上もの”節約”が可能

なお、現行プラットフォーム改良の内容については「システムを400Vから800Vへアップデート」そして航続距離を向上させるための「新しいバッテリー技術とエレクトリックモーターの導入」となり、驚くべきことにメルセデス・ベンツはMB.EA ラージプラットフォームの開発を中止することで40億ユーロ(現在の為替レートにて約6770億円)から60億ユーロ(同1兆150億円)を節約することが可能だとも伝えられています。

「プラットフォームひとつの開発を停止しただけで」最大1兆円ものコストを削減できるということからも「いかに電動化にお金がかかるか」ということがわかりますが、実際にメルセデス・ベンツは過去(2017年)にもすでに1兆円以上を短期的に投資していることが明らかになっているので、実際にここまで(EV事業に)お金が必要というのは間違いない事実なのかもしれません。

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参考までに、EV事業にて黒字に転換しているのは世界的に見てもテスラ、BYD、そして中国の2-3ブランドのみだとも言われていて、つまり既存自動車メーカーのEV事業、新興EVメーカーのほとんどは赤字ということになり、しかしメルセデス・ベンツやフォードのような既存自動車メーカーは「まだガソリン車があるので」EV事業の投資や赤字を許容できるのだとも考えられ(あるいはハイブリッドやPHEVへのシフトという選択肢も残されており)、まだ「マシ」な部類かのかもしれません。

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フォードは「EV1台の販売につき1550万円の赤字」。わずかしか売れないEVがガソリン車の利益を一瞬で奪い去り、未来だと思われたEVが業績の大きな「重し」に
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ただしこれ以上の赤字は許容できない

しかしながらメルセデス・ベンツにとってもこれ以上EV事業で赤字を拡大し続けるわけにもゆかず、よって電動化に関する計画を再構築中だとも報じられ、もちろん今回のMB.EA ラージプラットフォームの開発中止もその一環であり、先日伝えられた「2気筒エンジンをレンジエクステンダーとして使用するEV」のプロジェクト中止も同様かと思います。

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これに加え、ガソリン車に再注力することで全体としての利益を調整(EV事業の赤字を吸収)する計画も立案されており、メルセデス・ベンツは起亜自動車、ゼネラルモーターズ、JLRと同様にEV転換への野心をやや弱め、 2030年までに主要市場にて電気自動車のみを販売するという目標をもはや捨て去り、その代わりに2030年までにPHEVとEVの販売比率を50%に置くという新しい指標を掲げることに。

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今回のMB.EA ラージプラットフォームの開発中止に話を戻すと、この決定によって今後のメルセデス・ベンツにおけるEVプラットフォームは「次世代CLA、GLB、GLAクラスなどのエレクトリックおよび内燃機関搭載車用の小型車両向けMMAアーキテクチャ」「商用車向けのEAアーキテクチャ」「高性能電動AMGモデル向けにはAMG.EAアーキテクチャ」、そして「EQS、EQEに採用されるEVA2アーキテクチャ」へと集約されることになり(例外としては電動Gクラス用のラダーフレーム)、しばらくはこのままで電動化計画を賄うしかないのだと思われます。

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さらにメルセデス・ベンツは(これも他社同様)利益を確保しやすいPHEVに注力するとも報じられ、現行Sクラス、GLE、GLSの後継モデル(モデルチェンジもしくはフェイスリフトモデル)にもプラグインハイブリッドを設定し、Sクラスについてはフェイスリフトを繰り返しつつ、少なくとも2033年まで製造される可能性が示唆されています。

まさかここまで「EVが売れない」とはメルセデス・ベンツも想定していなかったのだとは思われますが、とくにメルセデス・ベンツの場合は「エンジンのダウンサイジング」「EVの販売台数を過大に設定し専用設計モデルを投入」「ガソリンエンジンの開発を終了させ、内燃機関に関連する従業員を電動パワートレーンの開発事業へと配置転換した」など様々な”先を見越したはずの”対応が裏目に出ており、「ここからどうするか」によってその真価が問われるのかもしれません。

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参照:Handelsblatt

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