| たしかに「歴史がない」中国勢に対抗するには伝統あるデザインの活用が有効である |
EVに関しては多くの自動車メーカーがその戦略を流動的に変更している
さて、ここ半年~1年ほどでEVおよび電動化を取り巻く環境にに大きな変化があり、ひとつは「ガソリンエンジンの再評価」。
数年前に予想していたほどバッテリー価格が下がらず、よってEVがいまだ高価な製品となっていることが前提にあり、そこへ昨今のインフレによって家計が圧迫されている今、ガソリン車よりもずっと高い金額を出してEVを購入しようという人が減っていて、多くの人がより安価な選択肢であるPHEVやハイブリッドに流れているわけですね。
つまり現在のところ「EVは消費者が求めるものではなく」、そういった製品を作り続けることがメーカーにとっても消費者にとっても「利益」とはならず、そこで現在自動車メーカーはより「消費者が求める」製品であるPHEVそしてハイブリッドへとシフト(あるいは回帰)しているというのが現状です。
EVのデザインも大きな転機を迎える
そしてのうひとつの変化が「EVのデザイン」。
EV登場初期は「(キャズム理論でいうところの)イノベーター」のみが購入していたため、そのイノベーターの自尊心を満足させるような奇抜なデザインや、明らかにガソリン車とは違うというデザインが(購入を決意させるのに)必要であったものの、その後アーリーアダプター、アーリーマジョリティへとその購買層が広がるにつけ、その独特のデザインが逆に足かせとなる場合が生じていると言われます。
よってこれを理由とし、現在発売されるEVは「それほど奇抜ではない、もしくはガソリン車と見分けがつかない」デザインを持っている場合が大半で、たとえばBMW、マセラティ(含むステランティス)などはその典型。
メルセデス・ベンツのEVも「ガソリン車に近く」
そこで今回報じられているのがメルセデス・ベンツの「翻意」であり、メルセデス・ベンツはこれまでEVとガソリン車とのデザインを大きく分けていたものの、現在はEVのデザインをガソリン車に「寄せて」います。
メルセデス・ベンツにてエクステリアデザイン責任者を務めるロバート・レスニック氏によると「将来のメルセデス・ベンツのEVはガソリンエンジンを搭載した同クラスのクルマからより多くのスタイリングのヒントを採用することになる」。
EQ シリーズの第一世代、つまりEQE / EQSセダンおよびSUVは、我々の顧客に「EVであること」を理解して貰う必要があったため、外観を(ガソリンエンジン搭載者とは)根本的に変える必要がありました。しかし、人々は今やEVに慣れているため、この差別化はすぐに廃れるでしょう。そしてある時点で、未来になればなるほど、私たちのEVはガソリン車と似ることになると思います。
つまりメルセデス・ベンツのEVは変革段階を迎えているわけですが、「未来に発売されるEV」が「過去の遺物」と見なされていたガソリン車のスタイリングに近づいてゆくのはなんとも皮肉な話であり、しかし実際に”(航続距離確保のために)エアロダイナミクスが非常に重要な”EVであるはずなのに、GクラスのEV版が「(空力的に不利な)ガソリン版Gクラス」の姿を模倣しているのはさらに皮肉な事実なのかもしれません。
-
メルセデス・ベンツが「電動ゲレンデ」、G580with EQテクノロジーを発表。すっきりした外観とクワッドモーターを持ち、しかしちゃんとラダーフレーム採用
| 新型メルセデス・ベンツ G 580 with EQ Technologyの出力は意外と抑えられた587馬力、航続距離は487km | 現時点ではメルセデス・ベンツG 580 with EQ Tec ...
続きを見る
加えて、直近で発表されたフェイスリフト版メルセデス・ベンツEQSは「ガソリン車のグリルを模したフロントデザイン」を持っており、メルセデス・ベンツが「最新EVにおいて、ガソリン世代へと先祖返りを果たす」のはまず間違いのないトレンドということに。
-
メルセデス・ベンツEQSがフェイスリフトにてまさかの「ガソリン車風」へと先祖返り。やはり斬新すぎるルックスはアッパーセグメントの客層に受けなかったのか
Mercedes-Benz | 消費者に受け入れられず「先祖返り」「普通になった」例は珍しくはない | しかしチャレンジなくしては前に進めず、メルセデス・ベンツが当初のEQSで行った挑戦は称賛されるべ ...
続きを見る
なぜメルセデス・ベンツは「ガソリン車を模倣」?
そしてこの「ガソリン車を模倣」するのにもいくつかの側面があり、ひとつは上述の通り「EVらしい奇抜なデザインが敬遠される傾向がある」からで、現時点での顧客は慣れ親しんだスタイリングを好むから。
たとえば電動版Gクラスを「全く新しいデザインで」発売し、それを「Gクラスです」とメルセデス・ベンツが言ったとして、顧客はそれについてくることができないというわけですね(つまり受け入れることができない)。※もちろん、十分に人気が確立された既存モデルのスタイリングを活用して販売を軌道に乗せるという意味もある。電動版Gクラスのデザイン時における一つの目標は「20メートル離れると、それがガソリン版Gクラスなのか電動版Gクラスなのか、区別できないようにすること」であったという
そして2つ目はちょっと興味深いもので、「現代のEVはどれも似たようなデザインになっているから」。
EV専用設計となることでAピラーが前に出てホイールベースが長くなって、空気抵抗を低減させるために丸い外観になり、さらにはドアハンドルもフラッシュマウント化され、グリルやヘッドライトもボディとツライチに、そしてヘッドライトは未来的なイメージを演出するために「細く長いLEDバーに」。
こういった特徴はここ最近で発表された中国車を見ると顕著でありますが、ロバート・レスニック氏は「電気自動車がどれも同じように見えるようになっている」ことに(そしてその中にメルセデス・ベンツのEVが埋没してしまうことに)危機感を抱いており、そのため同氏は以下のように語っています。
将来的に、電気自動車はどれも類似した外観を持つという危険性が存在します。そのため、我々はEVを展開するに際し、独特のスタイリングの手がかりを得るためとして、そのルーツを思い返す必要があるのです。メルセデス・ベンツには他のどのブランドよりも多くの4つの(パナメリカーナグリルやマイバッハなどの)象徴的なグリルが存在し、そして私たちはそれらを使用する必要があるのです。
一方、航続距離を確保するため、ホイールなど他の部分では徹底的に空力性能を追求することにも言及していますが、たしかに「雨後のタケノコ」のようにニョキニョキ発生してくる、そして歴史(=アイコンとなるデザイン)を持たない中国の自動車メーカーに対抗するには、過去の遺産を活用することがもっとも有効な手段なのかもしれません。※一方でホンダのように、EVに全く新しいデザインを採用し続ける例もあり、新時代に向けた戦略は各社各様である
あわせて読みたい、関連投稿
-
アルファロメオのデザイナー「将来はどのクルマもEVになるのだから、EVらしいデザインを今から採用しても意味がない。それよりも重要なのはアルファロメオらしいかどうかである」
| アルファロメオはそのCEOとデザイナーの変更により大きく方向性を変えようとしている | これからのアルファロメオには大きく期待 さて、アルファロメオのデザイン責任者、アレハンドロ・メソネロ=ロマノ ...
続きを見る
-
BMWはなぜ内燃機関とEVとでデザインを分けないのか?「デザインを分けることは、顧客の選択肢を狭めます。そもそもガソリンとディーゼルでも同じデザインですよね」
| こればっかりは各社の戦略に依存するものであり、どの手法が良い悪いという問題ではない | ただしBMWの言い分もよく理解はできる さて、BMWとメルセデス・ベンツ、アウディの3社は「ジャーマンスリー ...
続きを見る
-
ホンダが中国にて「Lingxi(リンシー)」ブランドから前衛的なデザインを持つEV「L」を発表。「E:NS2」「E:NP2」も発売しているのになぜこのクルマを?
| 中国では他の国と全く異なる展開が求められ、とにかく目先を変えた「多品種小ロット」展開が要求されるようだ | 厳しい中国国内での競争を勝ち抜くにはそれしかないのかも さて、ホンダが中国にて「Z世代の ...
続きを見る